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2月14日に公開予定だった「14」を、誤って2月13日に予約投稿してしまいました。つまり、2月13日には、2回分の更新がありました。毎日お読みくださっているかたは、「11_12_13」を飛ばして読んでおられる可能性がありますので、ご注意ください。
20
孤児院に行くと、エダはすぐに女の子たちに囲まれた。
レカンは例によって肩車の行列だ。
ただし、今日は、副神殿長から、一度に乗せるのは三人までにするように指示があった。五人乗せて、もしも転落しそうになったら、レカンは〈浮遊〉や〈移動〉で安全を確保できるのだが、それは職員たちにはわからない。能力を吹聴するのはいやだったので、おとなしく指示に従った。
エダはといえば、十本の指を駆使して鳥やけものの形を作ってみせている。女の子たちは、もう夢中だ。エダの指の器用さは大したもので、目の前でみていても、なかなかまねができないようだ。
レカンは、杭の上に木の実を置いて、蔦を丸めた玉を投げつけて落とす遊びをこどもたちに教えた。年齢によって、杭までの距離を変える。最初はおとなしく遊んでいたが、途中から蔦の玉のぶつけ合いになってしまった。しかも最終的な標的はレカン一人である。反撃するわけにもいかず、ただ逃げ惑うレカンだった。
昼食のあと、エダが地面に石で絵を描いた。意外にも、とても上手だった。
これをみて、男の子も女の子も、地面に絵を描き始めた。
「今日は、エダのおかげで、ずいぶん助かった」
家に帰って、早めの夕食を食べ、酒を飲みながらレカンはエダに感謝の言葉を告げた。
「レカンて、ほんとにこどもたちに懐かれてるね」
「十四歳の子が、肩車を喜ぶというのは、オレには意外だった」
最年長の子は十四歳だ。今、十四歳の子は二人いて、二人とも男の子だ。
「レカン」
「うん?」
「十五歳になったら、孤児院を出て働かなくちゃならない」
「ああ、そうだな」
「たとえ職場で、どんなにつらい目にあっても、くびになっても、もうあそこには戻れない」
「ああ」
「だから今がおとなに甘えられる最後の時間なんだ」
「ふむ」
「それと、もしかしたら」
「うん?」
「あそこにいる子のほとんどは、親の顔を知らない」
「そのようだな」
「お父さんがいたら、こんなのかな、なんて思ってるんじゃないかな」
「……エダ」
「なんだい?」
「お前がいくつのとき、お父さんは死んだんだ」
「十歳のとき」
「そうか」
考えてみれば、孤児院の最年長の子と、エダは同じ年だ。
本当ならエダも、まだ親に甘えたい年頃なのだ。
「肩車」
「え?」
「してやろうか?」
「いらない」
21
「いやいや、まいったよ。昨日は休診だったのに、二人も急患が担ぎ込まれてね」
「ほう」
「どうなったんですか?」
「一人は痛み止めを処方して帰した。慢性の病気が急激に悪化したんだけど、正直言って手の打ちようがない」
「お気の毒に」
「もう一人は怪我でね。応急手当てして、神殿に行くように言ったよ」
「神殿で治してくれるんですか?」
「どこの神殿でも、怪我人や病人の治療は行う。そしてお金を取る」
「お金を」
「薬や薬草を使った治療は、ほとんど実費だからね、そう高くない」
「はい」
「でも、神殿は、薬だけで治すのはいやがる。〈回復〉も受けるよう、強く勧める。まあ、神殿の教義からすれば、〈回復〉は神のみわざだからねえ」
「高いんですか?」
「高いね。最低でも〈回復〉一回に銀貨五枚は取る。いろんな怪我や病気があるわけだけど、〈回復〉一発で治せるのは、よほど腕のいい術師だけだ。つまり二回か三回かかることが多い。神官二人がかりの〈回復〉ともなれば、金貨を要求されることもある」
「赤ポーションを買ったほうが安上がりだな」
「どこに売っているんだい、そんなもの?」
「売っていないのか?」
「この町の店に赤ポーションが並んだなんて、一度も聞いたことはないね。貴族や金持ちが取り寄せて買ったことはあるけど、相当高い値段がついたと思うよ。待てよ」
「うん?」
「君たちは冒険者だね。しかもレカンは凄腕だろう。もしかして赤ポーションを持ってるかい? 持ってるなら、小赤ポーションを少し売ってもらいたいんだが」
「あるぞ。ただし小赤ポーションはない。中か大ならある」
「中ポーションじゃあ手が出ない。残念」
「金なぞいらん。あんたには世話になってる。持っている分をやる」
「いやいや。私が自分で使うわけじゃないからね。患者にポーションを使えば、患者から代金をもらわないといけない。相場より明らかに低い金額だと、まずいんだよ」
何がまずいのか、レカンにはよくわからなかったが、ノーマがそう言うのならそうなのだろうと思った。
「では、次に迷宮に行ったら、小赤ポーションを取っておく」
「ありがたいね。だけど、自分で使う分は、ちゃんと取っておいてくれたまえよ」
「オレには小赤ポーションでは、ほぼ効き目がない。大赤ポーションでも、効果はあまり大きくない」
「何だって? そんなことが……あるとしたら、レカン、君は……そうか。その左目は」
「ノーマ様。お迎えが参りました」
「ああ、もうそんな時間か。では、レカン、エダ、往診に出かけよう」
「ああ」
「はい」