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裏野ドリームランドの怪  作者: 三太郎
3/8

消えた少女 後編

「だいぶ様変わって錆びれてしまったのか」


 私は死んだ友人のタクちゃんの代わりに、裏野ドリームランドの消えたりっちゃんの為に突き止めに行った。鎖に繋がれて封鎖ふうさした門には入れず、壊れたフェンス越しで敷地内へと忍び込んだ。

 廃墟と化した遊園地の辺りは、薄汚れて錆びれていたり、辺りにはガラスが割れた破片と、ゴミや物など不良の誰かが壁に落書きをしていたり、アスファルトには草などが生えていた。

 弟から聞いた話によると、裏野ドリームランドで、何十年物の間、遊びに来た数々の人間が、園内で遭難したように行方不明者が続出していて、警察にも捜査している途中に、突然いなくなった警察官もいたらしい。その社長と支配人は頭を抱え込んでしまい、入場数の人間が少なくなってしまい、あっけなく廃園になってしまった。

 

「いなくなった原因を突き止めないと」


 私は遊園地内を探索した。集中する中、何が気味が悪いな。


(そういえば、聞いた事があるような気がする)


 テレビで特番の生放送でやっていたな。オカルト関連で【神隠し】と語られた。土地の神様を信じない人間は、怒らせた場合にいなくなる言い伝えがある。

 もしかしたら、あの裏野ドリームランドも土地神様も存在したかもしれない。そう思った中……


「あーー! あんなとこに人がいるー!」

「!?」


 突然、耳元から子供の声が聞こえる。振り向くと、さっきの家族連れの子供が、私に向けて小さく指を刺す姿だ。


「君? どうしてこんな場所にいるんだ? ここはもう立ち入り禁止だから危険だぞ」

「おじさんこそ、なんでこの古い遊園地に忍び込んでいるけど、いけないんだ……」

「それは……」


 子供に注意される私は、何も言い返せない。

 さすがにお見通しってわけか。


「おじさんはな……昔はここで遊んでいたんだよ」

「そうなの! やっぱりおじさんも遊んでいたんだ」

「どうして」


 7歳くらいの少女は、この年齢だとまだ生まれていないはずじゃあ、どうして〝も〟と言ったのか……


「君……もしかして?」

「あのね、パパとママが出会った場所もこの遊園地なの」

「はい?」

「パパとママがね、出会ったのが遊園地なの、だからいつも結婚記念日でこの場所に遊びに来てるの」

「そうなのか」


 なんだ、消えた子供の霊かと思ったよ。あそこで家族連れなのは記念日でピクニックに来ていたのか。なら、この子を早く家族のもとへ連れ戻さないと。


「君、早くお父さんとお母さんのところへ戻らないと」


 私はその少女へ手を差し伸べようとした。


「へへーん! 捕まえる物なら捕まえてー!」

「アッ!? コラッ!?」


 女の子は私に面白がるようにアッチの方へ逃げ出す。


「待ちなさーい!」

「へへーん! ここまでおいでー!」


 私は少女の後を駆けつけた。相手は子供で足が速く、高齢の私には息切れにしやすく、とても追いつけない。

 少女は面白がって右の方へ曲がった。


「キャアアアアア!!!!!!」

「!?」


 突然さっきの少女の悲鳴が聞こえた。私は慌てて同じく右に曲がった。

 

「なあっ!?」

「イヤー! 助けて―!」


 私が目にしたのは、黒い闇色に染まった穴が浮かんでいた。


「おじさん! 助けて―!」


 その穴に出て来たのは、無数の数えきれないほどの色白な肌をした手だった。少女の身体を掴まるように拘束されて、穴に引き釣り込もうとしていた。


「大丈夫か! 今助けるぞー!」


 私は慌てて、少女を助け出そうとして、穴の中に放り込むように飛んで行った。






(どこ行ったんだ?)


