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4話 恩恵


(ええぇ....全然つかんやん.....

やっぱ見間違えやったかぁ....?)


気持ちが落ち着いて辺りを木の上から見渡したところ、道のような物が見えた気がしたので向かっているのだが、中々到着しない。



うっすらと、そうかもしれないとも言えなくもない程度の認識だったため、早くも見間違いでは無いのかと考え始めた次第である。


日は既に登り切っており、さらにやや傾きつつある。



だが息は全く乱れず、特別体に疲労が溜まっている感覚もない。


普段の俺でも半日山を歩く事くらいなら造作も無いが、足に疲れを感じ、息を荒くし始めている事だろう。



やはり身体能力が上がっている。

これは確定だ。



(それはええねんけど、道よ道

道辿れば人おるとこに着くんやし)



食料も無ければ武器も無い。

1日2日なら食べずとも大丈夫だろうが、また夜を迎えてあの熊さんに出会わないとも限らない。


出来れば夜までに街に着たいところだ。



(どんだけ悪くても明日の夜までには人おるとこに行かんと。

いくら強なったつっても流石に食えんかったら動けんなるやろ)



食わぬ、ただそれだけで人の体重はごっそりと減る。

エネルギー源を失い、それを体内の燃料で養おうとする為だ。


自分の身を切り崩し、必要な栄養が欠如している状態では体力などそうもつものではない。


水分となれば、その傾向は更に顕著だ。

良くて3日、早ければ当日にも動けなくなると映画か何かで見た記憶がある。



無理に動き続ければ、強化されていたとしても遠からず同じ結果を辿るだろう。


あの熊さんのような魔獣が蔓延る森で意識を飛ばせば、漏れ無く老人の元へとんぼ返りする事になるに違いない。



そう、魔獣は熊だけでは無かったのだ。


狼やらイノシシを巨大化させたような奴や、定番のゴブリンやら人間くらいの大きさの芋虫みたいな物も確認している。


今はばったり会うという失態こそ起きていないものの、どれもこれも勝てる気がしない。



(やっぱゴブリンが一番弱そうやったなぁ...それでもこわぁて近づけんけど)



次にゴブリンがいたらデバフとバフを試そうと思っているのだが、最初に遠目から見かけた時以来全然気配も感じられない。



(でもビックリやな

気配なんてもん感じるとか、色々強化されてんのな...あのおじいちゃんgood job!)


新たな発見は他にもある。


気配を消すこともそうだ。

初めて巨大なイノシシを見かけた時に焦って心臓がはち切れそうになっていたにも関わらず、隠れることを選択した俺の行動をこれでもかというくらい最適化してくれた。


その場に音もなく、そして素早く伏せ、地面に張り付いたように。


心は恐怖と焦りで暴れていたが、表面上にはいっさいでなかった。



見てもいないのにイノシシが立てる音が聞こえなくなるまで俺はイノシシの居場所を完全に把握出来ていたし、今でも近くの生命体が動けば瞬時に察知→行動に移ることが出来る。


魔獣たちが何処を見ているかが曖昧だが理解でき、対象から逃げようと思えば無意識的に風下を通っている。



あの狼達に見つからずに逃げおおせたのもそのおかげだ。



(生存本能でも強化されたんかな?

いや、生存本能『も』やね。

体力やら筋力が上がってんのも確かやし)


その事もあってさっきから興奮状態が続いている。


普通に日本で生きてればまず体験できなかったであろう感覚だ。



(いやぁ〜、ゲームの主人公達とかこんな感じやったんかなぁ?

スゲぇよなぁ....どんな奴からも逃げきれそうなもんやけど、どうやろ)


心なしか目も遠く、細かく見えるのも気の所為では無いだろう。


視界外なら兎も角正面からばったり会うことは絶対ない筈だ。



今なら何が来てもやり過ごせそうな物だが、やはりそう上手く行くものでも無いのだろうか?


