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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第16話 ニーナエ迷宮上層
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 第二階層も、第一階層とまったく同じような構造だった。

 蜘蛛も一つのくぼみに一匹か二匹がいるだけだ。ただし、その大きさは、第一階層の倍ほども大きい。

「ふむ。これが斑蜘蛛の第二階梯か。能力は第一階梯と同じく〈弱毒〉か。ヘレス、何か特筆することは?」

「ない。第一階層と、能力は同じだ。体が大きくて、少しすばやい。糸をはく間隔も、第一階層の半分ほどだ」

 つまり、まったく大したことのない敵だ。

 二匹の蜘蛛がいるくぼみを、レカンは指さした。

「エダ。そこに降りろ」

「うん!」

「オレが指示するまで武器は抜くな。近距離で敵の攻撃をかわし続けるんだ」

「わかった」

「これは敵を引きつけ、動きをみきわめ、かわす訓練だ」

「りょーかいだよ」

「行け」

 エダは素晴らしい速度で坂を駆け下りた。

 一度至近距離に近づくと、二匹の蜘蛛はエダを追いかけはじめた。

 蜘蛛二匹のようすをみながら、後ろ向きでエダは逃げ続ける。蜘蛛に追いつかれない程度の速度を保ち、蜘蛛に挟まれないよう進路を工夫している。

(逃げ方がうまいな)

(きちんと敵の動きが予測できている)

 そのうち、蜘蛛が立ち止まってぷるぷる震え、糸をはいた。

 エダはじゅうぶんな余裕をもって、それをかわしている。というか、糸をはくとき蜘蛛は停止しているので、手持ちぶさたなようすだ。

「よし! 殺せ!」

 待ち構えたようにエダはショートソードを抜いて二匹の蜘蛛を殺し、魔石を取り出して坂を駆け上がった。

「はい、魔石」

「お前、斑蜘蛛とは戦ったことがあるのか?」

「いや。はじめてだよ」

「そうか」


5


 第三階層の魔獣は斑蜘蛛の第三階梯とやらで、〈弱毒〉を持っている。

 ちらりと魔獣をみたレカンは、この階層を素通りした。

 第四階層の魔獣は斑蜘蛛の第四階梯で、第五階層は斑蜘蛛の第五階梯だ。この二つの階層も素通りした。

 第六階層の魔獣は、斑蜘蛛の第一階梯変異種だ。〈弱毒〉と〈睡眠〉を持っている。

「へレス。次の第六階層の魔獣について説明してくれ」

「大きさは第一階層と同じだ。つまり第五階層より小さくなる。第一階梯変異種というのは、動きがこれまでと段違いに速い。小さくなる上に速度が増すから、はじめてここに来ると不覚をとる者が多い」

「なるほど。〈睡眠〉とは、どういう攻撃で、効果はどの程度だ」

「これが厄介なんだ。五歩くらいの距離に近づくと、ここの魔獣は〈睡眠〉を放ってくる。これは接触する必要がない種類の魔法攻撃であって、目を合わせたりしなくてもかけられる。かかると意識を失う。ただ、発動する前に体が特徴的な振動をするので、かけられる瞬間に素早く動けば、かからずにすむことがある」

「そんなめんどくさいことはしていられないな。あんたは抵抗装備を持ってるだろうな?」

「ああ」

「アリオス?」

「だいじょうぶです」

「よし、第六階層に入るぞ」

 第六階層に入ったレカンは、エダに命じた。

「エダ。そこのくぼみに降りて、魔獣を殺せ。ただし最初は回避に撤して、〈睡眠〉攻撃を受けてみるんだ」

「わかった!」

「レカン殿」

「うん? なんだ」

「エダ殿は、その、抵抗装備を持っているようにみえないのだが」

「ああ、こいつには装備はいらん。行け、エダ」

「行ってきまーす」

 エダはくぼみに降り、しばらく魔獣から逃げ回っていたが、やがて殺して魔石を持って帰ってきた。小さな魔石だ。

「どうだった?」

「全然だね。〈睡眠〉を使う魔獣だって聞いてなかったら、何されたかもわかんなかったかも。蜘蛛から飛んできた魔力が、するっと体の表面をなでて消えていく感じだったよ」

「そうか。ところで、へレス」

「何だろうか」

「この階層から急に冒険者の数が増えた。なぜだ」

「この階層から、蜘蛛がはく糸の質が、格段によくなるからだ。しかも階層ごとに特性がちがう。第六階層は、弾力のある糸で、第七階層は不燃性の糸、第八階層は非常に耐久力にすぐれ、第九階層は着色しやすい、そして第十階層は非常に美しい糸なのだ」

「なるほど。では第七階層から第九階層までは戦闘せずに降りる」

 歩いてゆくと、ほかの冒険者が戦っている場面をいくつかみかけた。

 檻のようなものを蜘蛛にかぶせて、離れてみまもっている冒険者が多かった。

「あれは何をしているんだ?」

「蜘蛛を檻に閉じ込めて、糸をはかせているのだ。はき尽くしたら殺す」

「なるほど。だが、あの冒険者たちは、みんな〈睡眠〉に抵抗できる装備を持っているのか?」

「いや。ここらあたりの階層にいる冒険者には、そんな高い装備は買えないことが多い。気付け薬の薬草を噛みながら蜘蛛に檻をかぶせていると思う」

 その後、第十階層でエダに戦闘をさせた。

 ここの蜘蛛はエダの腰ほどまでの大きさで、足もそれなりの長さがあったので、レカンはいつでも援護射撃できるように構えていた。

 だがエダは、飛びかかってくる蜘蛛を、ひょいと跳び上がってかわし、そのまま空中でショートソードを振った。その一撃で蜘蛛は死んでしまった。死体から迷いなく魔石を取り出すと、エダはレカンのもとに戻った。

「はいっ。魔石だよ」

「よくやった。どうして蜘蛛の急所がわかったんだ?」

「だって、心臓でしょ?」

「上出来だ。では次に、こっちのくぼみの蜘蛛を、ここから弓で倒せ」

「わかった!」

 エダは〈イシアの弓〉を出し、矢を出現させ、無造作に放った。

 その矢は蜘蛛の心臓を貫いたようで、たちまち蜘蛛は死んだ。

 じっとしていたから狙いやすかったのかもしれないが、くぼみの底までは相当の距離がある。高度な精密射撃だ。しかも心臓の位置を的確にみぬいた。

「エダ殿。なんと見事な腕だ」

「ほんとですね。これはすごい」

「えへへへへ」

「魔石を取ってこい」

「はいっ」

 エダが取ってきた魔石を受け取ると、レカンは言った。

「よし、休憩だ。食事にしよう」

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― 新着の感想 ―
蜘蛛に人間のような形の心臓は無いって話やけどこの世界の魔物の蜘蛛はどうなんだろうね。
[良い点] エダは見違えるような安定感ですね 最初に会った時はよっぽど無理してたんだろうなあ
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