表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骸旅  作者: 眠維ノヨ
第ニ章 骸と少女
17/21

第15話「海と事件」

ムクロ

「今日はいい天気ですね」

モルセラ

「当たり前だ、雲の上なのだからな」



アリステラ

「死ぬぅぅぅぅぅぅう!」

 晴れ晴れとした空、鳥たちが優雅に飛ぶ。

 暑すぎず寒すぎず絶妙な天気の中、勇敢な船乗りたちは海を進む。


「船長! 今日は快晴ですぜ〜」


「そんな事は分かっている。それよりも、海中の魔物に気を付けろよ」


「「「了解です!」」」


 彼らは行商人の船団であり、今回はとある国へ向かっていた。

 目的は小売する商品の調達である。

 商人と行商人の主な違いは、店舗を構えているかいないかである。

 商人の場合、自ら商品と店を用意し客を呼び寄せる。

 一方で行商人は、店を構えず商品を持ち歩いて小売するのだ。言わば歩く店と呼ぶべきだろう。


 そして彼らが現在目的地を目指すあたり、最も恐れている事、それは魔物の襲撃である。


「あと一時間もあれば着くはずだが、警戒は解くな。奴らはいつ何時も油断ならないからな」


「船長も大袈裟ですねー。何のために、わざわざ腕利きの冒険者を雇ったと思ってるんですか」


「彼らを信じてはいるが、それでも確実に安全とは言えん。世の中に絶対などないのだからな」


「はぁ〜、船長は注意深すぎますよ」



 そんな何気ない会話をしている時だった。

 突如として船が激しく揺れた。


「船長! 船の下に何かが引っかかったみたいですよ!」


 船員の一人が海面を覗くが辺りに岩などの障害物は無い。


「いいや違う……」


 まさかと思い船長は海面を覗き込む。

 すると数十匹もの影がうようよと動き、船を突いていたのだ。


「この数にこの大きさ、少しヤバイかもしれんな。おい! 誰でもいいから冒険者様を呼んでこい!」


 船長が叫び船員達に命令を出す。

 魔物の襲撃だと予想したからだ。


 焦る船長の命令に船員たちは慌てて冒険者を呼びに行く。この危機的状況でも、彼らならば解決してくれるであるとの考えたからだ。


 しかし相手も都合よく待つわけがなく、船に突進する。その度に激しく揺れ船員たちの不安を煽る。


「せ、船長! 船底が破られました!」


「何だと!?」


 船底が破壊され船内に海水が侵入してくる。

 このままでは沈没は免れないと考えた船長は、素早く船員たちに命令する。

 最悪の場合、船に積まれた荷物を捨て、泳いで海岸を目指すしかない。

 例え商品を失うことになろうとも、命さえあればやり直すことが出来るのだから。


 そうしてせっせと行動としているうちに船員たちが異変に気付く。


「あれ……揺れが収まった?」


「もしかして、魔物どもがいなくなったのか?」


 先ほどとは打って変わり、今は風と波の音しか聞こえない。

 船員たちも安心したのか、海面を覗き込み魔物の姿を確認する。しかし姿は見えない。


「警戒を解くな! まだ近くにいるぞ!」


 船長は船員達に呼びかけ、次の襲撃に備えるよう呼び掛ける。


 この海域では基本魔物はいない。

 しかし少数ではあるが生息しているのだ。

 それでも船を集団で襲うような野蛮な魔物は少ないのだが、今回はその少ない不安に出会ってしまったようだ。



 再び船が揺れ始めるも、船員達は慌てることなく迅速に対応する。


「船長! もうすぐ港です!」


「よし! 何とか持ちこたえろ!」


 船底から海水が侵入し始めてから十数分が経ち、船も徐々に沈み始めている。

 しかし数キロ先には目的地である街の港が見えている。後は時間との勝負だ。



「せ、船長! なんか大きな影がこっちに向かってるんですけど!」


「おいおい……勘弁してくれよ」



 船員が指差す先には、海面から飛び出た背鰭がこちらへと向かっていた。

 その姿を捉えた数秒後、突如として影は速度を増し船目掛けて泳いでくる。



 そして海面から姿を現したのは、巨大な鮫だった。


「あれは……デーモンシャークか!?」


「船長は知ってるんですか!」


「ああ知ってる。昔、俺がガキだった頃に一度だけ見たことがあるが……あんなに大きくはなかった」


 過去を思い出し身が震える船長と、その様子を見て不安が増す船員。



「大丈夫ですよ、船長さん」



 二人の背後から声が聞こえ振り向くと、そこには三人の人物が立っていた。



「遅れてごめんなさい。ミナが中々起きなくてね」


「アタシのせいにしないでよ! ちょっと食事をしてただけでしょ!」


「船が魔物の襲撃中だというのに、お菓子を優先するなんて信じられない!」


「だってお腹が減ってたんだもん! 文句ある!?」


「二人とも、今は争ってる場合じゃないだろ……」



 そこにいたのは互いに口論し合う二人の少女と、それを間に入って宥める少年だった。


「船長! 冒険者様を呼んできました!」


「冒険者様って……普通に冒険者でもいいのに」


 一見したら十代の子供達だか、彼らこそ行商人達が雇った冒険者である。


「僕らが来たからには、もう大丈夫です」


 そう言うと冒険者の少年は甲板に立ち、腰に装備された感を引き抜く。


 その先からは先程の魔物、デーモンシャークが猛スピードで迫って来ていた。

 そして海面から飛び跳ね、その巨体が露わとなる。


 ギロリと少年を見つめ、大きな口を開ける。

 そこには鋭い牙がギッシリと並んでおり、船を丸噛りすることすら可能なほど口を開いていた。


「冒険者様! 早く逃げてください! 食われちまうぞ!」


 船員の叫びも虚しく、相手は少年目掛けて飛んでくる。

 しかし少年は微動だにせず、剣を高く上げ……


 振り下ろした。




 ザバァァァァァァァァァァァァァァア!




 一振り。

 それだけで海が割れ、魔物も綺麗に真っ二つになったのである。

 ボスが倒されたことにより、他のデーモンシャーク達は一目散に逃げていった。



「海が割れた!?」

「スンゲェェェェェェエ!」


 その光景を見た船員達が喜びの声を上げる。

 船長は喜びよりも驚きの方が強いせいか、放心状態になっていた。


「アキト君の実力なら、あれ程の斬撃を飛ばさなくても倒せたはずなのに」


「つい力が入っちゃってね……」


「アタシはあのド派手な倒し方、好きだけどなぁ」



 三人の活躍、正確には少年一人の活躍により船に平和が戻ったのである。

 つい先程まで戦闘をしていたとは思えないほど、船内は活気を帯びていた。


「冒険者様のお陰で死者が出ずに済みました。本当にありがとうございます」


 船長が深々とお辞儀するのに対し、彼らは「仕事をしただけですよ」と答える。


「それよりも船長さん、今は船底の修理が必要です。落ち着くのはまだ早いですよ」


「確かにそうですね。もうじき港に到着するので、少しの間お休みしててください」


 そう言い残し、船長は船員達を連れ下の階へ向かって行き、甲板に残された三人は雑談で時間を潰すのであった。




 彼らは知らない。

 この瞬間、船の真上をとある生き物が通過したことなど。

 皆様、長らくお待たせしました。

 第二章の始まりでございます!


 え、主人公達はどうしたかって?

 大丈夫です、ちゃんと次回出ますから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