第12話「恐怖の瞬間」
「なっ!?」
誰も状況を理解できなかった。
突如現れた謎の男が、なぜ国王の頭部を掴んでいるのか。
「あれ? みんなどうしたのかな。そんな顔して」
この状況下にも関わらず、謎の男は辺りを見渡し首を傾げる。
場に残された者の中で唯一状況を呑み込めたのは、アリステラでも女王でも兵士達でもない。
従者のマリーナだった。
「兵士達よ! 何を狼狽えているのですか! 兵士としての役割を果たしなさい!」
彼女叫び周囲の人々へ呼びかける。
兵士の思考がようやく戻る。
「隊長命令だ! 謎の男を捕縛せよ!」
兵士達の隊長である兵長が大声で叫び、謎の男に攻撃を仕掛ける。
他の兵士もそれに釣られ次々と飛び掛かる。
「いいねいいね〜! お手並み拝見といこうかな」
謎の男は国王の頭部を投げ捨て、腰から剣を引き抜き兵士達と戦闘を始めた。
「アリステラ様、すぐにこの場から離れましょう」
マリーナはアリステラの手を掴み走り出した。
「え、なぜですか? 今あの男性と戦っているのは国の精鋭ですよ! 逃げる必要がありません」
「いいえ。おそらくあの者は、兵士達よりも段違いに強いでしょう。兵士達でも時間稼ぎ程度にしかなりません」
「そんな……」
廊下を進み、城の庭へたどり着く。
城の中からは怒号と悲鳴が響き渡る。
城の城門を守護していた兵士はみな斬り殺されていた。
「アリステラ様、これから馬車でできるだけ遠くへ向かいます」
「行き先はどうするのです?」
「ノラトニム王国へ向かいましょう。ここから一番近い国です」
焦りながらも丁寧に説明するマリーナ。
彼女としては一刻も早くこの場を離れたいのだが、国王亡き今となってはアリステラ王女が自分の主君だ。
適当な説明では彼女を説得できないと考えたのだろう。
「マリーナ、ここから一番近いのは隣国のバディアラス王国のはずですが。それに、わざわざ隣国へ行く必要は無いと思うのだけど」
「これは私の勘ですが、この状況は予め計画されていた可能性があります」
「計画って、どういうことですか!? マリーナ、あなたは何を知っているの!」
マリーナの方を掴み問いただすも、マリーナは黙りこくる。ただアリステラの顔を、哀れんでいるような目で見つめるだけだ。
「お願い……マリーナ。何か話して」
「……アリステラ様。私は」
マリーナが語ろうとしたその時。
アリステラの視界が真っ赤に染まった。
マリーナの胸から刃が生えており、辺りを血で濡らした。
「ダメじゃないか、マリ〜ナちゃん」
胸から剣を引き抜きマリーナを蹴飛ばしたのは、先ほどまで兵士達と戦っていた謎の男だった。
「うぐっ……あぁ……」
「マリーナっ!」
倒れた彼女に駆け寄り、手を握るアリステラ。
胸から血が流れ続け地面を赤く染めていく。
「死んではなりません! マリーナ!」
「はぁ……、アリ、ステラ……さま」
そんな二人の様子を謎の男はニヤニヤと眺める。
二人の方へ歩き、徐々に距離を詰めていく。
「計画と違うじゃないか。もしかして〜、その子に情でも移ったのかな〜?」
「……ザクロ、随分と、早かったわね」
その男は空を見上げ、狂ったように笑い続けた。