そういう奢りにも似た感情が、俺の中で浮き出ていた。



(いや、あかんあかん

また変に自信ついてきてるやんか

これが俺の悪い癖よ

慢心、威張り、プライドは持ったあかん

しっかり意識しとかんと)



そうだ、上記の3つは持ってて良かった思い出が一切無い。


得意だから、出来るからと慢心し、ドヤ顔で挑んだ結果惨敗。

よくあるどころかいつもそうだ。


恥を書くならまだいい、笑い話だ。


だが、周りが引くほどの失敗という事も2、3ある。



話のネタにもならず、ただ苦い思い出だけが残る。

これほどバカな事もない。


(これは美味い失敗って考えてまうのはもう関西人の性やからなぁ

定着してもうてるから治らんわ

別にええんやけど....お?)



50mほど先...姿は見えないが、ゴブリンだろう。


ゴブリンの体は全体的に深緑で森の草に擬態していて見分けずらいが、俺は気配で何となく居場所がわかる。



そしていろいろな魔物に出会ってわかった事だが、俺が魔物から感じる怖さにも違いがある。


今まで見つけた全ての魔物に恐怖心を感じている小心者の俺だが、この恐怖心は正確にその対象の強さを表すものとして機能しているようだ。



根拠としては、同じ個体を見かけた時でも恐怖の度合いが変わる事があるからだ。


狼達の群れをやり過ごしている時でも、群れの中に感じる気配からこいつがやけに怖いなと感じる事が多々あった。


種族が違えば尚更恐怖心は変化し、今の所一番怖かったのはやはりあの熊さんだ。


(こっちの熊さんは夜行性じゃないっぽいなぁ

当てが外れたか...あのステルス熊さんと会わんかったらええけどなぁ)



俺が殺された個体とはまた別であろうが、それでも気配を感じた瞬間涙が出そうな程怖かった。



今ではその魔物の姿を見ていなくても、その時感じる恐怖の度合いで大体どんな魔物かわかるほど正確に判断できるようになった。


これが50m先の生命体が見えていないにも関わらずゴブリンだと断言できる理由だ。



(これも強化の恩恵ってやつやんな

ほんまあのおじいちゃん様様やでぇ....)



早速お楽しみのデバフを試そうと近づくが、おかしな事に気付く。


ファンタジーのゴブリンと言えば大抵数が多い。

そんな予想をこの世界は裏切らず、最初ゴブリンを見た時は近くに15か16の気配を感じた。



だが、今は目前のゴブリン以外の気配は感じられない。


それに激しく動いた後なのか息も荒く、怯えるように辺りを忙しなく見渡している。



と、くれば大体予想はつく。


(なんかに追われてきたんかな?

他の仲間は散り散りか

それかみんなやられたか...いやはや、なんにしてもついてるわこれは)


群れたゴブリンだといくら強化されたといっても武道の経験のない俺が対応できるはずがないが、単体なら別だ。



ゴツゴツの筋肉とボロボロの剣は見えるが、身長は1m20あるかないかの可愛いものだし、デバフは単体でしか付与できないため都合もいい。



(そーやついでやし使う暇無かった解析やってみよ!

.....どうやんねやろ?)



見かけたり気配を感じたらすぐに隠れるか、ゆっくり逃走を選択していたため解析はまだ未使用のままだったのだ。


使った事がないのだから、使い方がわからないのもまた道理だろう。



(取り敢えず、なんや....たぶんこうやろ.....解析!)


ゴブリンを視界に収め、その情報を知りたいと念じる。



ゴブリン


危険度:F


耐性属性:無し


弱点属性:無し


状態:恐怖



(おお!?

頭ん中に直接....でもなんか、しょっぱいなぁ)


目の前のゴブリンの情報が頭に浮かぶが、予想より少ない。


攻撃力、防御力、素早さ、覚えているスキルなどが見れるのではないかと思っていたが、そこまで都合の良い物では無いようだ。



それに危険度がFと表示されているようだが、それは俺の強さからして低いのか、この世界の魔物の強さの平均から見て低いのかの判別がつかない。



だが属性付与を持っている身としては、弱点属性を見れるのはとてもありがたい。


あいにくゴブリンに弱点属性は無いようだが、これからきっと役立つ事だろう。



(そや、弱点属性じゃない属性で攻撃するとどうなんねやろ?

