第6話「魔法の勉強」
きっかけは数ヶ月前。
モルセラと会話してるときのことだーー
「モルセラさんに相談したいことがあります」
「相談? この我にか?」
「はい。結構前から思っていたことなんですけど、俺って骸骨じゃないですか」
「そうだな」
「今の俺だと喋れないんですよ。声帯がないので」
「我には念話がある。故に意思疎通には困らないはずだが?」
まだ俺が地球にいた頃。
職場の奴らと何気ない会話をしていたことを思い出し、改めて自分の声を出そうとした。
しかし無理だった。
今の俺は骸骨のため、声帯がない。
そのため声を出せなかった。
意思疎通だけならメールや手話などで伝えられるのだが、この世界に携帯電話や電化製品があるのかはわからない。
それに手話をやろうにも、教えてくれる人は誰もいない。
この島にいる人間は、俺だけなのだから。
「と言うわけで、骸骨でも声を出せる方法ってないですか?」
ほとんど駄目元だ。
しかしやることがない以上、今はなんでもいいから目標が欲しい。
「声を出す方法、か……」
腕を組み眉間にシワを寄せるモルセラさん。
組んだ腕の上で豊富な胸部がぷるんと揺れるが、俺は気にしない。
そんな様子の彼女を見守ること数分。
「一つ、心当たりがある」
「本当ですか!」
自分でも驚くほど喜んでいた。
ガッツポーズで。
「ああ。だがその方法を実践するには魔法を習得する必要がある」
「魔法ですか?」
魂の案内人から、この世界には魔法が存在するということは聞いていた。
実際、家作りの最中にモルセラさんが魔法を使い、視えない風の刃で木材を加工していたのを間近で見ていたのだから。
しかし俺は、魔法そのものがなんなのかを知らない。地球にいた頃の魔法のイメージは「いろいろ出来て便利」程度の知識しかなかったのだから。
魔法の由来も使用方法も、まったく知らない。
「俺でも、魔法が使えるんですか?」
「それは我にもわからん。だが可能性がある以上、試す価値はあるだろう。ムクロもそう思うだろう?」
「はい! 少しでも可能性があるなら、俺はなんでもやってみせます」
もともと期待してなかったんだ。
なのに方法があるかもしれない、なんで言われたら試すしかないじゃないか。
「わかった。ではこれからは我が魔法に関する知識と技術を教えるとしよう」
「はい! よろしくお願いします! 師匠!」
「しっ、師匠!?」
なんで驚いているんだろう。
俺がモルセラさんに教えを請うのだから、俺は弟子で彼女は師匠。
ということでいいんだよな?
「ーーあぁ、そうか……師匠か……」
「もしかして、嫌でしたか?」
「いいや、そうではない。我の人生において、師匠などと呼ばれたのは初めてなのでな。少し驚いただけだ」
驚いただけで嫌ではなかったようだ。
よかったよかった。
◆◇◆
「まず音についてだが、ムクロはどこまで知っているのだ?」
「確か空気が振動して聴覚に届くことで、音として感じることができるはずです」
「そう、音とは空気の振動だ。では声はなんだ?」
「声は発声器官を使って出す音、だったと思います」
「ほぼ正解だ。発声器官を使い空気を振動させることで声を出し、会話をすることができる」
音と声の原理は俺でも少し知っている。
しかしこの質問、魔法と何の関係があるんだ?
「ムクロよ。私がこれから教えるのは『風魔法』だ」
「風魔法……ですか?」
「風とは気圧の高い方から低い方へと向かう水平方向の空気の流れのことだ。つまり風魔法を習得すれば、空気を操り擬似声帯を作り出せるかもしれない」
「なるほど! そんな方法があったんですね!」
「つい先程思い付いただけで、成功するかは我にも分からん。あまり期待するな」
「いいえ、十分期待できますよ」
こうして俺は、風魔法を習得し声を手に入れるという新たな目標ができた。
これから忙しくなりそうだ。