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骸旅  作者: 眠維ノヨ
第ニ章 骸と少女
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第17話「遭遇と戦闘」

 広大な森を進む一行。

 歩き続けると見覚えのある景色ばかりで、目的地に進んでいるのか不安になる。

 しかし三人は目的地に急いでいる訳ではない。


 特にムクロはこの状況を楽しんでいた。

 地球にいた頃から冒険をするのは好きだった事もあり、こうして森を歩く途中で発見した見慣れぬ植物や動物に興奮していたのだ。


 ただ本人の外見が骸骨ということもあり、モルセラとアリステラにとっては常に無表情に見えるのである。


 彼が内心まだ見ぬ世界に想いを馳せていることなど、到底考えてなどいないだろう。



 それから暫くして、夕暮れ時。

 彼らは森を抜けた先にある山の山頂にいた。


「今日も相当歩きましたね。と言っても景色は変わらず木々ばかりでしたけど」


 ムクロは近くの木々を切り倒して作った即席の丸太椅子に座り、焚き火の準備をしていた。


「私は途中の川で見かけた魚が気になりましたね! どんな味がするのでしょうか?」


「やめておけ。あの魚は昔食った事があるが、骨が多いから取り除くのにてこずるかも知れぬぞ」


 モルセラからの説明を聞き落胆するアリステラだが、知らない知識を得た事で気分を良くする。


 アリステラは元々豪華な料理の味に慣れてる分、庶民が口にする料理を前々から食べてみたいと思っていたのだ。


 そんな二人の雑談を聞きながら、せっせと作業をするムクロ。

 落ち葉や木の枝を集め、あまり得意ではない炎魔法で火を点ける。


 ムクロ自身、一年に及ぶモルセラとの修行により身体能力は並みの上程度の実力になったが、魔法に関しては基本的に戦闘では使い物にならない。


 しかし日常生活や野宿においては非常に便利であり、ムクロ自身も最初に手から火を出せた時の感動は今でも忘れていない。

 それほど魔法を使えた事が嬉しかったのである。



「それじゃあ今回の状況確認をしようか」


 焚き火を中心に三人は座り込み、恒例の『とりあえず今日あったことを振り返ろう会』をするのである。



 ムクロ達の目的はアリステラを祖国であるカルバニル王国の王都ダムドに連れて行くこと。

 彼女が往生で起きた悲惨な事件と襲撃を知り、協力する事となったムクロとモルセラだが、陸に降り立ち歩き続ける事5日間、町どころか村すらない。


 というか人とも遭遇しない。

 途中で出会いがあるとすれば、もはや友達とも言える森の木々や植物達と、時々見かける川くらいであろう。


「本来なら人里で情報収集をしたいところですが、あとどれくらい歩けばいいのか見当もつかないね」


 ムクロはこの事態に少々焦っていた。襲撃された王都に加えて王族及び兵士や使用人の集団殺害、暗躍する謎の組織。

 どう考えても王都が大混乱するはずだ。


 何より国王が殺されているのだから、事態の深刻さは一目瞭然である。

 だからこそ、ムクロは一日でも早く王都に到着して現状を確かめたかったのだ。



 まあ途中で珍しい植物や動物に夢中になっていたのは置いといて。



「前にも言ったが、我がひとっ飛びすれば済む話であろう。こうして地道に歩くのもいいが、少々飽きてきたぞ」


「そ、その気持ちはわかりますが、もしドラゴンが飛んでいるところを目撃されれば、それだけでも国家問題に成りかねないんですよ!」


 これも一つの問題である。

 この世界にとってドラゴンは種族の頂点に君臨する存在であり、その個数はもはや指で数えられる程度だとアリステラは語った。


 そしてドラゴンには悠久の時を経て身に付けた叡智と、万物を司る聖なる力を宿すと言われている。


 ムクロは最初にこの話を聞いた時はあまり納得しなかった。

 何故ならモルセラと一年間を共にしたが、彼女からはそういった気配や強者特有のオーラを感じなかったのである。


 良く言えばフレンドリー。

 悪く言えば強者の風格の無さ、であろうか。


 だがムクロ自身もモルセラの実力を完全に理解している訳ではない。何せ孤島での生活において、彼女が戦闘行為をしたことはほぼ皆無だったからである。


 島の獰猛な魔物や動物は、力の上下関係を理解しているのか、彼女に一切襲いかかるような真似はしなかった。

 目に見えない圧倒的な力の差があることは、ムクロも充分理解していたのだ。



「とりあえずモルセラには、もしもの時に備えていつでも戦えるよう心掛けておいてほしい」


「勿論だ」


 ムクロの注意に対しモルセラは静かに頷き、アリステラはそんな彼女の横顔を見て「ああ……凛々しいです、モル姉様……」と小声で歓喜していた。



 (え、いつの間に姉様呼びを?)


 

 そんな事を内心思いつつ、話を続けるムクロ。


「今回の一番の収穫は、この山頂から見えるあの集落です。どうやら小さな村のようだけど、王都ダムドについて何かしらの情報が掴めるかもしれない」


 一行が山頂に辿り着いた時に見つけた集落らしき場所と、それを見つけた時の三人の喜び様は実に微笑ましい光景だった。


「ただ、村の住人がどんな人達か分からない以上、二人とも気をつけてね」


「今の私達は見た目こそ怪しさ満点ですが、もしもの時は……ね? お姉様」


「うむ、我に任せろ」


 豊富な胸を張って自信に満ちた様子を見せるモルセラと、その姿に瞳を輝かせる少女の姿がそこにあった。


 (あ、やっぱり姉様呼びなのね)


 と、どこかデジャブ感を覚えるムクロは苦笑いをしつつも、内心この様な穏やかなひとときを確かに胸に刻むのであった。



◆◇◆



 次の日の朝、起床した三人は早々に準備を済ませ山を下ることにした。


「このペースなら、あと数十分で村に到着するかな」


「楽しみですね! どんな光景が待ってるのでしょうか?」


 一行は雑談を交えつつ歩き続けた。

 目的地が明確になったことで、彼らの足取りはいつもより少し早くなっていた。


 無意識の期待感と一刻も早く行きたいという思いが、そのまま行動に現れた結果である。




「待って」


 ふと足を止めるムクロ、その声に釣られ彼を見る二人が問いかける。


「どうしたムクロよ?」

「何か気になることでも?」


「……声が聞こえる」


 ムクロの言葉は二人に少なからず動揺する二人。

 村までの距離はまだあるため、近くに人でも来ているのだろうかと考える。


 そして二人は森に耳を傾ける。



「…………っ……」



 確かに何かが聞こえた。

 更に注意深く聞いてみると、次第に声が近づいて来るのがわかった。


「たす……け……!」


 それは次第に


「助けてー!」


 近づいて


「助けてーーーーーーーー!」


 目の前を通り過ぎた。



「ふはははは! ガージよ、いい加減観念せい!」


「ふざっけんなコラ! 誰が捕まるかよこんにゃろーめ!」



 少し状況説明がわかりにくかったと思うので、もう少し主語を明確にして説明しよう。


 ムクロ一行の前を、汗だくになりながらも全身全霊をかけて走る少年と、何故か上半身裸の筋肉モリモリの笑顔が素敵なお爺さんが走り去って行ったのである。



 その場に残された三人は、しばらく脳内で考えた。とりあえず考えてみた。

 そして偶然にも、三人の感想は同じであった。




「「「………………え?」」」


 そう、唖然としていたのである。

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