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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第15話 女騎士ヘレス
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「これは失礼した。お気づきだったか」

「昨日のトーナメントのあとから、オレのあとをつけていたな」

「おそれいった。お気にさわったらお許し願いたい」

 それは、すっきりした上品な服をまとう、若い女だった。

 女としては身長が高く、骨格もしっかりしている。

 それは〈立体知覚〉で把握していたのだが、レカンは女の顔をみて、軽い驚きを覚えた。

 ノーマに似ている。

 ただの偶然だろうが、ノーマに似ているというただそれだけのことが、親近感に似たものをいだかせた。

 この女は施療師ではないし、冒険者でもない。

 立ち居振る舞いも、言葉遣いも上品だが、武張った風格がある。

 何より、腰に巻いた剣帯と、腰に吊った剣。

 柄の部分の造りはきわめてしっかりしており、複雑な文様が刻まれている。

 そして金属製の鞘。

 こんなものを提げる冒険者はいない。

 これは騎士の剣だ。

「折り入ってご相談がある。近くの食堂で食事でもしながらお聞き願えるだろうか。もちろん私の奢りで」

「ふむ。お前たち、どうだ」

「あたいはお茶でいいな。まだ朝ご飯食べてから、あんまりたってないから」

「私もお茶でいいです」

「では、茶と菓子のうまい店がある」

 そう言われてレカンがエダのほうをみると、目をきらきら輝かせている。

「そこにしよう」

 女騎士は、ヘレスと名乗った。


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「つまり、オレたちのパーティーに入れてほしいというんだな」

「この迷宮を踏破するまで、一緒に行動させてもらいたいのだ」

「オレたちは、迷宮を踏破しに来たわけじゃない」

「え? では、何階層をめざしておられるのだ?」

「こいつに」

 レカンは目線でエダを示した。

「迷宮を教えるために、ここに来た。こいつと」

 今度はアリオスを示した。

「こいつは、迷宮に潜ったことがない」

「そうだったのか」

「だからオレは無理するつもりはない。最下層など目指さん」

「だが、貴殿たちは、最下層をも目指せる力があると、私はみた」

「ふうん」

 レカンは、残り少なくなった茶を一口すすった。

「最下層に潜っているパーティーに頼めばいいだろう」

「頼んだ。そして断られた」

「今この町で活動してるパーティーで、ここの迷宮を踏破したことがあるパーティーは、いくつあるんだ?」

「〈ベガー〉と〈ジャイラ〉と〈アズカリス〉の三つだ」

「それぞれ何人パーティーだ?」

「六人、五人、五人だ。ただし、〈ジャイラ〉は、一人死んだので、今四人だ」

「死んだのは回復役だったかな」

「そうだ」

「それじゃ、代わりにはなれんか」

「私は剣士だ。攻撃魔法も回復魔法も使えない」

「魔力はあるがな」

「おわかりか? 貴殿には隠された能力があるのだな」

 パーティーというものは、一つの生き物のようなものであり、迷宮下層に潜るパーティーともなれば、高度なバランスの上に成り立っている。

 二本足で速く走れるからといって、三本足になったらもっと速く走れるというものではない。走るとは、そういうものではない。

 戦いもそうだ。人数が増えたからといって強くなるとはかぎらない。むしろ、バランスが崩れて弱点ができる。

 よほど火力不足に陥ったパーティーでないかぎり、臨時参加など受け入れない。受け入れるとしたら、臨時参加した実績がすでにある相手だ。

「最下層に行って、何がしたい?」

「迷宮の主を倒したという証しが欲しい」

「迷宮踏破者になりたいわけだな」

「そうだ」

「何のために」

 この質問には、少しためらいをみせてから、ヘレスは答えた。

「私は王都で、さる高貴なかたにお仕えするよう命を受けた。ところがそれを快く思わないかたが、条件をつけたのだ」

 たぶんこれは、かなり踏み込んだ答えだ。手の内をさらけ出しても、レカンたちに協力してほしいと、ヘレスは思っている。それだけ追い詰められているのかもしれない。

「期限は?」

「五か月あったのだが、そのうち三か月は過ぎてしまった」

「この迷宮は、その快く思わないというやつが指名したのか?」

「そうではない。どの迷宮とはいわれていないのだ。だが、あまりに小さな迷宮では、お仕えするかたの名誉をけがしてしまう。私にも攻略可能と思える迷宮で、踏破が名誉になる迷宮ということで、ここを選んだのだ」

