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骸旅  作者: 眠維ノヨ
第一章 骸と竜
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第14話「そして冒険へ」

 アリステラの依頼は、自分を祖国へと送り届けてほしいというものであった。

 彼女にとって二人は命の恩人であると同時に、腕利きの護衛になると考えたのだ。何より、今の自分には何もないため、二人に御礼をすることすら出来ない。



「情けないですが、今の私は只の一人の女性に過ぎません。そのため、是非お二人を祖国へ招待したいのです」


「なるほど。それなら尚更行かないとな。モルセラさんはどうですか」


「うむ。異論はないな。我も長き間、暇を持て余していた故、お前を祖国へ送り届けるとしよう」


「本当に、ありがとうございます。このご恩は決して忘れません」



 まだ出発すらしていないのに気が早いなと思うムクロだったが、とある重大なことに気づいてしまった。



「アリステラさん。一つ聞いておきたいことがあるんだけど」


「はい。なんでしょう」


「今の俺とモルセラさんだと、国どころか街にすら入れないよ」


「あ……確かに、そうですね」



 アリステラ自身も二人との会話によりすっかり忘れていたのだが、今のムクロとモルセラは裸なのだ。

 ムクロに至っては骨まで丸見えだ。

 アリステラはもともと着ていたドレスがあるものの、血と土で汚れてしまっている。


 つまり三人共、格好が世間的にアウトなのだ。

 特にムクロは、魔物と勘違いされ攻撃を受ける可能性もあるため死活問題だ。もう死んでるけど。



「これはまずいな。出発する前に、服をなんとかしないと」


「我は元の姿に戻れば問題なかろう」


「街中にドラゴンがいたら住民が混乱しますよ!」


「え、モルセラ様はドラゴンでいらっしゃったのですか!? ですが、どう見ても人間にしか……」


「はて。言ってなかったか?」



 首を傾げ過去の台詞を振り返るモルセラと、それを横から微笑ましく思うムクロ。

 二人の態度に、思わず笑ってしまうアリステラ。

 アリステラはて久しぶりに心の底から笑ったことに驚きつつ、二人に出会えて良かったと改めて思うのであった。



◆◇◆




「これはすごいですね。全て冒険者のものですか?」


「そうだ。かつて我に戦いを挑んだ者たちの武器や防具だ」



 あの後、モルセラは何かを思い出したように洞窟へと向かい、帰って来た際に、大量の武器や防具、衣類等を持って来たのだ。

 それらを家の庭に無造作に置き、自分たちが着られるものを選んでいたところだ。



「一般的なものもあれば、珍しい素材で作られた武器や絹の服などもありますね」


「俺は品質とか関係ないからな。とりあえず全身の骨を見えないようにしないと」


「我は適当に選ぶとしよう」



 そもそもモルセラが、何故このような品々を保有していたのかというと。

 遥か昔に彼女を討伐すべく洞窟に訪れた冒険者達から手に入れた物だからだ。


 しかし盗んだ訳では無い。

 敵である冒険者達がモルセラとの戦いに敗れ、彼女の圧倒的な力を目の当たりにし、命乞いと同時に自分の装備品も差し出して来たのだ。


 当然、ドラゴンである彼女には必要ない。

 だが彼女は普通のドラゴンと違い、彼らの要求を受け入れた。

 最初はそんな物を貰っても困ると断ったが、怖気付いた冒険者達は諦めなかった。


 モルセラは早急に冒険者達に立ち去ってもらいたかったため、渋々装備品を受け取ることとなり、そのまま現在まで保管していたのだ。



 そうして選び続けること数十分。

 三人の服装と装備が決まった。



 ムクロはフード付きの黒のロングコートと、刀身が黒く竜の紋章が施された、黒刀の双剣を腰に装備している。

 剣術の心得など無いムクロにとって、双剣は見た目脅しのような物だった。

