8話 撃退
「バッカお前仕留めれてねーじゃねぇかよぉ」
「おう、恐らく察知系のスキルだな」
「へぇ、なら寝てて助かったなぁ」
「早くぶっ殺して手持ち漁ろうぜ」
「服も高そうだし、いいもん持ってんだろぉ坊主!」
ぞろぞろと、前からも後ろからも数人ずつ取り囲むようにして現れる。
「ふぅ...」
(深呼吸深呼吸、冷静に冷静に....
先ずはお話、んでもってバフで脅し、デバフで牽制、ラストは逃走。
うん、マジ完璧)
「あの、すいま「先に言っとくが、お前が選べるのは持ちもん全部渡して死ぬか、死んでから身ぐるみ剥がされるかのどちらかだ」......」
「それどっちも変わんねぇってお前!」
ヒャハハ!と笑う野盗一行。
ここぞとばかりに解析発動。
やるならここ、待ってたんだ。
決して言葉を遮られて慌ててるわけじゃ無いんだ。
盗賊
危険度:C
耐性属性:無し
弱点属性:無し
状態:無し
確かゴブリンの危険度がF...ならば、この盗賊さんはゴブリンよりも3つ上の危険度だという事か。
(クソっ、よくわからん
誰彼構わず使っとくべきやったか...)
危険度の上昇でどれ程の違いが出るのか、正直全くわからない。
だが、俺にはもう1つの指標がある。
対象の強さを測れる、使用頻度の高い経験豊富な探知の機能が。
(数は1...2...3........8人か
大体は狼のリーダーっぽい奴と同じくらいやけど...寝込みに来た斧のはクマさんと同等くらい怖ぇ...)
勘に頼る事となっているが、いかんせんこちらの方が信用できるし、何より自分にとって分かりやすい。
今まであった中で最悪の状態ではあるけれど、今までより強い敵は出てきてない
ならば、すべき事をすればなる様になる筈である。
そう思わねば、殺されるより先に過呼吸で行動不能になりそうだった。
(落ち着け落ち着け、ここは魔法の優位性を信じて牽制...)
緊張で高まる呼吸を整え、未だヒャハハと笑う盗賊達を見つめる。
何を言おうと遮られるだろう。
何をしようと笑うのだろう。
この手の輩はそういう者だ。
上手く内側に入り込んでおかなければ、自身のグループ以外の者は大抵蔑みの対象となる。
いつも通り、避けるとしよう。
いつも通り、逃げるとしよう。
いつも通り、ことこの現状においてはそう。
あちらにいた頃と、同じ事だ。
(属性付与、火、自分、体)
スッ...と体に火が灯る。
これで、奴らは俺に触れれば火だるまだ。
辺りが明るくなった事で、盗賊達も気付いたのだろう。
笑い声もなりを潜め、皆、此方に視線を向けた。
「炎を付与しました。触れば「こいつ魔法使いだ!早くぶっ殺せ!!」....エッ!?」
話聞けよぉ!!
そんな思考も束の間、背中に走るゾワリとした感覚。
「ヒィッ!?」
身をよじらせてとっさに避け、次いで後ろ蹴りを食らわせる。
恐怖の対象を遠ざけようとした故の行動だ。
しっかり蹴り抜くのではなく、当てて距離を取るための、軽い蹴り。
しかし...
「グボェ!?」
「なっ!?」
全くもって計算外な...いや、当初の目的どうり、盗賊の体は炎に包まれた。
ちょうどその先にいた、もう1人を巻き込んで数メートルほど吹き飛ぶという、オマケを添えて。
「え....?」
蹴った本人も、周りの夜盗も、須くが止まる。
予想だにしなかった動きが、脳の処理能力を一時超えたために。
炎に炙られ、しかし当人は動かない。
下敷きになり、火達磨になった片方の声も次第に弱々しくなっていく。
そこから導かれる答えは至極単純で。
双方、答えを得るのにそう時間はかからなかった。
「て、てめぇ....」
再びかけられた声に、嘲りの色は無い。
震えた声にある感情は、恐れ。
頬を伝う汗、引けた腰...震える膝。
あちらだけでは無い。
こちらもまた、同等の醜態を晒していた。
「あ、いや、でも、ちが....」
殺した。人を。この手で。
いや足だろう、と場違いな考えが浮かぶ。
殺す気は無かった、と言い訳が浮かぶ。
あちらが悪い、と自身の正当化が浮かぶ。
本当に殺ったのか、と再認識する恐れが浮かぶ。
いろんなものが浮かんで消えて。
彼は動かない。
やがて、後ろに回り込んだ夜盗がまたしても
「オゥラァああ!!!」
斧を振り回し、そこで初めて。
ニタリと笑んで。
「なぁ...」
振り向きざまの裏拳。
それは後出しにも関わらず、まるでそうある事が当然であるかのように斧を追い越し...
まるでそうある事が当たり前であるかのように、夜盗の顔を陥没させた。
そして振り向く。
振り向いて呟く。
早まる心臓と、荒い息。
浮かんで消えず、残った1つ。
「俺がやったんよな?」
興奮の色を、体全体に滲ませて。
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夜道を歩く、という行為は俺の中でかなり習慣化された行動である。
日常的に行い、もちろんただ歩くだけではない。
主に夜道を歩きながら俺が取る行動は3つ。
1つ、輝く星々を眺め。
2つ、心静かに歩を進め。
3つ、そして過去の行いを恥じる。
どういう経緯で3番目が入ってきたかと言われれば、それは俺の性格故としか言いようがない。
静かな場所を求めて真夜中にほつき歩き、星に心洗われた結果、次いで俺の心を乱す雑念が恥だったということだ。
あれがダメだった。
こうすればよかった。
そんなことばかり考える。
よって、散歩中の俺はあまり良い気分でいるわけではない。
気分を悪くしに出ているのか、と言われても全く否定できないレベルで憂鬱を持て余す。
それが俺の夜道の散歩だ。
だが、今回の散歩は過去のどれにおいても勝るほどの憂鬱を持て余していた。
過去最悪の気分...そう言って、差し支えなかった。
(クソっ...クソッ!クソッ!!)
