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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第12話 施療師ノーマ
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 レカンは、ジェリコとともに、五つの薬屋に薬の詰まった樽を届けた。

 シーラが作った薬だが、レカンも薬草採取の段階から手伝った薬だ。

 どこの店でも、泣かんばかりにして喜ばれた。シーラの薬は品切れになっていて、顧客の要望に応えられなかったからだ。

 レカンが出たり入ったりして薬を運んでいるあいだ、エダはシーラから、〈火矢(ベイアーツ)〉の手ほどきを受けていた。結局、この日は発動の気配もなかった。

 レカンが教わったときは、一刻もかからず発動できるようになった。

(エダは、光熱系攻撃魔法には適性がないのかもしれんな)

 配達も終わったので今日は引き上げようかと思っていると、ダンスがやって来た。チェイニーの使いをしている男だ。たぶんこの男は、店のなかではそれなりの地位にある。使い走りをするような立場ではない。かなりの裁量権も持っていると、今までのやり取りで感じた。この男を使いに出すということは、シーラを重くみているということだ。レカンについても同様である。

「遅くなりました、シーラ様。貸し家の件でご用がおありですか」

 どうもシーラのほうが呼び出したようだ。

 だが、シーラは家から出ていない。

 何か秘密の連絡法があるのだろう。

「レカンとエダが、あの家に住みたいって言ってる。まずは一度みせてやっておくれでないかい」

「承知しました。今からすぐみにいかれますか?」

「ああ」

「あたいも行きたい」

「では、ご案内します。シーラ様」

「何だい」

「まもなく主人が参ります。ご報告して御礼申し上げたいことがあるようです」

「べつにいらないけどね。まあ、わざわざ来るっていうなら会うよ」

「ありがとうございます」

 レカンとエダは、ダンスに案内されて、その家をみた。

 古くてこじんまりした家だが、井戸もあるし、一通りのものはそろっている。何より頑丈で高い外壁を持ち、玄関扉が分厚くてかんぬきもしっかりしているのがいい。

「壁が高くて、お洗濯物を干すのに、ちょっと不便だね。入り口のドアも重くて開閉に力がいるし」

 レカンが利点だと思ったものは、エダにとっては欠点だったようだ。それでも、シーラの家から近く、商店街からも近い。いい物件のように思われた。値段を訊けば、今年いっぱいの借り賃が銀貨十二枚でいいという。レカンにはこうしたものの相場はわからないが、格安だということはわかった。

「どうだ、エダ」

「うーん。お安いのが魅力的だよね。住んでみて問題があったら、また引っ越したらいいんだしね」

「よし、では借りることにする」

「ありがとうございます。鍵は二つお渡しします」

 鍵をレカンとエダに渡すと、ダンスは帰っていった。

「さてと、では今から住むか」

「ちょっと何言ってるの。お掃除しなきゃだめだし、ベッドにはわらもシーツもないよ。調理道具や食器も買わないといけないし」

「べつにかまわん。野営道具がある」

「なんで家を借りたのに野営しなくちゃいけないのよ。いいよ、もうレカンは。あたいがお掃除して、最低限必要な物は買っておく。レカンは、あさって、じゃなくて三日後に来て」

「わかった。ではな」

 レカンはいつもの宿に部屋を取った。

 〈収納〉のなかの食べ物を出してみると、いたみかけたものもあり、そろそろ食べたほうがいいものもあった。いたんでしまったものは捨て、そうでないものを宿に渡して料理させた。

 その料理をぱくつきながら、強い酒をたっぷりと飲み、ぐっすりと眠った。


4


「おや、どうしたんだい、レカン。なんか、ぼろぼろって感じだよ」

「孤児院に行った」

「そりゃ、ご苦労さん。エダちゃんも一緒だったのかい?」

「いや、エダは家の掃除と買い物をしてるはずだ」

「お金は渡したのかい」

「……いや」

「あとでちゃんと渡すんだよ」

「ああ」

「それで、孤児院は、どうだった」

「泣かれた」

「へえ?」

「オレの顔をみると、こどもたちが歓声を上げて群がってきた」

「よかったじゃないか。好かれてるんだ。たった一回行っただけで大人気だね」

「群がってきたのが〈赤猿(ウルドゥ)〉だったのなら、皆殺しにできたんだが」

「孤児院に奉仕に行って、こどもたちを皆殺しにしてどうするんだい」

「わかっている。だから剣を抜くのはがまんした」

「あたりまえだよ。それで?」

「そのうち、しゃがめ、しゃがめと言い出した」

「へえ?」

「反論するのが面倒だったので、しゃがんだ」

「ああ」

「すると、肩やら頭やらにこどもがのぼりはじめた」

「目に浮かぶようだね」

「押し合いをするので、次々にこどもが転落する。それをやわらかく受け止めるのがむずかしかった」

「あんたほどの反射神経なら、むずかしくはないだろうさ」

「うっかり力を込めるとにぎりつぶしてしまいそうで、相当の注意が必要だった」

「あ、なるほどね」

「うるさいんだ」

「うん?」

「こどもというのは、うるさいんだ。果てしなく」

「そういうもんさね」

「耳のすぐ横で、けたたましい声を上げ続けるんだ。あれは一種の精神攻撃なのだろうか」

「そんなわけないだろう」

「その次は、歩け、歩け、とわめき立てた」

「まあ、それが順序ってもんだね」

「オレは考えた。一人ずつだと大変な時間がかかってしまうと」

「うん? それで?」

「一度に五人を乗せて歩いた。ほかの子は、あとからぞろぞろついてきた。両足には一人ずつしがみついていた」

「なんとまあ、やるもんだね。まあ、あんたはでっかいからねえ。こどもたちにとってはすごいながめだろうさ」

「こどもの数は二十九人だった。六回で終わった」

「おめでとうさん」

「だが、終わりではなかった」

「へえ?」

「やっと終わったと思ったオレに、こどもたちは言った。もう一回、と」

「ありゃあ」

「三度目の行進が終わったとき、オレはたまらず、〈収納〉から赤ポーションを出して飲んだ」

「それはちょっとちがうんじゃないかい」

「それをみて、こどもたちの一人が言った。ぼくたちには、お菓子ないの、と」

「飴玉か何かにみえたんだろうね。赤いしね」

「オレは思い出した。ザイカーズ商店でもらった菓子の袋を」

「あたしたち一人一人に一袋ずつくれたね」

「それを取り出して、配り始めた。こどもたちは正気を失ったように騒いだ。あれは狂化の一種なのだろうか」

「ちがうと思うよ」

「ところが、大変なことが起きた」

「へえ。何だか聞くのが楽しくなってきたよ」

「二十五個しかなかったんだ。菓子が」

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― 新着の感想 ―
[良い点] レカンの子供たちへの奉仕の語りが面白すぎて最高! 設定もしっかりしている上に面白い会話も楽しめてすごく読んでて楽しいです! [一言] 面白い作品を執筆してくれて本当にありがとう!!
[良い点] 「孤児院に奉仕に行って、こどもたちを皆殺しにしてどうするんだい」wwwwwwwww がきんちょ達の奇声と絶叫の精神攻撃が聞こえてきます。 身体中にしがみついては落ちていく子どもたちが目に…
[一言] この回の感想を読みたくて改めてカキコ 読み直してもまだ笑えるwww
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