入れ替わる鏡
俺は、とんでもない出来事に巻き込まれるとは、後悔しても、もう……遅い。
「おはよー!」
「おはよう……?」
俺は内海恵一、誰でもいる極普通の高校生男子である。
教室で元気良く挨拶するクラスメイトの真崎真一、彼は人づきあいもしない、平凡な高校生だったのに、彼は一変してしまった。
容姿からすると、普通の七三分けからワックスを掛けたツンツンな髪型に、眼鏡からコンタクトに、服装は規則正しくマナーを守っていたのに、身だしなみがよくなくなっている。
「おはよう……」
「おはよう?」
次に地味な女子生徒が挨拶を交わした。彼女は小坂律子、元々は不良のギャルだったが、ここ最近、急に目立たなくしないように、真面目な地味な女子に変貌してしまった。
「ちょっとー! そんなに女子力なくなーい!」
「口答えしないで」
次にビッチみたいな女子生徒が、小坂をちょっかい出しているのは、西坂えりかは地味なメガネっ娘はずが、突然イメチェンしてしまう。
「おはようございます……」
「え?」
今度は問題児の大島じゃないか。アイツは元々不良生徒で、悪ふざけをしてしまう問題児だ。ところが、奴の態度が怖気付いたような性格に変わってしまった。
一緒にいた取り巻きも含めて……。
「ごめんなさいごめんなさい! ぶつかってすみませんでした!」
「許してください! 殺さないでー!」
その大島と取り巻き達は全員、僕に向けて土下座した。
あんなに悪童ことをしたのに、どうして臆病者になってしまい、犬を吠えただけなのに、驚愕する程逃げ出してしまう。
(一体……みんなどうにかしている)
そう謎めいた顔で、クラスを見渡すところ……
「コラ―‼ テメーら席に就け‼」
「「「!?」」」
その威嚇した声が聞こえ、黒板の教壇に立つ担任教師の坂上先生がやって来た。
「オメーラみたいな駄目な奴らはいい度胸しているなー! アー‼」
元々は無口で、授業態度でサボったり、携帯をしている生徒を知らんぷりしている教師だったが、つい数日前に
何か月ものの間に、クラスや学校の人間が別人のように変化している。
(ひょっとして……)
僕は机の下でスマホを調べると、裏野市の掲示板で書かれていた噂を目にした。確か町外れにある廃遊園地で知られる裏野ドリームランドの仕業かもしれない。
噂に聞くと、ミラーハウスと言う迷路のアトラクションで、数々の鏡で反射的に方向音痴になりやすい。
「やっぱり」
その噂にはこう書かれていた。
そのミラーハウスには、心と性格や態度が入れ替わると伝えられている。
おそらくミラーハウスに吐いた人間は、ある現象の境に、もう一人の自分の姿をした人間に入れ替わり、鏡の世界に引き釣り込まれていく。
「おそらく、原因はミラーハウスの元凶だな」
僕はあまりオカルトには興味がない。でも、本当の場合になったらどうしよう。
「現場に行かないと」
僕はその掲示板に掲載されている噂を真実かどうか、放課後に素早く裏野ドリームランドへと直行した。
「ここがミラーハウスなのか?」
俺は裏野ドリームランドの園内にあるミラーハウスの前に立っていた。
駅でタクシーに乗って、裏野ドリームランドの離れで停車して、運んだ運賃を支払う。歩いて数分が掛かり、裏野ドリームランドの前で立ち往生し、壊れかけのフェンスで侵入し、目的のミラーハウスへとたどり着いた。
「原因を突き止めるには、中へ侵入しないと」
カバンから懐中電灯を取り出し、さっき行く前に、大型チェーンの雑貨店で購入したばかり。電気屋で電池を購入し、電池を入れて明かりを照らす。
(謎を解くカギは……中に入って見ないといけないな)
入り口は閉ざされておらず、僕はミラーハウスの中へと侵入した。
「中へ入ると、たくさんの鏡が並んでいるな」
懐中電灯を照らすと、鏡がピカッと反射してしまい、目が眩しいくらいに周囲を探った。
(どうやってこのミラーハウスに心や別人になりきれるのかな)
学校のみんなが性格や態度を変わった原因を突き止める為、このミラーハウス全体を探し回ったが、何処にも変化する場所が全然見つからなかった。
それにしても、よく数多くの鏡がたくさんあるな。正反対になりそうで迷子にもなりそうだよ。
「結構出来ているよな……」
そう思った中、ポケットから仕舞っているスマホの振動を感じ、取り出すと出張しているメールが送信してきた。確認すると……
〝恵一……ちゃんと勉強している。まさか夜遊びと化していないでしょう。あなたには私がいない間には勝手な行動しないで勉強しなさい。私が帰ってくるまでちゃんとしなさい 母より……〟
また躾の厳しい母親からのメールだ。
(なんでメールなんて送信してくるなよ)
僕は母子育ちで、躾の厳しい母親の育てられた。小学校の時に友達と一緒にゲームを遊んでいるところに見られ、ゲーム機とソフトを壊したり、食生活のバラbb巣を整えて、バレンタイで僕に好きになった女子に貰ったチョコレートを勝手に捨てたり、一日ずっと予習や復習などの勉学に励んでいた。
父親は僕が生んだ直後に自ほかの女と蒸発し、母親は僕を者扱いにして無理矢理勉強を負わせた。
(ふざけやがって……)
そう思いながら、俺は……母親が大嫌いだ。いつもいつも僕を面倒見てくれないのに、勝手に可愛がるのは嫌になった。
家庭環境としてのつまんない人生で、俺は首輪の鎖に繋がれて、母親に支配される臆病な息子とは。
世間では評判が良く、裏から僕を厳しく躾する日々。どうして僕だけがこんな目に合うんだ。
(もう嫌だ……こんなの)
もう母親のいない別の世界に行きたい。
『そんなに嫌になったのか?』
「!?」
人の声が聞こえた。俺の他にもミラーハウスに探検しに来た奴もいるのか。俺は気になって探ってみたが、自分を映し出す鏡でしか見当たらない。
「どこに隠れているんだよ」
首を左右を振りながら探し回ってみたが、待てよ、人がいないミラーハウスには俺以外には……
(まさか……幽霊?)
