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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第12話 施療師ノーマ
108/702

20_21

2月14日に公開予定だった「14」を、誤って2月13日に予約投稿してしまいました。つまり、2月13日には、2回分の更新がありました。毎日お読みくださっているかたは、「11_12_13」を飛ばして読んでおられる可能性がありますので、ご注意ください。

20


 孤児院に行くと、エダはすぐに女の子たちに囲まれた。

 レカンは例によって肩車の行列だ。

 ただし、今日は、副神殿長から、一度に乗せるのは三人までにするように指示があった。五人乗せて、もしも転落しそうになったら、レカンは〈浮遊〉や〈移動〉で安全を確保できるのだが、それは職員たちにはわからない。能力を吹聴するのはいやだったので、おとなしく指示に従った。

 エダはといえば、十本の指を駆使して鳥やけものの形を作ってみせている。女の子たちは、もう夢中だ。エダの指の器用さは大したもので、目の前でみていても、なかなかまねができないようだ。

 レカンは、杭の上に木の実を置いて、蔦を丸めた玉を投げつけて落とす遊びをこどもたちに教えた。年齢によって、杭までの距離を変える。最初はおとなしく遊んでいたが、途中から蔦の玉のぶつけ合いになってしまった。しかも最終的な標的はレカン一人である。反撃するわけにもいかず、ただ逃げ惑うレカンだった。

 昼食のあと、エダが地面に石で絵を描いた。意外にも、とても上手だった。

 これをみて、男の子も女の子も、地面に絵を描き始めた。

「今日は、エダのおかげで、ずいぶん助かった」

 家に帰って、早めの夕食を食べ、酒を飲みながらレカンはエダに感謝の言葉を告げた。

「レカンて、ほんとにこどもたちに懐かれてるね」

「十四歳の子が、肩車を喜ぶというのは、オレには意外だった」

 最年長の子は十四歳だ。今、十四歳の子は二人いて、二人とも男の子だ。

「レカン」

「うん?」

「十五歳になったら、孤児院を出て働かなくちゃならない」

「ああ、そうだな」

「たとえ職場で、どんなにつらい目にあっても、くびになっても、もうあそこには戻れない」

「ああ」

「だから今がおとなに甘えられる最後の時間なんだ」

「ふむ」

「それと、もしかしたら」

「うん?」

「あそこにいる子のほとんどは、親の顔を知らない」

「そのようだな」

「お父さんがいたら、こんなのかな、なんて思ってるんじゃないかな」

「……エダ」

「なんだい?」

「お前がいくつのとき、お父さんは死んだんだ」

「十歳のとき」

「そうか」

 考えてみれば、孤児院の最年長の子と、エダは同じ年だ。

 本当ならエダも、まだ親に甘えたい年頃なのだ。

「肩車」

「え?」

「してやろうか?」

「いらない」


21


「いやいや、まいったよ。昨日は休診だったのに、二人も急患が担ぎ込まれてね」

「ほう」

「どうなったんですか?」

「一人は痛み止めを処方して帰した。慢性の病気が急激に悪化したんだけど、正直言って手の打ちようがない」

「お気の毒に」

「もう一人は怪我でね。応急手当てして、神殿に行くように言ったよ」

「神殿で治してくれるんですか?」

「どこの神殿でも、怪我人や病人の治療は行う。そしてお金を取る」

「お金を」

「薬や薬草を使った治療は、ほとんど実費だからね、そう高くない」

「はい」

「でも、神殿は、薬だけで治すのはいやがる。〈回復〉も受けるよう、強く勧める。まあ、神殿の教義からすれば、〈回復〉は神のみわざだからねえ」

「高いんですか?」

「高いね。最低でも〈回復〉一回に銀貨五枚は取る。いろんな怪我や病気があるわけだけど、〈回復〉一発で治せるのは、よほど腕のいい術師だけだ。つまり二回か三回かかることが多い。神官二人がかりの〈回復〉ともなれば、金貨を要求されることもある」

「赤ポーションを買ったほうが安上がりだな」

「どこに売っているんだい、そんなもの?」

「売っていないのか?」

「この町の店に赤ポーションが並んだなんて、一度も聞いたことはないね。貴族や金持ちが取り寄せて買ったことはあるけど、相当高い値段がついたと思うよ。待てよ」

「うん?」

「君たちは冒険者だね。しかもレカンは凄腕だろう。もしかして赤ポーションを持ってるかい? 持ってるなら、小赤ポーションを少し売ってもらいたいんだが」

「あるぞ。ただし小赤ポーションはない。中か大ならある」

「中ポーションじゃあ手が出ない。残念」

「金なぞいらん。あんたには世話になってる。持っている分をやる」

「いやいや。私が自分で使うわけじゃないからね。患者にポーションを使えば、患者から代金をもらわないといけない。相場より明らかに低い金額だと、まずいんだよ」

 何がまずいのか、レカンにはよくわからなかったが、ノーマがそう言うのならそうなのだろうと思った。

「では、次に迷宮に行ったら、小赤ポーションを取っておく」

「ありがたいね。だけど、自分で使う分は、ちゃんと取っておいてくれたまえよ」

「オレには小赤ポーションでは、ほぼ効き目がない。大赤ポーションでも、効果はあまり大きくない」

「何だって? そんなことが……あるとしたら、レカン、君は……そうか。その左目は」

「ノーマ様。お迎えが参りました」

「ああ、もうそんな時間か。では、レカン、エダ、往診に出かけよう」

「ああ」

「はい」


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