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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第13話 誘拐
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「訊きたいことが、いくつかある」

「どうぞ」

「赤ポーションや〈回復〉は、毒には効かないと思っていたが、ちがうのか?」

「冒険者から、しかも君のような筋金入りの冒険者からそんな質問を受けるなんて、驚くべきことだね。だが、質問には答えよう。毒に対して赤ポーションは、一時的に効く。〈回復〉は、多くの場合、毒に効果がある」

「ふむ?」

「赤ポーションは、毒の症状を一度消してくれる。ただ、毒そのものは消さないから、すぐにまた毒による異常が起きる。効き目の弱い小量の毒なら、赤ポーションで治るだろうね」

「なるほど」

「〈回復〉は、鉱物性の毒など、体内で異物であり続ける毒を除けば、ほとんどの毒を癒す可能性がある。理屈を説明するとむずかしいんだが、赤ポーションとちがい、〈回復〉は、ある一定時間連続的に作用するからなんだ。どの毒にどの程度効くかは、〈回復〉のレベルがどのくらいかと、込めた魔力量がどのくらいかによる」

「ふむ。少しわかるような気がする」

「あたいは全然わかりません」

「実践的にいえば、〈回復〉で毒を除去しようとするなら、強く短く〈回復〉をかけるのでなく、ある程度長い時間〈回復〉をかけ続けるといい」

「なるほど」

「よくわかりました」

「まあ、強くて速く効く毒に弱い〈回復〉をかけていたらまにあわないから、一般に、毒に〈回復〉は使わない。冒険者なら、緑ポーションを手に入れられるだろう。解毒には何といっても緑ポーションにまさるものはないよ」

「了解した。次に、侯爵は、赤ポーションを飲んだり、〈回復〉をかけさせたりはしなかったのだろうか」

「したと思うよ。侯爵家の権力と財力なら、赤ポーションも持続的に入手できたろうし、〈回復〉持ちは何人かいた。中級の上位に入る人もいたみたいだ。だが、赤ポーションや〈回復〉では、老いによる肉体の衰えと苦痛をやわらげるのはむずかしかった。だからこそ、母は特別の存在になったんだ」

「わかった。それから、ゴンクール家がエダに何をしてくるかについて、参考になる情報が欲しい。ノーマがゴンクール家に往診するのは、なぜだ。どういう関係なのだ」

「先ほども言ったように、プラドさんは、私の母の父だ。ただし私がそれを知ったのは、母が死んでこの町に来てからだ」

「ほう」

「父が死んだあと、ゴンクール家から往診の依頼があった。そのときジンガーが、プラドさんと母の関係を教えてくれた」

「ふむ」

「ゴンクール家に行くと、ふつうに診療と治療を依頼され、施療が終わると、今後は継続的に往診してほしいと言われた。私がゴンクール家の血を引いているという話は、一度も出ていない。祖父だとも、従兄弟だとも、名乗られたことはない。だが、少なくとも、プラドさんと、ゼプスさんと、執事のカンネルさんは、私とゴンクール家の関係を知っていると思う。これは態度からそう感じたんだが、まちがいないと確信している」

「ノーマがそう感じたというのなら、そうなのだろう」

「ゴンクール家では私は丁重に扱われている。平民の施療師ではなく、もっと身分のある施療師のようにね」

「一族の者だから、施療にかこつけて呼び出し、つながりを保とうとしているのか?」

「うーん。そういうふうにも感じないんだがね。自分で言うのも何だが、私は施療の知識と技術にかけては、相当の水準にある」

「そうだろうな」

「そうだと思います」

「この町には、領主家を除いて五つの貴族家がある。あ、いや、アーバンクレイン家が去ったから、四つか。その四つのうちで、中級の〈回復〉持ちを抱えていないのは、ゴンクール家だけなんだ。だから、知識と技術があり、ごくわずかながら魔力があって、初級の〈回復〉が使える私を抱え込んでおくというのは、不自然なことではないね」

「あんたが〈浄化〉を発現する可能性がある、と期待しているわけではないのか?」

 この質問はノーマの意表を突いたようで、目を少しみひらいて、ううん、と考え込んだ。

「考えたこともなかった。しかし、そうか。母上も、魔力量も少なく、もとは弱い〈回復〉しか使えなかった。それが、あるとき、〈浄化〉に目覚めた。ううーん。なるほど。そこに期待している可能性は、ないとはいえないね。実際にはあり得ないほど低い可能性だけれども」

「そう考えれば、ゴンクール家があんたに高圧的でない理由もわかる」

「確かに」

「ゴンクール家は、あんたの母親が〈浄化〉を発現したことは知っているんだな?」

「知っている。遠回しな言い方ながら、知っているにちがいないと思わせることを、プラドさんが言った」

「そうか。それで単刀直入に聞くが、ゴンクール家は、エダをどうするだろうか?」

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