 顔は銀色のドクロマスクを被り、頭蓋骨は見えないようになっている。しかし骸骨がドクロマスクを被るというのは些か疑問を覚える。

 さらにブーツと革の手袋をすることで、ムクロの全身を隠すことに成功した。

 これで骸骨だとバレる心配は無いが、代わりに怪しさが倍増してしまった。

 ちなみにムクロは骸骨のため、温度や汗などには困らない。



 モルセラは自らの鱗を変質させて生み出した、シンプルな黒いドレスを身にまとっていた。

 服装が髪の色と同じ黒ということもあり、気品のある顔立ちと艶やかな黒髪が絶妙なバランスで成り立っている。

 その見た目は護衛する側より護衛される側だと誰もが思うだろう。武器も持っていないため、もはや彼女が護衛などと思う者はおるまい。

 ましてやドラゴンなどと思う者などいるはずもない。



 アリステラはノースリーブの白シャツと胸甲、白いローブとミニスカートに白タイツという、結構露出度が高い格好をしている。

 この格好に本人は「今までドレスばかりだったので、一同こういう服を着てみたかったのです」と歓喜の声を上げている。

 武器は身長と同等の長さの杖だ。

 どうやら宮廷魔道士に魔法の指導を受けてたらしく、そこそこ魔法が使えるらしい。

 白髪のため、美しくも色気のある白魔道士となった。

 ムクロとしては王女は常に護られる立場であり、戦闘能力など皆無だと思っていたため、かなり驚いている。



 結果として、服装の問題は解消された。

 だが今の三人共を他者が見れば、黒ドレスが似合う美女貴婦人と、それを護衛する漆黒の剣士と純白の魔道士という、なんとも豪華な三人組となった。


 しかし、これらの意見はあくまで他者からみた意見だ。当の本人達は「着られる服があって良かった」程度にしか思っていない。



「さて、服装も決まったことだし、出発しますか」


「ですが、この島は絶海の孤島なのですよね? 船もないのにどうやって」


「我が二人を背に乗せて運ぼう。故に心配はいらん」



 自ら運び役を名乗り出たモルセラは、人化を解除し本来の姿であるドラゴンになる。

 ムクロはやっぱりドラゴンてかっこいいなと思いつつ背に乗るが、アリステラは目を見開き開いた口が塞がらない状態となっていた。



「ほ、本物の、ドラゴン……なのですね」



 その表情に恐怖や怯えはなく、好奇心と溢れんばかりの喜びが彼女を支配していた。



「すごく感激です! 本でしか見たことありませんが、こんなに大きいなんて。わっ! 尻尾も大きいー! 肌の鱗も宝石みたいに綺麗ですね! 翼も立派で大きいです! 一度広げてみてくれませんか?」



 完全に興奮状態となっていた。


 肌をペタペタ触ったり、尻尾にしがみついたりと、やりたい放題であった。

 彼女の変貌振りを見たムクロとモルセラは、普段の彼女は気品に振る舞う姿が印象的だが、今は年相応の無邪気な女の子にしか見えない。

 それが嬉しくもあり、微笑ましい気持ちにさせた。


「アリステラさん。盛り上がってるとこ悪いんだけどさ……」


「ぐへへへへ〜、はぁ!? しまった、私としたことが、つい興奮してしまいました。恥ずかしいですぅ……」


「我は構わぬが、続きは目的地に着いてからでもいいのではないか?」


「はい……そうします」


 深く深呼吸をして心を落ち着かせ、モルセラの背に乗る。

 小声で「これがドラゴンの背中ですか」と聞こえるが、二人にはバレバレなのであった。



「さあ行くぞ、しっかり捕まれ!」



 翼を広げ、大きく上下に上げ下げする。

 周りには突風が発生し、葉っぱが舞う。

 モルセラは地面を蹴ると同時に双翼を羽ばたかせ、空へ飛び立つ。



「うわあぁぁぁ! 高いぃぃぃーーー!」


「綺麗な海だな」



 アリステラは今までにないほど叫ぶが、ムクロは陽気にマリンブルーの海と、徐々に離れていく島を眺めながら感傷に浸る。



 目指すはカルバニル王国。

 今ここに、三人の冒険が幕を上げた。

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