 私は平泳ぎをするように、水中みたいに潜った気分で、少女の後を追う。

 辺りには、闇紫色な風景で、くねくねした柱に、とても異次元みたいな怨念おんねんを感じる空間だ。


「おじさーん!」

「あっ!?」


 私は、アッチからその少女の声が聞こえた。急いでその方向へと向かった。

 少女は気を失い、死体のように


「おーい! 大丈夫かー!」

「おじさん!」


 少女は私を見て、天助てんじょのような表情で、喜悦きえつする。

 私は少女の手を掴んで、早く逃げ出さないと、また色白な気味悪い無数の手が襲ってくるだろう。


『貴様ー!』


 その時! 太鼓の音声のような怒鳴る声が耳元から鼓膜が破れる程に幻聴する。

 背後を振り向くと、そこには多数の無数に群がる手の集団が私と少女を襲い掛かる。


『娘らを寄越せー!』

『邪魔者目ー! 殺してやるー!』

「グッ!?」

「おじさんーキャッ!?」


 追いかけてくる無数の手は、背後だけでなく前後から出現し、私はかわそうとしたところ……遅かった。

 無数の手に捕らえられてしまった。少女は引き離さていく。私は身体中握りしめるように、強引ごういんに私をばくする。


「離せー! なんで子供を攫った!」

『知りたいか貴様……我の名はこの土地神様じゃあ』

「土地神?」

『我らを封じた陰陽師のせいでずっと祠に閉じ込められた。お前らみたいな人間が祠を破壊し、結界が解除された』

「それで……君がこんなことを」

『違う。ア奴らは祠と共にいた墓場の霊じゃあ、眠れる場所を失った今じゃあ』

「だからどうして人を攫う!」

『言っただろう。愚かな人間を異次元へ閉じ込めるんだよ。まあ……他の場所も同じ事で連れ去られたんだろう』

「何!?」

『ここは、他のあやかしや妖怪、その怨念な奴らもいる。人がいなくなったのもその原因だ』

「そんな……」


 信じられない。この遊園地が化け物の巣窟そうくつだったとは、ここは元々……古いほこらと墓地の跡地だったなんて、人間をおかしたあやまちを起こしてしまったとは、私も知らなかった。


『さあ……貴様はここで……死ぬのだ―!』

「ガアアアア!!!」


 色白の無数の手は、首や手足など身体中がロープのように引っ張られるように絞殺しようとしている。もう駄目だと思い込み、意識を失うようにしたその時……


『ヤメローーーーー!』

「!?」

『⁉』


 突然、私を拘束した色白の無数の手から解放される。目の前にいる少女も共に拘束が解く。


『!?』


 無数の色白の手から離れた私は、少女の元へ駆けつける。


「大丈夫か?」

「うん! 怖かったよー!」


 少女は啼泣ていきゅうしながら返事をし、私のところへ駆けつける。それにこれは一体どうなっているんだ。

 無数の手が煙のように消えてしまい、さっき耳元に通したのは、小学生ぐらいの少年の声が聞こえた。

 昔の聞き覚えのある声で、私は気になってその声の主は一体?

 その時、私の目の前には、粒子粒の密集し、目が潰れる程に一閃いっせんのように輝いていた。

 治まると、私はまぶたを開くと、とても驚愕な姿を目にする。


『全く……お前はいつもとろいね』

「タクちゃん!」


 そう……私の昔馴染みの友人である病気で亡くなったタクちゃんが目の前に立っていた。

 しかも、あの頃の少年の姿に。


「君……本当にタクちゃんなの?」

「本当にタクちゃんでーす」

「どうして少年の姿なの?」

「もう死んだ姿だから、幽霊姿で少年なの」


 少年のタクちゃんは、エッヘンとした姿勢で態度を取る。死後になった直後、成仏が出来ずに少年の姿のままなのか。


「なんでここにいるんだ。まさかタクちゃん……幽霊で異次元に閉じ込められたのか?」

『違う! 俺をここを呼んだのは、りっちゃんなんだ!』

「え……?」


 今タクちゃんが助けを呼んだのって……遊園地開園した年で最初に行方不明になったりっちゃんが呼んだ。まさかりっちゃんがここに連れて来たのか?