結局あの後、盗賊達は武器を捨てて逃げ出し、怪我をすることは無かった。
しかし、その過程において自分がとった行動に対し、俺は何よりも憤り、何よりも恥じていた。
(あれじゃまるでキチガイやろ!
何が「俺がやったんよな?」やねん!
自分に酔ってんのかお前!アホらしっ!)
人生の教訓、調子に乗らない。
それをまたしても破り、あまつさえ行動は異常者のそれ。
さらには自分に酔うというオマケ付き。
人生の端々で、ああはなるまいと心に決めた誓いは何処へやら。
(キモいキモい!クソがッ!
死ねよマジで...くっそ気ぃ悪い...ああマジで、なんであんな事...うわぁ...)
ここまでくれば、自己否定も堂に入ったものである。
この1%でも他人に言える勇気があれば、彼の人生は大きく向上したことだろう。
(人も殺すし...でもありゃ...いや、言い訳無用
俺がやった、俺が....)
思い出す、反復する。
しかし、いくらやっても...
(くっそ...なんも感じん...)
殺した実感が無いわけではない。
道の脇に固め、それぞれを運んでいるときに...焼けた肉が、飛び出た血が、その匂いが。
俺がこれをやったんだな、と強く実感させてくれた。
だが、それでも、だ。
特に何も思わなかった。
最初に駆け巡った恐怖や、不安に苛まれる事もなく。
相手は夜盗、責められる謂れはなかろうと。
他人に責められる事でなければ問題なかろうと。
意識の話ではなく、もっと深いところでそう思ってしまっているのだろう。
むしろ、ゾクリときたあの感じは...
目立たぬよう、普通に、それが至上。
そう生きてきた俺にとって、そう感じる事がとても...とても、悔しかった。
なんだかんだと言いながら、普段やってはいけない行動に、そのスリルに憧れてたんじゃないかと。
この感情が、あの興奮が、その証明だと。
そう言われているようではないか。
「ああクソが...」
(その通りだよちくしょう...)
そうでなければ異世界などに焦がれたりはしないだろう。
ファンタジーなど、好みはしないだろう。
だが、それを内面にとどめておく事と、外面に表すのとでは訳が違う。
知るべき礼節がある。
弁えるべき態度がある。
成すべき常識がある。
それら全てを理解し、真に他を尊重する事ができたならば、あのような事にはならなかった筈だった。
完璧にそれをこなそうとはおもわない。
こなせているなど思っていない。
しかし...つまるところ、俺は他人の眼の前であれをやってしまった事が、そうした自分自身が、どうしても我慢ならなかったのだ。
(せっかく収穫もあったっちゅーに...気ぃ悪ぅてしゃーないな...
いやでもあれがなかったら気がつかんかったかもしれんのか...)
それは本来なら、逃走という道を選択できていたなら、機会がなかったであろう気づきだった。
何のつもりなのか、盗賊達は皆武器を投げ捨てて逃げてしまった。
ありがたい事だが、なぜ捨てて逃げたかについては俺には謎だ。
ナイフ2本、手斧2本。
それにカットラスだろうか?
いや、ファルシオンとも言えるのか。
そのような形状の大きさがまちまちな剣が3本。
あと、クマさん並みに怖いと思った奴が持っていた、手斧というにはでかい斧...バトルアクスと言うのだろうか?
因みにだが、顔が陥没したのが彼だった。
数は多いが、ゴブリン達が持っていた物とは比べものにならない程頼りになる自衛武器。
どうにか持っていけないかと考えていた、その時だった。
スッと、手に持っていた剣が消えたのだ。
落としたのかと、下を見ても何処にも無い。
慌てて探し、やはり見つからず...諦めたその時だ。
持って行きたかったな、と。
そう考えた次の瞬間、無くなった筈の剣は、亡くなる直前と同じように、右手に出現した。
出ろと念じれば取り出せて、仕舞いたいと思えばその場で消える。
その性質から、俺はある物品を思い出していた。
(...これゲームのアイテムボックスのまんまよな
そういえば、ステータス見たときにも書いてたっけか)
恐らくだが、あの老人からの贈り物と見るのが一番理に適っているだろう。
収納上限は今の所わからないが、手持ちの武器は今の所全てこの仮称:アイテムボックスの中にある。
掌の上にも、握ったままで出す事も、背中にいきなり出現させる事すら可能だが、取り出す時は自分の体に比較的近い所でないと出せないらしい。
入れる時もまた然り。
制約があるにせよ、便利なものだ。
(あれが無けりゃ、手放しで喜んでたんやけどなぁ...まぁ、自分の行動やし...よし!
そろそろ折り目つけとかんとな)
パンッと頬を叩く。
今必要ない事柄を、頭の中から叩き出す。
たとえ我慢ならないことであっても、自分自身にキレ続けるのはこの場合得策ではないだろう。
盗賊達は武器は落としても食べ物は落としてくれなかったのだ。
体力を使う行為は控える方が良い。
上を見る。
空が白けてきている。
また一歩、歩く。
何だか疲れたな。
夜が、明けるーーー
「お日様あんなに明るいのに...
俺ときたらお先真っ暗...はぁ...」
ため息をつく
先は長い。
主人公はこんなんです。
多分ずっと根っこは変わらんかと。
でも、性格も展開で思いついたら変えるきっかけとかあるかもですね。




