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9話 殺意の決意



盗賊襲撃からさらに1日たった。


日は暮れようとしており、こちらに来て5回目の夕日を眺めている最中だ。



道はなだらかに続き、街も人の気配も感じられない。


そんな道を、俺はよたよたと歩く。


一瞬、目眩がする。

傾いた体重を、ギリギリ足で踏みとどまり、持ち直す。


そんな事を今日は何度も繰り返していた。



(食わずに5日目、水もまともに飲んだんは2日前...流石に体もおかしなるか...)



いくら強化されているとはいえ、元々エネルギー貯蔵に乏しい我が身が耐えるのにも限度がある。


体が限界を知らせるシグナル。

それが出てきたとみて間違いないだろう。



しかし、未だ動いて貰わねばなるまい。

ここで、倒れるわけにはいかない。


もう、あの白い空間は崩れ去ったのだ。

死んで助けてもらえるという保証はない。



(...粘らなあかんな)


休みたくなるのをグッとこらえ、歩く。

せめて辺りが暗くなるまでは距離を稼ごう。


幸いにして、月明かりが消えても俺の目は見える。

明るい内から休む用意をせずとも、困ることはない。



まだ、動ける。



(じゃ、歩きますか)


意を決し、決意を新たに一歩踏み出した。

その時だった。



ウォォ.....


声が聞こえた。



ハッと気づき、即座に道から外れ、茂みに身を隠す。


また盗賊である危険を考えた為である。

聞こえてきたのは女の声ではあるが、何か力を込める時などに叫ぶ気合の声の類いだった。


先で、誰かを襲っている、または襲われているのかもしれない。



久しく、周りに気を配りながら茂みを進む。

道から少し離れて、しかし、即座に飛び出せる距離を保ちつつ。


何故そうするか。

理由など、決まっている。



(...今なら、まだ動ける

でも、これから先じゃ...わからん)



ならば、今、ここが最後だ。

こんな森で追剝ぎなどしているのだから、食料の1つや2つ、持っているだろう。



既に、それが可能であるという事も分かっている。

分かってしまって、いる。



飢えて倒れた後の結末を、ここに来てからの経験がはっきりと教えてくれた為だろう。

決断は早かった。


飢えた狼に腸を貪られるか?

ゴブリン達に滅多打ちにされるか?

クマに踏み潰されて終わるのか?

どでかい芋虫にゆっくりと飲み込まれるのか?

追剝ぎの斧で頭を割られるか?



そんなの、いやだ。


生きるため、『殺ろう』と決めた。



少し行くと、鉄か何かを打ち合わせるような音が聞こえてきた。


思いつき、足を速める。

戦っている最中なら不意をつけるだろう。


剣を取り出す。


そして、見つけた。




やけに綺麗な馬車だ。

豪華ではあるが、散りばめられた装飾に無粋さは微塵も感じられない。

芸術品と言って差し支えないだろう。


引き馬も見事な白馬だ。

地面にその体を横たえてなお、2頭は立てば凛とした姿を見せてくれるに違いないと思える。


体を横たえているのはこの白馬2頭だけではない。



重厚な鎧装備を着た...おそらくは騎士と言われる役職の人々が2、3人倒れている。


馬車の前に陣取った全身を黒いローブで纏った怪しい人物が、この場合一番容疑者として近いだろう。



その周りを、馬車を背にして守る7人程の同じく騎士達。


そして、その後ろに控えるやたら露出度の高い鎧を着た女性2人。




黒ローブの手には短刀が見える。


状況から察するに、馬車は黒ローブに襲われていると見て間違いないだろう。




観察していると、騎士の1人が横から切りかかった。




ガチャガチャと音を立てるフルプレートに奇襲の意味はないかと思われたが、いかんせん動作が速い。


踏み出し、距離を詰め、直剣を振り下ろすまでが一瞬だった。


たとえ正面からであっても、ここに来る前の俺では避ける事も動くことすら叶わなかっただろう。



そんな攻撃を、しかし黒ローブは容易く横にかわし...


だがそこには、既にもう1人の騎士が潜んでいた。



腰を低く、音もなく近づいた騎士の剣は素早く突き出され、間合いも避けられぬ位置まで近づいているように思えた。



(なるほど...わざと音を立てて反対側の気を逸らさせたわけやな)


納得する。

最初の振り下ろしを避ける動作に合わせての本命の2人目。


ありがちな戦法ではあるが、だからこそ、と言えるのか。

二撃目の突きは既に避けられぬ間合いまで来ている。



(決まったか...?)


確かにそう思った。



しかし...



ゴッ!...と。

黒ローブの踵落としが、刃よりも早く騎士の頭を地面にめり込ませ...


そのまま続けてもう1人のひざを蹴り抜き、へし折った。



再び剣を振り下ろそうと踏ん張っていた支えを失い、前のめりに倒れる騎士。


黒ローブはその兜を強引に掴み、首元を短刀でスパリと切った。




(すげぇ...)


息を飲む。

俺は今、本物の殺し合いを目にしているのだ。



血を振りまいて騎士が倒れ、ゆっくりと黒ローブが馬車に近づく。


それに合わせて、残りの騎士達はゆっくりと後ずさる。



どちらが優勢かは、もはや明確だった。


しかし、しかしだ。


この場合に最善な行動。

どちらに味方するか。


そうなると、話は違う。


優劣ではない。

俺の望むものを用意できるか、用意してくれそうな方はどちらか。


(属性付与、火、自分、体全体)



「アシスト」



スッ...と、体を静かに炎が覆う。


剣を握る。



そして...


俺は黒ローブに向かって駆け出した。



手助けした時の報酬の大きさという蜜に釣られて。


何故か、あれほどの動きが出来る黒ローブを、「怖く感じない」という異常事態を置き去りにしたまま。


その意味を考えることもせず。



今の自分がどう見られるか。

ここに来る前ですら、理解できていたことすら忘れて。



恐らく、俺はこの時。

この世界に来て最初の大失態を犯したのだった...。





言うほど大失態でも無いのかも。

まぁ主人公にとってはそうなのかもですが。

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