「手伝ってくれる身内はいなかったのか?」

「家の力を頼らず私一人でという条件だ。ただし臨時の部下を雇うことは許されている」

「金があるなら〈ベガー〉か〈アズカリス〉のどちらかを雇え。そして、何かは知らんがその証しとやらを買い取れ」

「私が戦いに参加しなければ、条件は満たせない」

「そんなこと、相手にはわからんだろうが」

「騎士の誓いを立てた者が、神の前で虚偽の報告はできぬ。しかも、今回、相手は〈真実(サラドナ)の鐘〉の使用を申請する可能性がある」

「〈真実の鐘〉?」

「そうだ」

 その名をどこかで聞いたことがあるのだが、いつ誰から聞いたのか、このときのレカンは思い出せなかった。

 ここでエダが助け船を出した。

「各神殿に一つずつある神具だよ。嘘をつけばカーンコーンて鐘が鳴るんだ。一年に一回ぐらいしか使えないらしいけどね」

 そんな物があるとは大いに驚きである。

 ヘレスは、少しいぶかしげな目でエダをみた。誰でも知っていることをわざわざ説明したことが不思議なのだろう。

「なるほど。そういうことなのか。だが、今まで踏破したことはないが、踏破しそうなパーティーはいくつもあるだろう」

「第四十四階層まで行けるパーティーが、四つある」

「四つもあるのか。そのどれかに入れてもらうことはできんのか。もちろん報酬を支払ってだ」

「四つのうち一つは、自分たちは最下層には行かない、と断言した。もう一つのパーティーは私を受け入れてくれ、第四十一階層まで連れて行ってくれたが、口では迷宮制覇をすると言うものの、本当はその気がないとわかり、ほかに事情もあって抜けた。つい最近、第四十四階層に達したようだがな。あとの二つは、私の加入を受け入れてくれなかった」

「なぜその二つは、最下層を目指さない」

「どこの迷宮でもそうだと思うが、第四十四階層までの敵と最下層の主は、その戦闘力が隔絶している。死ぬのは誰でもいやなのだ」

 そういえば、ゴルブル迷宮でも、最下層の大剛鬼(ウルガング)の強さは、一つ上層の魔獣とはかけ離れていた。どこの迷宮でもそうであるようだ。

「では、そのもう一つ下のランクのパーティーに加入させてもらうしかないな」

「そのランクの二つのパーティーに参加させてもらった。だが、どちらのパーティーも、ある程度の階層までは進むのだが、それ以上は潜ろうとしないのだ」

「なるほど」

「やはり中層にいるパーティーは、中層で戦う力しかない。私は、既存の中堅パーティーに頼るのを諦め、勢いのある新たな挑戦者を捜していたのだ」

「そこにオレたちが現れたと」

「貴殿を一目みたときから、ただものでないとは思っていたが、あの尊い盾をめぐるいかさまトーナメントでの闘いぶりをみて驚愕した。さらに、あの解呪だ」

 ここでヘレスは声をひそめた。

「あれと同じ物を、私は拝見したことがある。あれはとてもあがなえるものではない。貴殿はあれを、自力で手に入れたのだろう」

「ああ」

「そんな貴殿が率いるパーティーなら、この迷宮を踏破することもできると、私は考えたのだ」

 聞いてみれば筋の通った話だ。疑わしい点は特にない。

「あんたの事情はわかった。だがオレたちは、最下層を目指すつもりはない」

「貴殿はまだ、ここの迷宮に潜ったことはないのであろう?」

「ああ」

「ならば潜ってみて、最下層にまで行くかもしれない」

「期待されるのは迷惑だ」

「私は役に立つぞ」

「ほう?」

「ここの迷宮に関する情報は、きちんと集めてからここに来た。全階層の地図も持っている。どの階層にどんな魔獣が出るか、どんな能力を持っているか、すべて知っている。そのうえ実際に第四十一階層までは潜っている」

 これは貴重な情報である。運び屋に稼がせてやってもいいが、やはり確かな知識を持った人間から得る情報には千金の価値がある。

 エダに迷宮を教えるという目的からすると、事前情報がないほうがいいともいえる。だが、レカン自身も多少は楽しめる戦いがしたい。また、情報を得ることの大切さも教えたほうがいい。

「参加させてくれれば、階層ごとに報酬を払う。魔石も宝箱も素材もいらない。また、決して私の都合で先に進めとは言わない。貴殿たちが進めるところまで進んでくれればいい」

 こうなってくると、数階層ぐらいは、この女騎士を同道してもいい。

 レカンの気持ちは、少し動いた。

「エダ。お前、どう思う?」

「えっ? あ、あたいは。あたいにはよくわかんないよ。レカンが思うようにしたらいいんじゃないかな」

 と言いながらも、ちらちらヘレスのほうをみている。境遇に同情していることは明らかだ。

「アリオス。お前はどう思う?」

「もちろんレカン殿の判断次第です。でも、お迷いであるようなら、試験をしてみたらいいのではないですか? 私のときのように」

「ほう」

「つまり剣の腕をみていただけるということか?」

「ふむ。なるほど。まずとにかく剣を交えてみるか。ヘレス。この近くにそういう場所があるか?」

「冒険者協会の奥に、練習室がある」

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― 新着の感想 ―
[良い点] それぞれの人物の話がどれも理屈が通ってるのが読みやすい 普段人に何かを説明する時にこんなふうに話せたらいいなあ
[一言] いかん、狼は眠らないのせいで、この所毎日寝不足。
[良い点] 誤:迷宮を教えるために、ここに来た。 正:皆で迷宮に遊びに来たよ!
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