第7話「地道に修行」
魔力。
この世界のあらゆる生命に宿ると言われている神秘のエネルギー。
空、山、海、森の木々や湖。
土や石、風や雨にも魔力は宿る。
そして魔力は命と密接な関係にあり、魔力を消費しすぎることで命に関わることもある。
ガイアの民は生まれた時点で魔力を有する。
しかも魔力には上限があり、最初から多くの魔力を有する者や少量の魔力しか持たない者もいる。
故に生を授かった時点で、優劣は決まってるのだ。
たった一人を除いてはーー
◆◇◆
「ムクロよ! もっと神経を集中させるのだ!」
「そもそも神経がありません!」
「気合いでどうにかするのだ! 先程から魔力が全然集まっておらん! もっと空気中の魔力を感じるのだ!」
現在ムクロはモルセラの指導のもと魔法の習得に励んでいた。
しかし魔法を使うには魔力が必要であり、ムクロは地球生まれのため魔力を宿していなかった。
故に最初は魔力を感じることから始めたのだ。
「この世界のあらゆる場所に魔力は漂っている。その魔力を体内で練りこみ、自分の魔力に変換するのだ」
「理屈ではわかっていても、やっぱり難しいですね」
そもそも地球には魔力がない。
そのためムクロは魔力を感じることができなかった。
モルセラが言うには「魔力の感じ方には個人差がある」だそうだ。
「おや、もう夕方か。ムクロよ、今日の修行はここまでだ」
「すみません。今日も良い結果を出せませんでした」
「気にすることはない。時間は幾らでも有るのだからな」
その通りだ。
今の俺には寿命がない……かもしれない。
もしそうだとしたら、ほぼ永遠の時間があるといえる。
モルセラさんはドラゴンだから寿命がどれくらいなのかは全く見当が付かない。
第一地球にはドラゴンなどいないのだから、想像するだけ無駄だろう。
◆◇◆
深夜、月明かりが大地を照らす。
森は静寂に包まれ、全ての生物は夢見心地となる。
たった一人を除いてはーー
「はぁ……暇だな」
島全体の生物が睡眠中の中、ムクロだけは起きていた。骸骨である彼に、睡眠は必要ないからだ。
本来なら魔法の練習を一日中しようと当初は考えていた彼だが、島に住む生物たちに迷惑がかかると考え、朝から夕方までを修行の時間にすることにしたのだ。
できるだけ生態系に影響を与えないための、ムクロなりの考えだったのだ。
「それにしても、俺は成長しないな……」
現在ムクロは魔力を感じることから始めているのだが、一向に進展しない。
まだ一週間ほどしか経っていないにも関わらず、ムクロは焦っていた。
「このままじゃダメだ。いつまで経っても変わらないし、モルセラさんにも申し訳ない」
もちろんモルセラはそんなことを思わない。
ドラゴンである彼女からすれば、数百年の月日さえあっという間に感じるのだから。
「ガイアに転生して一年も経つのに、俺は何も変わっていない。情けないな……」
彼は自分の死を知りこの世界に転生した時、少なからず希望を抱いていた。
地球では不甲斐なかった自分でも、異世界ならうまくいくかもしれないと。
だがそれは間違いだ。
地球であろうと、異世界であろうと。
努力しなければ結果は出ないのだ。
場所が変わっても、自分は自分。
変わろうとしなければ、何も変わらない。
「お前なら……どうしてたんだろうな。いつものように『結果と努力は比例しないよ!』って言うのかな?」
まるで視えない誰かに話しかけるように、ムクロは静かに笑う。
その乾いた笑い声は、夜空へと消えていった。
彼は変わらない。
彼は変われない。
少なくとも、虚無の影に囚われているうちは。