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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第12話 施療師ノーマ
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「うんうん。ポルチムさん。ずいぶん顔色がよくなったじゃないか」

「はい。先生のおかげです」

「今日は素晴らしい力を持った助手が二人もついてくれていてね。ポルチムさんは運がいい。今日は研修中なので、この二人が無料で〈回復〉をかけてくれるんだよ」

「え?」

「ははは。心配はしなくていいよ。私がきちんと指導する。それに〈回復〉は、かけまちがえたからといって病気が悪化したりはしない。さて、レカン」

「うむ」

「君の眼力で、ポルチムさんのどこが悪いかわかるかな」

「足腰が弱っている。腰にはほとんど肉がついていない。歩いていないと思われる。顔色の悪さとはく息の匂いから、臓腑に問題があると考えられる。たぶん、食物を体に取り込んでいく働きをする臓腑だ」

「これは驚いた。レカンには医学の知識があるのかい」

「いや。ちゃんと学んだわけではない」

「だが、正しいよ。よし、ではまず、ポルチムさんの体全体に、弱く〈回復〉をかけてもらおう。体のなかからゴミを掃き出すようなつもりでやるんだ。まずは体のなかをきれいにしないと、施療が効果をあげにくいからね」

「わかった」

「そして、これはむずかしいかもしれないが、手応えを感じながらやるんだ。弱い〈回復〉をかけると、患者の体の反応が返ってくる。その反応から、どこに悪い部分があるかを突き止めてゆくんだ。施療師の初歩だよ」

「わかった」

「では、やってみたまえ」

「〈回復〉」

「えっ?」

 軽くかけるように言われたので、レカンはごく弱い〈回復〉を発動させて、ポルチムの体にかけていった。どこからかけていいかわからなかったので、頭からはじめて、ゆっくりと手を動かして足先までかけた。

 かけ終わってノーマをみると、両目を大きくみひらいて、ぽかんと口を開けている。

「腹のまんなかあたりに悪い所がある。それ以上のことはわからなかった」

「なんて強い光だ。あんな〈回復〉を、たっぷり全身にかけられるなんて、レカンはとんでもない魔力量の持ち主なんだね。というか、杖は?」

 レカン自身には、〈生命感知〉という能力があり、一定距離内の人間や魔獣の保有魔力量がわかる。〈魔力感知〉を使えばさらに詳しくわかる。だが、こうした能力は、この世界では一般的ではない。魔力を持っている人間でも、他の人間の魔力量はわからないのだ。

「ポルチムさん。どんな感じだい? 体に何か変わった点はあるかな?」

「あ、あったけえ光が頭のてっぺんから、足の爪先まで、ほかほかに温めてくれて、そりゃもう、何ともいえんいい気持ちでした。何だか体が軽くて。起きられそうな感じがします」

「いや、起きるのは無理だと思うけど。いや、待てよ。どの程度体を起こせるかな?」

 ポルチムは、完全にベッドに起き上がり、そればかりか、ベッドから降りて歩いてみせた。そのようすをみたポルチムの妻が泣き出した。

「あんた! あんた! 歩けるんだね。歩けるようになったんだね!」

 そのあと、ノーマはポルチムをベッドに寝かせて、診察をした。

 ポルチムが、腹が減ったと言い出したので、柔らかい物を食べさせるようにと告げ、診察を終えた。

 家の外に出てから、ノーマはあきれたような声でレカンに言った。

「魔力切れの症状は出てないかい? だいじょうぶかい?」

「言われたとおり、極小の魔力で〈回復〉を行った」

「あれのどこが極小の魔力なんだ! あれが極小なら全力を出したらケレス神殿だって吹っ飛ぶよ!」

「あれだけ広いと、一撃で完全に吹き飛ばすことはむずかしい。だが、昨日覚えた上級攻撃魔法なら、一撃で全体を破壊することはできるかもしれん」

「じょ、上級攻撃魔法っ? き、君は、君は何者?」

「ただの剣士で冒険者だ」

「……なんで剣士が上級攻撃魔法を使えるのさ」


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「マツギさん。腕は痛むかい?」

「いえ。おかげさんで、だいぶ落ち着いてきました」

「そうかい。マツギさんは、運がいいよ。ちゃんとした〈回復〉持ちが二人も研修中でね。今日はただで〈回復〉を受けられるんだ」

「へ、へい。そりゃあ、また」

「ははは。安心して任せてよ。私がついてるからね。さて、エダ」

「はい」

「マツギさんは、二か月前、仕事中の事故で、右腕を折ってしまった」

「はい」

「そのとき、骨が変な具合に折れてしまい、そして木の破片がたくさん腕のなかに入ってしまった」

「はい」

「私はその木の破片を、時間をかけて取り除いていった。だけど、骨の具合はもとに戻らず、今では肘を曲げるだけでひどく痛む。そして細かな細かな破片はまだ腕に残っていて、これは取り出しようがない」

「はい」

「まずは痛みをやわらげる治療が必要だ。そしてできるだけ右腕を健全な状態に戻してゆくんだ」

「はい」

「では、まずマツギさんの左腕を調べるんだ。呪文は唱えず、やわらかく魔力をまとわせて、左腕の状態、特に肘のすぐ上あたりの状態を確認するんだ」

「はい。やってみます」

「あれ? 杖は?」

「あ。持ってません」

「えっ?」

「杖なしじゃいけませんか?」

「ま、まあ、杖なしでできるんなら、べつにいいけど」

「やってみます」

「うん。そうそう。上手だ。それでいい。次にマツギさんの右腕に、そうっとさわって、やわらかく魔力を手にまとわせて、右腕の状態を確かめてゆく。そして左腕とどこがちがうかを分析するんだ」

「ぶ、ぶんせき?」

「心のなかで比べるのさ。右腕の状態を、左腕の状態に近づけていけばいいんだ」

「な、なるほど」

「やさしく、そっとね。君の大事に思う人が苦しんでいると思って、心を込めて悪い所を探っていくんだ」

「大事な……人が、痛がって苦しんでいる」

「そうそう。その調子だ」

「助けなきゃ。〈回復〉」

「えっ?」

「うわっ。まぶしい」

「な、何が起きてる?」

 巨大な緑の光球が生じ、しばらく光り続けた。

 そして光が収まった。

「あ、痛みが。痛みが消えました、先生!」

「え?」

「動く! 右腕が、右腕が動きます! ほら! ぐるぐる回しても、何ともねえ。仕事が、これでまた仕事ができるぞっ!」

「へっ?」

 ノーマはマツギを診察した。

 そして感激して泣いているマツギの娘が、昼食を食べていってくれというのを振り切って、レカンとエダを連れて外に出た。

「広場で弁当を食べようじゃないか」

 心なしか、声に疲れが出ている。

「あの、お疲れのようですね。〈回復〉をかけましょうか?」

「〈回復〉を? 今かけたばっかりなのに、もう使えるのかい?」

「あれぐらいなら、一日百回でも」

「ええええええっ?」


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― 新着の感想 ―
レカンがいた世界だと魔力は生命の源なので誰でも有していて<生命探知>で魔力量など大まかなところがわかるようになってるので 魔力の有無の差が存在する落ちた世界だと<生命探知>だけでも立派な魔眼ですよね …
レカン&エダ「「あれ?俺(あたい)何かやっちゃいました?」 なろう小説かよ!? なろう小説だったわ。
[良い点] >「助けなきゃ。〈回復〉」 ここすき
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