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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第15話 女騎士ヘレス
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 その夜もレカンたちは、〈ジェイドの店〉に行った。

 昨日壊された入り口のドアは、奇麗に修繕されている。

 なかに入ると、大勢の客でにぎわっている。

 ということは、今日は〈ベガー〉は来ていないのだ。と思ったら、昨日と同じ場所で、丸テーブルを二つならべて飲んで食べている。

 不思議に思いながらも、店内をみわたし、三人が座れる席がないと知ると、レカンは店を出ようとした。

「レカン!」

 振り向くと、コズウォルが立ち上がって、大きく手を振っている。

「おい! 〈ウィラード〉のご来場だ! 三人が座れる席を作ってやってくれ!」

 客が席を詰め合い、丸テーブルを一つあけてくれた。

「ここだ! ここだ! レカン! ここに来い!」

 レカンはその席に行くと、席を詰めてくれた客たちに軽く会釈をして椅子に座った。この店の椅子は大きめだ。体格のよい客が多いからだろうが、どこに行っても椅子の小ささに不満を持っていたレカンからすれば、この店はそれだけで居心地がいい。

「おおーい、給仕! この三人に飲み物を持って来い! エールを二つと、茶を一つだ。俺の奢りでな!」

「すまんな、コズウォル」

「こちらこそすまん、レカン。ゆんべは、ずいぶん楽しくやったから、そっちにも迷惑かけただろう」

「いや。けんかのようすを、心地よく酒の肴にさせてもらった」

「うわっはっはっはっはっ。お前、話せるなあ!」

「話せるのはこの店だ。ドアもテーブルも、あっというまに新調だな」

「造りは安っぽいがなあ」

「だから暴れやすくていいんじゃないか。何より素早い修理のおかげで、客は今夜もうまい飯が食える。それが最高だ」

「ちげえねえ。まったくだ」

 二人は笑い合った。

「レカンて、あいそはないし、人と話すのきらいだと思ってたけど、今夜はびっくりだよ」

「師匠は、こういう人とは波長が合うんですね」

 隣でエダとアリオスが、何か話し合っている。

「今夜は気持ちがいいぜえ。よおし、給仕! 今店にいる全員に、俺からエールをごちそうするぜえっ!」

 コズウォルの奢り宣言に、店中がわあっと沸いた。

「その次の一杯をオレが馳走しよう。みんな、新参者だが、よろしく頼む!」

 レカンがそう宣言すると、さらに大きな歓声が沸いた。

 それからはもう、大騒ぎだ。

 店中の冒険者たちが、入れ替わり立ち替わりレカンのところにやってきては、奢り奢られの応酬が続く。

 それをすべてレカンは受け、何十杯というエールと蒸留酒がレカンの腹に収まった。

 エダとアリオスは、こそこそと給仕と相談し、お勧め料理を片っ端から注文してゆく。その大半はレカンが食うのだが、エダとアリオスは、ちびちびと珍味に舌鼓を打った。

 レカンの周りに集まる人が減ったころ、〈ベガー〉のすらっとした剣士が椅子を持ってやってきた。

「やあ、レカン」

「あんたは〈ベガー〉の剣士だったな」

「ベックってんだ。よろしくな」

「ああ、よろしく」

 二人はジョッキを合わせた。

「ぷふあー。いやいや、昼はいいものみせてもらったぜ」

「野次馬が、あの老人を呪術師協会の組合長とか言っていたようだが」

「そうともよ。あのくそじじいが組合長さ。ずうっと昔からな」

「ふうん」

「あの盾はよう」

「うん?」

「あの盾は!って言ってるんだ!」

「ああ、すまん。周りがうるさくて、よく聞こえなかった」

「あの盾はずうっと客寄せに使われてたんだよ」

「そうか」

「だけどもう、あのあこぎなトーナメントもおしまいさ」

「あこぎとは、何があこぎなんだ」

「優勝者には盾を持たせる。するとそいつは呪いにかかる。たちまち力が出なくなって、盾も支えられなくなる。ところが盾は手からはずれない」

「そういう呪いがかかっていたな」

「そこで組合長は言うわけさ、ちょうどその呪いが解ける術を知っておる。ただし、ちょっとばかり高価な触媒がいる、とね」

「ほう。高いんだろうな」

「〈ウォルカンの盾〉と金貨二枚ってところかな。払えなきゃ、組合が欲しがる魔獣の部位を取ってきて収めることになる」

「それはひどい」

「そう。ひどいのさ」

「呪いつきの盾が宝箱から出たりするのか?」

「いや。そんな話は聞いたことないな」

 つまり、あの呪いは、呪術師組合とかいうものがかけた呪いだったのだ。

 レカンは急におかしくなって、大声で笑った。

 剣士ベックも笑った。

「ベックさん」

 声をかけたのはアリオスだ。

「おお。何だ?」

「昨日、迷宮踏破者が出たんですね?」

「ああ、出たな」

「お祝いとかはしないんですか?」

「領主には呼ばれて、祝い金をもらったはずだ。ほんとは今夜あたりここに来て、どんちゃん騒ぎしててもいいんだが、ちょっと来る気にならねえだろうな」

「何かあったんですか?」

「パーティーメンバーが、一人死んだ。回復術師のドレンてやつだ。頑丈なやつだったんだけどなあ」

「そうだったんですか」

「〈回復〉持ちがいるパーティーは、それを前提にしたやり方になじんでるからなあ。〈ジャイラ〉は、もうトップグループからは落ちるだろうな。まあ、あいつらはこの町に立派な家も持ってるし、財産もそれなりにあるはずだ。もう冒険者をやめる頃合いかもしれねえな」

「冒険者をやめた人は、どうするんですか?」

「この町には、元冒険者の働き口は、いくらでもある。っていうか、女子どもや、よほど弱っちいやつをのぞきゃあ、この町で働いているやつの大部分が、冒険者あがりだろうよ。ほかの仕事で一旗揚げたい若いやつは、この町から出ていくしな」

「そういえば、冒険者協会のカウンターに座ってる人たちは、みんなかなり強そうでしたね」

「あそこで暴れる馬鹿はいねえ。元トップクラスの冒険者がごろごろしてる」

「この店のご主人も、かなり使えそうですね」

「ジェイドか? ありゃ、正真正銘のばけもんだ。引退した今でもな。けど、ちょっとみには優男にみえるんだが、あいつの強さがわかるってことは、おめえもかなりやるな」

「いえ。そんな気がしただけです」

 そうすると、この町では、高レベルの冒険者が引退できるほど長生きすることが珍しくないのだ。

 奇妙といえば奇妙な話である。

 レカンは二人の会話を聞きながら、そう思った。

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