第10話「骸と竜と少女」
窓から差す光が思考を呼び起こす。
まだ重く感じる体を起こし、周囲を見渡す。
床も壁も天井も木製で出来ていた。
特に変わった所がないことがわかり、一息する。
ふと目元が熱くなるのを感じ、頰に手を滑らせると手が濡れた。
少女は自分が助かったことによる喜びと安心から、自然と涙を流していた。
あの男が転移石を使い、見知らぬ地へ飛ばされた時は死を覚悟した。
しかし目覚めた場所は地上だった。
喜んだのもつかの間。
目の前に現れたのは巨大な魔物。
やはり自分は終わりなのか。
このまま魔物に食い殺されるのだろうか。
諦めかけたその時、何かが自分を救った。
そして今、自分がいるこの場所。
おそらく自分を助けたであろう者の住居。
部屋を見渡すが、ベット以外には窓しかない。
窓からは木々が見える。
それに静かだ。耳を澄ませば、鳥の鳴き声やそよ風が聞こえてくる。
この家が森の中にあるとしたら、宿主は一人静かな土地で暮らす隠居者だろうか。
そんなことを考えていると、部屋の奥からドアの開閉音がした。宿主が帰ってきたのだろう。
階段を登ってくる。
床の軋む音が徐々に近づいてくる。
足音が部屋の扉の前で止まり、少女は身構える。
「あの、起きてますか?」
低音のハスキーボイスが少女の起床を確認してきたのだ。そして少女は、この声を知ってた。
魔物に襲われた時、自分を抱きかかえた何かが発した声と似ていたのだ。
『ゼッタイ……シナセナイ』と。
あの時の自分は気を失いかけていたため、はっきりと覚えているわけではない。
しかし声だけは覚えていたのだ。
焦りと悲しみに満ちた声を。
ドアノブが回り、徐々に扉が開いていく。
なぜか胸が高鳴り、呼吸が早くなる。
少女は自分の顔がほんのり赤く染まっていることに気付かない。
そして扉は半分ほど開き、その姿が露になる。
「おはようございまーー」
その姿は。
「ぎゃあぁーーーーーーーーー!」
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!?」
少女には少し刺激が強かった。
数分間、二人の叫び声が森に響き渡った。