イヤイヤ、裏野ドリームランドのミラーハウスには、単なる事故や事件などの死人は出ていない。
(もしかしたら……)
『そうだ!』
「!?」
また声が聞こえた。全体の鏡では自分以外写って……自分以外……? ちょっと待てよ、聞き覚えのある声が……
「誰だ! 出て来いよ!」
『いるよ』
(まさか……この声は……)
背後から俺の声が聞こえた。恐怖を感じて震え上がりながら後ろに振り向いた。
「アアア……」
『ギャハハハハハハ!!!!』
懐中電灯から照らすように反射して、その声の主は……鏡に写し出されている自分の姿だった。
鏡と同じようではなく、顔はニヤついて、嫌みそうな顔付で僕を嘲笑するように違っていた。
『お前……そんなに嫌なら俺と変えてみねーか! お袋に首輪を付けた惨めなものだろう』
「なんだよお前! 俺を変装した誰かなんかか」
『残念だけど正真正銘の自分だ。何もわかっていないなー!』
「なんだって!」
そんな訳がない。あれはタダの幻覚かもしれない。僕は頬をつねったが、痛みを感じてしまい、やはり本物だ。
「痛いー!」
『イテー! 何すんだよ!』
「同じ痛みを!?」
『当たり前だ!? お前は俺なんだよ』
まさか鏡にいる偽物の自分も、同じ痛みを味わったのか。そんなことあり得ない。
『俺はお前の記憶もわかっている。母親の支配に怯えて、ゲームを壊されたり、お菓子を粗末されたり、勉学を厳しく躾の毎日だったな!』
「そんな……」
『それはお前は俺なんだからな!』
自分以外、家族の事なんか知らないはずなのに、どうして僕の事を覚えている。まさか本当に記憶があるのか。
『なら話は早い! お前は俺の仲間に入れ替わった事を探りに来たな!』
「グッ!?」
『なら見せてやるよー!』
数々の鏡から、いくつか反射するように写し出されていく。
『なんですかー! 受験が間に合わない!』
『ここから出してよー!』
『何処なんだよ!』
『出してくれよ!』
『出せー!』
写し出されていたのは……鏡に入れ替わってしまった人間である。
俺の知るクラスメイトや担任教師が、鏡の自分に閉じ込められてしまった惨めな姿だ。
『じゃあ……お前も奴らと同じ鏡の世界に閉じ込めてやるー!』
「オイ……ヤメロ……来るなー!」
もう一人の自分は、鏡からにゅるっとスラリとすり抜けて来た。僕は慌てて逃げ出したが、遅かった。もう一人の俺が、俺の腕を掴まれてしまった。
「ウワアア―――!!!」
俺は……鏡の世界へと閉じ込められてしまった。
『邪魔だオラー!』
「なんだ!」
自転車を蹴っ飛ばして、苛立つピアスや髪を染めた男子生徒……内海恵一は恐ろしい不良へと変貌した。
「アイツ……元々真面目だったのにどうして?」
「母子過程だったんだ。躾の厳しい母親の育てられて」
「どうして」
「勝手に自分の物を壊したり、勝手に勉強を押し付ける毎日だったんだ」
「それで、内海は母親を暴力を振るったのがワルの始まったんだ」
「アイツのお袋さんは?」
「怖気付いて言いなりにされてるんだって」
躾などの毎日を送った内海、母親に報復をして家庭内暴力を起こすなんて、あんなにぐれる奴じゃなかったのに。
「ねえ知ってるか? 裏野ドリームランドにあるミラーハウスの噂?」
「噂?」
「ミラーハウスには、噂があるだろう。人間の性格や態度が変わるって……」
「マジか?」
「行ってみないか?」
次にミラーハウスで誰かが別人に入れ替わるかもしれない。今後とも……俺と同じ鏡の世界に閉じ込められたら……。