.......試してみるか

属性は手頃に火でええか)




バフとデバフの使用方法は一様移動中に確認済みだ。



デバフは効力を確かめていないのでおそらくこうだろう、という程度だが。


だから早く確信が欲しい。


いざという時に使えないとなると、本当に笑い事では済まなくなる。



(属性付与、火、自分、手)


「アシスト」



小声でボソっと呟く。

遡行錯誤の末、何を誰の何処に付与するか頭に浮かべ、アシストと言葉にする事で初めてエンチャントされる様だという事をなんとか発見できた。


一覧と同じ様に思う事で発動するものと考えていたが、中々発動しないものだからかなり焦ってしまった。



ファンタジーの魔法らしく詠唱でも必要なのかとバフの効果を唱えたりしてこの方法に辿り着くまで時間がかかったが、効果が発動した時の興奮はそれまでの苦労など消し飛ばして余りある物だった。



そのお陰で魔物の接近に気付かず、あわや発見される寸前まで接近を許してしまう何て事もあったが、これは完全に余談だ。



(やっぱいつ見てもスゲぇ....

これはかっけぇわ)



手首から先全体が炎を纏っている。

激しく燃え盛っているわけでは無く、ユラユラと、言うなれば漫画でよくあるオーラのように滲み出ていると言った印象がある。


分かり易いかどうかはわからない例えだが、コップに入れた度数の高いお酒に火をつけたようだと言えば伝わるだろうか。



発火に音もなく、薄暗い森とはいえ今は昼間なので発する光でゴブリンに気付かれた様子もない。



思考で今迄のことを振り返りながらも俺は徐々に距離を詰めており、既にゴブリンの背中はすぐ目の前だ。



ゴブリンも一通り見回して落ち着いたのか、その場に座り込んでいる。



これでもしデバフを使って気付かれたとしても、この体勢からは直ぐに反撃を受ける事は無いだろう。



(チャンス到来、これはきてるな)


草の間からゴブリンを視界に収め、バフと同じ手順を辿る。



(状態異常付与、毒、目の前のゴブリン)



「ダウン」



「...!?ガッ...グゲ!?」


言葉が終わると同時、ゴブリンの体の周りが少し青く発光し、ゴブリンは苦しみ始める。



(デバフの発動キーがダウンなんやったらバフもアップでいいと思うけどなぁ....

ま、もう決まってるもんに言うても仕方ないか)



デバフがダウンで何か発動しているという実感めいたものを感じたものだから、バフもアップでどうにか発動できないかと時間を使ってしまった。


あの実感は先ほどバフを使った時も、今デバフを使った時もしっかり感じたので魔力を消費している感覚であっているだろう。



こうして思考を回転させている内も、俺はゴブリンの観察は続けているわけだが....ついにゴブリンが動かなくなった。



近づき、足で触れて確かめてみるが、やはり動かない。


(思ったより毒強いな....火いらんかったか)



向ける対象を失った燃える両手を見つめ、何気なくゴブリンをこつく。



「うぉ....」


すると瞬く間にゴブリンに炎が燃え広がり、死んだと思っていたゴブリンが暴れ出す。


驚いたせいで、拳を覆っていた付与の効果が途切れ、急いで動き出したゴブリンから飛び退く。



「ゴギャ.....ア〝ァ.......」


どうやらまだ生きていたようだ。


この毒はすぐ動けなくなった所を見ると即効性ではあるようだが、直ぐ死に至る物では無いらしい。


熱さでもがける程の自由も残っているとなれば、次からは確実に死んだと確認を取ってから近づくとしよう。


なんにせよ、この付与の性質を知れたのはいい収穫だ。



(目立って弱点じゃないっつってもそりゃ火達磨になりゃ死ぬわな。

ゲームで言うなら、通常攻撃分のダメージ+属性ダメージって感じか)



ならばいざ戦うとなった時、取り敢えず属性付与をかけておくという選択が取れる。



ほぼ触れただけで火達磨、となれば攻撃だけでなく防御にも牽制にもなる。



(こりゃぁ便利やな

体全体に付与とかしてたらもう人間相手にゃ無敵とちゃうか?)



