6話 異常事態
ぼんやりと意識が覚醒する。
ぶつ切りではない、本来の眠りからの目覚めだ。
そして今回最初に感じたのは音ではなく、体が軋むような痛みだった。
「いててててて......
ちょ....マジ痛いっ........」
全身を攣ったかのような、成長期に感じる節々の痛みを強くしたような、耐えられない程では無いが、耐え難いような痛み。
寝起きが弱い俺ではあるが、これには耐えきれず、何事かと自身のステータスを開いた。
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Level107
種族:人間
ジョブ:旅人
生命力:SSS
魔力:SSS
物攻:A+
魔攻:B
物防:A−
魔防:B−
素早さ:S
器用さ:S+
運:F−
弱点:無し
技能:付与魔法
必殺技
スキル: アイテムBOX
加護: 探求神の加護
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「ん.....?」
覚醒しかけた脳が今一度フリーズする。
だがそれは痛みによって長くは続かず、そして同じく痛みによって求めた情報が得られない怒りが顕著に現れる。
(なんで能力表記変わってんの...?
数字や無くなったら効果見れんやんけクソが...
状態異常表記も無しかい
こんな痛いのに状態異常ちゃうってか?なめとんのか...状態異常?)
「あっ....」
察し、という言葉が正に当てはまる瞬間。
なぜ直ぐに気付かない、といつもなら直ぐに出てくる自虐も今回ばかりは顔を見せない
(あったやん、状態異常無効化....よしよし、これで...イテテててて.....補助付与、自分、状態異常無効化!)
「アシスト.....あれ?
いっつ....うぎッ....」
確かに発動した感触はあった。
にも関わらず身体中の痛みは取れず、さらに痛みが増し、目が眩み、冷汗が吹き出る。
何故...などと考察を飛ばしている暇はない。
眠気が完全に消え、痛みは更にましている。
このままでは確実に「やばい」
のたうち回りながらも、そう何か確信めいた物が俺の中で叫んでいた。
(..........ッ!これは厳しい......ああもう!取り敢えず....回復付与や!
あれやあれ、あったやろ確か....治癒力上昇や!よし....
補助付与、自分、治癒力上昇!)
「あ、アシスト!......お?」
見る限り体に何か目立った変化が起きた訳ではない。
だが、それでも痛みは徐々に引いている。
本当にゆっくりとではあるが、意識しなくともしっかり感じられる速度で。
「ってーなぁ....
ほんま勘弁してーや...」
仰向けになり、これまでは体験できなかった程の激痛で迎えた異世界の朝を噛みしめる。
日はやや登り、体感時間で言えば10時くらいなのであろうと予測がついた。
この痛みの原因は分からないが、状態異常無効化が効かなかった点を鑑みれば、状態異常では無かったという事だ。
当然の事だ、しかしだからこそ重要な所でもある。
最初起きて痛みを感じた際、頭に浮かんだ原因はあの熊さんだ。
俗に言う腹下しだ、だがこれは違った。
全身が痛む腹下しなどあるはずも無く、例えそうだとしても食中毒は文字どうり「毒」なのだから状態異常無効化で無効にできない事は無い筈だ。
(そうなったら俺もう心当たり無いんよなぁ....)
この時俺にはもう判断の材料に使える諸々が無く、考えを回すのも打ち止めであった。
特に虫に刺された記憶も、草か何かで切った記憶も無い。
しかし物事には必ず原因がある。
これは揺るがない真理だ。
こと異世界にあってもそれは同じなはずで、俺に襲いかかったこの痛みにも絶対何かしらの原因がある。
物理的な心当たりがない所を見れば十中八九魔法に関連した何かだろうが、それ以上は今の俺には分からない。
ならば俺が今出すべき最善の答えは...
(んんー.....まぁえっか
朝から頭動かすのしんどいわ)
...問題の先送りである。
少し頭を回せば分かる事柄であれば、幾らでも考えて答えを出せばいい。
だがどうしても根本的に答えが出ない、前提条件が不足している事柄について何時迄も思考を裂くのは賢い手ではない。
(そう納得さしてこれまでいい加減に生きてきました...ってな
ストレス全開の現代社会で生きぬく為の防衛反応やでこれわぁ...
誰しも持ってるもんやで、おん、俺なんもおかしない)
痛みも気にならない段階まで落ち込んだ。
ゆっくりと立ち上がり、大きく伸びをする。
何とも清々しい。
先程は痛みでそれどころではなかったが、これも治癒力上昇の効果の賜物か。
心なしか今なら物事も前向きに考えられそうな気さえしてくる。
いや、考える事さえ放棄して走り出したい気分だ。
何故今まで暗い方向ばかりに考えが向いていたのかが疑問でならない。
好きに生きれば良いではないか、この力で。
戦いの場にいようとも、何も絶対に戦わければいけない訳ではない。
先程の治癒力上昇を付与して回復役に徹していればいい。
そうだとも、何を怯える必要がある。
天才などというものは絶対数が少ないからこそそう言われるのだ。
滅多に会うはずなどない。
なに、もし出会ったとしても媚び諂っておけば良い。
現代日本生まれの媚び媚びスキルを見せつけてやろうではないか。
「ヒッヒッヒ...なんやスゲぇ楽しい!
なんなんやこれぇ!
あああ!我慢できん!!!」
湧き上がる衝動を抑えきれず、ついに俺は走り出した。
感情は高ぶっているものの、昨日培ったばかりの感覚は勿論衰えてなどおらず、素早く、そして静かに、その速度を上げていく。
「ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ!!」
そしてもっと速度を上げたいと思うに連れ、昨日とは違う思いが浮かぶようになる。
どれだけ素早く障害物を避け、そのタイムロスを減らせるか、ではなく。
どれだけ障害物を排除し、直線距離で速く走れるか、である。
草が邪魔だ....魔物が邪魔だ...木が邪魔だ....そうちらっと、ほんの少し思っただけ。
自転車で走っていた時に、目の前に木の枝が、または葉っぱがあった時のような、それぐらいの気持ちだった。
たったそれだけで、しかしこの体には十分だった。
自らの足が通るに邪魔な草木が唐突に消える。
それが自分の手による物だと気づくのにも、もはや時間を用さなかった。
言葉で言い表せないほどの歓喜、全能感。
今この気分のまま行けば、何かを必ず成功させうる確信とともに、さらに速度を上げるべくもう一歩を踏み込む。
「.....スゲぇ、スゲぇ!スゲ、ぇぶ!?ゴプェ〝エ〝!」
それが訪れたのは、そんな歓喜の瞬間だった。
食道を遡って何かが込み上げてくると感じた俺は反射的に口を塞ごうとし、間に合わずそのまま思いっきり吐き出した。
「えほ〝っえほっ....!!
うぅおえ〝ぇ〝ぇ〝......」
ビチャビチャ、っと大量のそれが地面を跳ね、音を鳴らす。
あたったか....?と昨日の熊肉が一瞬頭をよぎるが、吐き出したそれを受け止め続ける手からの感触がそれを否定する。
ゲロというよりはサラサラしていて、匂いも酸っぱいような物とは程遠く鉄臭い。
「は?え....」
ショックのあまり両手が震える。
これは間違いなく血だ。
「なんで!?なんで.....あ、アシスト!アシスト!アシストぉ!!」
治癒付与、状態異常無効付与、と代わり代わり狂ったように付与をかけまくる。
冷静さを取り戻したのは太陽が沈みかけて薄暗くなってからで、結局この日はまた泉の所へ戻って同じ場所で野宿と相成った。
伏線っぽいですが特に深い考えはありません。
ちょっとした理由付けですので、お気になさらず。




