第11話「語り知る」
「ひぐっ……ゔうっ…………」
「あの、その、なんかごめんね」
「ムクロよ。その謝罪は寧ろ逆効果だと思うぞ」
あの後、二人の絶叫を聞きつけたモルセラは急いで場に駆けつけたのだが、そこで目にしたのは、ベットの上で泣き噦る少女と慌てふためくムクロの姿であった。
「モルセラさん。今の俺って、そんなに怖がられる見た目なんですか?」
「そうだな。喋る骸骨など、せいぜいスケルトンかリッチに限られるからな。ムクロの姿を見て魔物と勘違いしたのだろう」
「はぁ……、そうか、やっぱりそうなのか」
出るはずもないため息をつくムクロをモルセラは「気にするな」と慰めた。
「ごめん……なさい。命の恩人に、このような無礼を……」
「大丈夫ですよ。俺だって目の前に喋る骸骨が現れたら驚きますよ。まあ俺が言っても説得力はないと思うけどね」
「少女よ、何事も慣れることだ」
「そう、ですね。確かにその通りです」
少女は少しづつだが、心を鎮め冷静になった。
先ほどまで大泣きしていた少女はもういない。
「改めまして、私はアリステラと申します。この度は魔物に襲われそうになったところを救っていただき、ありがとうございました。この御恩は一生忘れません」
「一生は大袈裟な気もするけど、元気そうで何よりです」
「その感謝の気持ちと誠意は受け取るとしよう。さて少女よ。我はお前に聞きたいことがあるのだが、聞いてもよいか?」
「何なりとお聞きください」
少女が目覚めたことで、ようやく本題に入れる。
ムクロにとっても、この世界で最初に出会った人間ということもあり聞きたいことが山ほどあった。
しかし一気に質問攻めしては、彼女の身がもたないかもしれない。
二人は少女の容態を気にしつつ質問を始めた。
「まず始めに、お前はどうやってこの島へ来たのだ?」
「ここは島だったのですか」
「絶海の孤島って言えばわかりますか?」
「あ……はい。理解しました」
まだ若干ムクロに怯えている様子のアリステラ。
危険はないとわかっていても、やはり怖いのだろう。
「私がこの島へ来た理由は、転移石により強制転移させられたからです」
「「転移石?」」
知らない単語が出て来たため、二人は互いに見合わせる見合わせた。そんなキョトンとした二人を見た少女は、説明を続ける。
「私も詳しくは知りませが、その転移石のせいで私は偶然ここへ飛ばされたと思います」
「飛ばされたってことは、自分の意思ではないってことだよな」
「はい。その通りです」
「少女よ。その言い分からすると、お前は何者かに無理やり転移されたように聞こえるのだが?」
「…………」
モルセラの質問に少女は口を閉ざしてしまう。
誰も口を開くことなく数分が経過し、少女は意を決したような表情を見せる。
「ーーあなたの仰る通りです。私は、あの悍ましい存在に、ここへ飛ばされたのです」
少女の表情が険しくなる。
その表情が何を意味するのか。
二人は即理解した。
「詳しく聞かせてください」
「恐らく、話しても信じられないと思います。それでも聞きますか?」
「とりあえず話せ。内容を聞かねば判断のしようがない。信じるか信じないかはその後だ」
「ーーわかりました」
◆◇◆
夕暮れどき。
沈みかけの夕焼けが街を照らす。
人々は行き交い、賑やかさが増す。
朝より夜こそ、盛り上がるというものだ。
「アリステラ様、そろそろ夕食の時間です」
「もうそのような時間ですか」
「朝から夕方まで読書なんて、お体に障りますよ」
「分かっていますよ」
従者はため息をつくも、少女は気にもせず読書を続ける。その様子に気付いた従者は少女から本を取り上げた。
「全然分かってないじゃないですか。さあ、早く行きますよ」
「あ、ちょっと! まだ半分残っていますから、それを読み終わった後でも」
「読み終わるのを待ってたら夜になってしまいます! 読書の続きは明日にしてください」
「うぅ……マリーナのケチ」
「ケチで結構です」
観念したアリステラは、マリーナとともに書斎を後にした。
さすがに数時間椅子に座り続けてたためか、背骨とお尻が痛むのであった。
細かな装飾や彫刻が施された城内の廊下を、従者と歩くアリステラ。
とある扉の前で止まる。
扉の両脇にいる兵士が扉を開ける。
そのまま進むと、広い空間に出た。
様々な模様が印象的の絨毯や空間全体を明るく照らすシャンデリア。
そして縦長のテーブルには豪華な食事が並べられていた。
「アリステラ。また書斎に篭っていたのか?」
「はい。お父様」
先に席に座りアリステラが来るのを待っていた人物は、彼女の両親であった。
「読書自体は良いことだ。しかし、お前は王女でもある。もう少し他者との交流を大切にしてほしい」
「重々承知しています」
「マリーナ。君も何かと苦労していると思うが、今後もよろしく頼む」
「王様、私は王女様に仕えていることを誇りに思っています。王様が心配なさらずとも、王女様は私がしっかりお世話しますので安心してください」
「嗚呼、信用しているよ」
そんな二人の会話のやり取りに対し、アリステラは「私ってそんなに迷惑をかけているのだろうか?」と自分の評価が気になるのであった。
「あははー! いいねいいね、穏やかな日常。何気ない会話。僕も憧れるな〜、こういうの」
食堂に突如として響き渡る声。
一体誰の声なのか、辺りを見渡す。
「なに!? 今の声」
「一体誰だね? 私たちのひと時を邪魔したのは」
「私の知らない声ですね。城の者ではないようです」
正体不明の声に怯えるアリステラと、堂々としつつも冷や汗をかく国王と女王。
兵士達も剣を引き抜き、戦闘態勢に入る。
「何者だ! 正体を表せ!」
兵士の一人が大声で叫び、何者かに呼びかける。
「何者ってさー、もういるじゃないか。ここに」
人の倒れるような鈍い音がした。
アリステラ達はその音の方を向く。
「こんにちは。国王様」
「…………」
「あれれ? どうして返事をしてくれないんですか?」
「………………」
その光景に、アリステラ達は言葉を失った。
なぜなら。
「あ、そっか。今僕が殺したんだった」
男の手に、国王の頭部が握られていたからだ。