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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第13話 誘拐
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 夜道をとぼとぼ二人が歩いている。

 もっとも、レカンはとぼとぼ歩いても、身長が高く足が長いから、一歩がひどく大きい。エダは常に小走りだが、まったく疲れるようすもなく、あたりまえについてくる。

「あの玄関と門扉にはびっくりしたよ」

「そうか」

「すごい破壊力だね」

「そうか」

「レカンって、〈黒衣の魔王〉って呼ばれてるんだね」

「そうか」

「さっきから、そうか、ばっかりだよ?」

 注意を別のことに向けていたため、会話が少しおざなりになってしまったようだ。

「パン、食うか」

「あ、食べる、食べる! おなかぺこぺこなんだ」

 エダにパンを渡すと、もう一個パンを出してレカンも食べ始めた。

「ちょっと硬いね」

「保存の利くやつだからな」

「干し肉、ある?」

「あるぞ」

 二人は両手にパンと干し肉を持って、むしゃむしゃ食べながら歩いた。

「よくプラドさんを殺さずにすませたね」

「まあな」

 プラドを殺すのと殺さないのと、どちらが面倒か。レカンが考えたのはそこだ。

 プラドを殺すのなら、復讐に来る者たちを皆殺しにする必要がある。もれ落ちなしに皆殺しにするのはむずかしいうえ、貴族家一つを殲滅すれば、領主と対立することになる。

 プラドを生かしておいて、プラドがゴンクール家の者がレカンとエダに手出ししないよう監督してくれるなら、そのほうが面倒が少ない。

 レカンはそう判断したのである。

 ただしもう一つ、レカンの判断を後押ししたものがある。

「プラドさん、ノーマさんのおじいさんだもんね」

「ああ」

 プラドを殺せば、やはりノーマは悲しむだろう。

 エダとレカンも、ノーマのところに顔を出しにくくなる。

 そのことも考えないではなかった。

「それに、カンネルさん」

「うん?」

「カンネルさんも殺さなかった」

「ああ」

「レカン。好きでしょ、ああいう人」

 カンネルは、筋を通す男だった。ああいう男は、きらいではない。

「レカンて、ほんと、自分の好きに生きてるよね」

「ああ」

「レカン」

「うん?」

「助けにきてくれて、ありがとう」

「ああ」

「それにしても、よくあたいが、あの屋敷にいるってわかったね」

「いや。わからなかった」

「えっ?」

「とりあえず、ゴンクール家を調べてみただけだ」

「じゃ、じゃあ。あんなことしておいて、もしあたいがあの屋敷にいなかったら、どうしたの?」

「そのときは、神殿を調べるつもりだった」

「神殿にもいなかったら?」

「そのときは家に帰って、お前が帰ってくるのを待つことにしていた」

「レカン」

「うん?」

「あんた、むちゃくちゃだよ」

「そうだな」

 エダは、ごそごそとふところを探り、小さな袋をつかみ出した。

「これ、持ってて」

「うん?」

 開けて見ると、みおぼえのある小さな石が入っていた。

「これは、〈幸せの虹石〉じゃないか」

「うん」

「お前の大切なものだろう」

「うん。だから、あげない。あずけとくだけ」

 両親の形見なのだから、簡単に人に預けたりするものではないだろう。

 それをあえてレカンに預けるという、その気持ちを考えると、突き返すこともできなかった。

「あんたには、それがいると思うから」

「そうか。では、借りておく」

「うん」

 レカンは、〈幸せの虹石〉を〈収納〉の奥深くに大切にしまった。

 ふしぎと胸の奥が温かいような気がした。

「迷宮行き、延期になっちゃったね」

「ええっ?」

「なんて反応すんのさ。レカン、まさかこのまま迷宮に行くつもりじゃなかったよね?」

「なぜこのまま迷宮に行ってはいかんのだ」

「いかんに決まってるでしょ。ノーマさんは、今日起きたことを、何も知らないんだよ?」

「それは知らんだろうな」

「知らないまま、レカンのために、あれこれ考え、動いてくれることになるんだよ」

「まあ、そうかもしれん」

「かもしれん、じゃなくて、そうなんだよ。申しわけないと思わないの?」

「申しわけないかもしれん」

「なら、そんな目に遭わせちゃだめだ。明日の朝、ノーマさんの所に行って、今日何があったか説明しなきゃ。迷宮のことはそれからだよ」

「…………」

「わかった?」

「わかった」

 エダが急に、気遣いできる人間になったのは、よいことだ。

 だが気遣いできないエダのほうが付き合いやすかった。それはまちがいない。

(さてと)

(ここらがいいだろう)

 突然、レカンは立ち止まった。

「エダ」

「えっ?」

「すまんが、一人で帰ってくれ」

「ええっ? 一緒に帰ろうよ」

「男には、一人になりたいときがあるんだ」

「もしかして、立ちション?」

「いいから先に帰ってくれ」

「はあい」

 手を振りながら、何度も振り返り、エダは去って行った。

 エダがじゅうぶんに離れてから、後方の暗がりから現れた者がある。

 ジンガーだ。

 ゴンクール家を出てからずっと、誰かがつけてきているのは知っていた。

 相当の実力者だということもわかっていた。

 だが、ジンガーだとは思わなかった。

「お気遣いいただき、かたじけない」

「すごい殺気だな、ジンガー」

 ジンガーは、剣を腰に吊っている。

 胸には革鎧を着けている。

 よくみれば、左手に手甲のようなものをはめている。

「騎士ジンガー・タウエル。冒険者レカン殿に、決闘を申し込む」


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― 新着の感想 ―
>「さっきから、そうか、ばっかりだよ?」 > 注意を別のことに向けていたため、会話が少しおざなりになってしまったようだ。 >「パン、食うか」 食いモンで誤魔化そうとしたな >迷宮のことはそれからだ…
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