『タクちゃん、シンちゃん!』

「りっちゃん』

「りっちゃん!?」


 白い人影らしい物体がコッチに来てタクちゃんに近づく。すると3Dのように姿が写し出される。


『久しぶりね、シンちゃん……すっかりおじさんになっちゃったね』

「りっちゃん! まさか……数十年間もずっと年を取らないで閉じ込められたのか?」

『違うよ。私はここで死んじゃったの! 私は魂だけになっちゃって、彷徨っていたら、シンちゃんが襲われているところを見かけたの』

「死んだ……? どうして」

『私はね、連れ去られた直後、何年も……何十年もこの異次元に彷徨い続けていたら……肉体が限界げんかいに達して死んじゃったの、だから魂だけが生きている』

「そこで、俺が死んだ世界でりっちゃんに再会したんだ。お前が襲われるところに』

「りっちゃん……タクちゃん」


 やっぱり二人は私の友人だ。一緒にいる少女は謎めいた顔でりっちゃんとタクちゃんの二人を見つめる。

 ところが、何やら向こうから黒い影がぼやけているのを目にした。


『おのれー! 貴様―! 我々の邪魔をするなーーーーーーー!!!!』


 その声は聞き覚えがある。さっきの声の主だ。私を殺し、少女を連れ去ろうとした主犯格だ。

 タクちゃんは鬼の形相した顔で、その黒い影を睨みつける。


『お前がりっちゃんを連れて行くのを見たんだよ』

『そうよ! 私を連れ去ったのは……この闇なんだ』

「なんだって!?」


 やっぱり、りっちゃんを連れ去った張本人だったのか。この苛立つ声には、余程、怨恨えんこんが漂っていく。


『しんちゃん! その子を連れて逃げて頂戴!』

「でも……二人はどうするんだ?」

『お前とその子が元の世界に戻るまで、時間稼ぎに囮になるからさ』

「そんな……でも……」


 私も残って二人を助けたいところだけど、今おんぶしている少女を放っておけない。


『貴様らー!』

「ヒ―ン!」

「あっ」


 黒い影は怒鳴る声を上げてしまい、少女は今にも泣き出しそうだ。

 選択技は……一つしかない。


「わかった……この子を連れて逃げるよ」

『そうね』

『わかってくれただろう』


 私は少女を抱っこするように、逃げる準備をした。


「りっちゃん……タクちゃん……元気でね」

『おうよ!』

『またね』


 私は後ろを向いて、振り向かないように少女を離さないようにしっかりと抱き着く。


『待てー――――!』

『ここは通さねーぜ!』

『私と何もしていない人を連れ去って、その少女を泣いた悪い子はお仕置きよー!』


 後ろから聞こえる二人の声が響き、私は後ろを絶対に振り向かず、走って走って……走り続けた。

 そこでようやく、光り輝く物体らしいのを接触し、私と少女を包まれるように気を失った。








「ここは……」


 気が付くと、私は隣の少女と一緒に、地面に倒れていた。


(戻れたのか?)


 ここは、私の知る廃遊園地の裏野ドリームランドだった。私は無事に戻れたのか。少女は何も怪我をしていなく、どうやら助かった。

 私は気味が悪く、その少女を担いで、遊園地に出た直後、少女は気が付いて、両親らしい男女を出くわし、少女を親の元へ返した。


(二人とも……ありがとう)


 りっちゃんとタクちゃんが無事に祈った。


‟しんちゃん〟

‟シン〟

「!?」


 私は耳を澄ますように驚愕した。私の幼馴染であるりっちゃんとタクちゃんの声が聞こえた。


(そうか……一緒にいられたんだな)


 私は嬉しそうな微笑みで、陽気ようきに溢れる夕立の空を見上げた。



 


 



 



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