少なくとも地球で全身が燃えている状態で平気でいられるような生物を自分は知らない。


ファンタジーでお馴染みのドラゴンやら魔物は別だろうが、人間なら此方も大差無いだろう。



魔法が使えたり、ちょいと超人的な動きが....できるなら少し厳しいかもしれない。


現実で目にも留まらぬ、なんて動きをされたら回避できる自信はない。



そのまま急所を狙われ、一撃で仕留められてしまえば火傷は負うだろうが、大した苦労もなく俺を殺すことが出来るだろう。

そもそも剣などの武器を通して相手が発火するのかさえもわからない。


それに戦いは接近戦だけではない。

よくよく考えれば弓などの飛び道具、この世界には魔法もあるのだから、付与だけで人間相手に無双など出来るはずがないのだ。



(っかぁー浅はか!頭弱い!!

これやから俺は考えが甘いんやって.....ひっ!?)



突如背後に感じる気配と恐怖。

後頭部にゾワリと悪寒が駆け巡り、そこが狙われている、攻撃を受けると直感的に感じた。



全力で体を屈ませて頭を下げようとするも、恐怖で体が硬直したために反応が遅れてしまいほとんど意味を成さなかった。


後頭部から鈍い音が聞こえ、その衝撃で前のめりになった体は屈もうとしていたこともあり、そのまま倒れ込んでしまう。




一般人の俺に受け身など取れるはずもなく、胸を強く打って軽い呼吸困難に陥り、頭は酷い混乱状態....と言う訳ではなかった。



(なんで!?何が?痛い....なんでや、なんで....)



実質痛みはほぼ無いに等しいにも関わらず頭は予想外の攻撃に錯乱し、思考を停止させてはいるが、体は衝撃を利用した側転の体制に入っている。



(なんで気配感じんかった...ってまさかまた!?

取り敢えず逃げ.....あれ?)



景色の流れは遅く、トラックに轢かれる前のあの感覚に近いが、今度は周りが遅いのに反して自身はそれより早い速度で動けているように感じる。



それは混乱で堂々巡りの思考を繰り返していた頭を冷静にさせて余りある時間を与えてくれた。



(スローで今俺動いてる!?

いい!こりゃスゲぇわ!

よぉしこのまま.....)



片手側転というアクロバットに見えなくもない動きで体制を立て直し、即座に走り出す。



その動きたるや早速生身で出せる限界を超えた速さではあるが、再び訪れた生命の危機にそれどころではなく、気が付かない。


(よし、よし!

こりゃいける!逃げ切れる!)


気配察知を最大限に駆使して魔物を避け、自身の気配を消し、だが速度は落とさず駆け抜ける。



強化されてから全力で走ったのはこれで初めてだが、扱いに困るような事もなく、それどころか俺の動きを上手く最適化してくれているようだった。


どうすればもっと早く動けるか、それがごく自然に理解できる。



姿勢、力の入れ方、タイミング、足りないもの全てが一歩踏み出すごとに分かり、それを直すごとに目に見えて速度が上がる。



(ハッ!なんやねんこれ!

すげェ!ハハッ!!)



5分程走った頃にはもう俺の頭の中はどうやってあの熊から逃げ切るかではなく、如何にして早く走るかで埋め尽くされていた。



「スゲぇ.....ハッ、マジで....!!」



自重しよう、調子に乗らないでおこう、そんな人生の家訓をまた置き去りにして、俺は風になった......



本当に普通の人が異世界に行ったらってのがコンセプトなんですが、主人公が本当に普通かって言われると私と皆様の認識には齟齬があるのかも。

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