3話 ほんとの目覚め
はっと目が覚める。
これを今日何回体験しただろうか。
即座に起き上がり、周囲の状況を確認する。
(またここか....)
どうやら最初に目覚めた場所と同じようだ。
「はぁぁ......」
ため息が出る。
先ほどは焦って言ってしまったが、本当にあれで良かったのだろうか?
バフ...いわゆる効果付与のことだが、咄嗟に選んだ理由は他でもない、ただ好きだからだ。
俺がRPGを好んでプレイする理由は、元々は各々のストーリーを目的としてだ。
だが永遠と続くレベル上げに挫折しかけた俺は、新たなる楽しみを見出した。
レベルを上げて物理で殴る?NoNo!
付与効果で攻撃力を上げ、敵の弱点属性と大技で大砲ぶちかます。
敵の弱点の属性で、弱点の部位をデバフで弱体化させ、重ね掛けしたバフで強化した最高威力の攻撃を叩き込む。
いわゆる脳汁プレイが大好きだった。
そしてオンラインのゲームでは支援役として立ち回れる。
攻撃を単なる大火力ではなく、さらなる高みへと誘う事が出来る。
まさにパーフェクト
そんなバフとデバフが好きだった。
咄嗟に口から出たのも、この愛着あっての事だろう。
今の所、後悔はない。
先程も言った通り、バフは支援系として大いに役立つ。
戦いが多いというこの世の中でも、きっと重宝されることだろう。
(.....いや、待てよ?
何か見落として無いか?何か.....)
そうだ、何か引っかかる、違和感を覚える。
このままの安易な考えで行くとダメな気がする.....
(もし、敵キャラにチート級のバフとかデバフ使ってくる奴がいたら、俺やったらどうする?)
答えは極々当たり前の事だ、誰だってそうするだろう。
(耐えて、そいつから集中攻撃で倒す。
うわ...俺さっそく間違ったかも...)
そうだ、便利な物ほど重宝されるが、それが敵だと完全に逆だ。
邪魔でしかないし、そいつから狙うのは道理だ。
戦いが多い、というのは何も魔物相手だけとは限らないだろう。
どのくらいの効果の物をあの老人が授けてくれたかは未だ分からないが....そうだ、一覧を見れる用にしてくれとも頼んでいたのだったか。
どうやって確認するのだろうか?
(今すぐ見たいねんけどなぁ....うおっ!?)
突然目の前にパソコンの画面のような物が出現した。
少し透けてるようだが、しっかり見える。
「スゲぇ...近未来的ってやつやな....」
まるでSFで出てくるバーチャルディスプレイのようだ。
付加魔法と必殺技、言語翻訳、ステータス、解析の5つがあるが、言語翻訳と解析は暗くなっている。
少し明るくなっている付加魔法の欄に触ると、バフ、デバフという欄が現れ、バフを触ると今度は攻撃力UP系、魔法攻撃力をUP系、防御力UP系、速度上昇系、補助付与系、属性付与、全体付与系、の7つがあった。
攻撃力UP系をさらにタッチすると、
攻撃力を少し上昇、消費魔力3
攻撃力を上昇、消費魔力8
攻撃力を大きく上昇、消費魔力17
攻撃力をさらに大きく上昇、消費魔力24
攻撃力を極端に上昇、消費魔力36
攻撃力を爆発的に上昇、消費魔力62
と表示されていた。
文字表記で曖昧なので倍率がわからないのが痛いが、チート級の威力になっていることを祈ろう。
(まぁ高過ぎても困る....いやいや、あるに越したことはないんか?)
あったら使ってしまうだろうが、効き目次第では他人には隠していくことが必須になるだろう。
他人のいざこざに巻き込まれるなどまっぴらだし、敵対感情も、認められる事も俺には毒だ。
(俺は褒められるとすーぐその気になって、変なプライド持ち出すからなぁ....)
褒められる、という行為は自信のない俺にとって疎ましいほどに効果的だ。
他人に言われたのだからそうなのだろうと、特に根拠もない証拠を掲げて自尊心を高めだすことになる。
それもいいじゃないかと思う人もいるだろう。
そうした実力を褒められるために頑張れるなら、自身を高める為の起爆剤になるならそれも1つの切っ掛けだろうと。
しかし、俺はそうは思わない。
都会の多人数社会で生きてきた俺はもう、他人と同じくらいの行動でないと不安で不安で仕方なくなってしまっている。
それができる側でも。
いや、できる側に立っているからこそいざという時の失敗は重くのしかかるだろう。
自信を持ち、他に任せろと言った上での失敗と。
自信は無いけど、やるだけやってみると言った上での失敗は大きく異なる。
主に周りからの見る目のことだ。
別に笑いに変わるならいい。
だが、そういう失敗はえてして重要な場面で起こすもの。
もしうまくいってしまって、さらに持ち上げられてしまったとしてもいつかは失敗する。
そんな時、周りからの期待の落差に、果たして俺は耐えきれるのかどうか。
否、耐えられはしないだろう。
そうだ、耐えられはしなかった。
自慢じゃ無いが、俺の心はすこぶる弱い。
ならば、俺は何処にでもいる一般人、路傍の石、それが一番落ち着く。
それがいい。
目立ちたくない、恥ずかしい。
俺もそんな現代っ子の例外ではないのだ。
他の魔法攻撃力と速度と防御力はほぼ同じ表記、属性は光、闇、火、風、水、雷、土の7つがあった。
強弱関係は一覧の順番から見て、かつゲーム脳から予測すると火→風→雷→水→火、光←→闇、土は独立?となっているようだ。
上から火、風、雷、氷、光、闇、とあるのに、その次に土が来るのが理解できなかったが、結局属性の強弱関係から外れた属性という事なのではないか?と思うことにした。
全体付与は、周りの対象にまとめて付与をつけることができる物のようだ。
防御力、スピード、攻撃力、魔法攻撃力、その他の付与も全て一気に付与する事も出来るようだが、それぞれ大きく上昇の効果までしか同時には使用できないらしい。
一気に大人数にかけれるという時間短縮のメリットを思えば、十分便利だが。
全体付与の消費魔力は人数×使用する付与の消費魔力になるようだ。
補助系は多すぎてよくわからなかった。
毒無効化などの無効化系、治癒力上昇、魔力を徐々に回復などの付与系が役立ちそうな物だなと印象に残ったが、他は今はまだ必要なさそうだったので覚えきっていない。
(暇なときに見て覚えればええよな...
デバフ見てみるか)
左上に丁寧にも用意されている戻るボタンをタッチし、今度はデバフを選んでみる。
攻撃力を減少系、魔法攻撃力を減少系、防御力を減少系、魔法防御力を減少系、、状態異常付与系、の5つが表示された。
確認したが、効力の限界が極端に減少止まりな点と、全体付与がない事以外はほぼバフの効果を反転させた物だった。
状態異常付与も、毒付与などよく見る物ばかりだ、大体のゲームで使っていたような物がそのまま使えるとの認識で構わないだろう。
また戻り、ステータスをタッチする。
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生命力:16876
魔力:10000
物攻:3782
魔攻:1500
物防:2816
魔防:1000
速さ:5477
器用さ:6122
運:6
弱点属性:無し
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魔力関係の表示がキリがいい数字で統一されているのは、地球に魔法が無かった事が何か関係しているのだろうか?
(平均はどうなんやろ...そこわからんとどうにもならんな)
そして生命力...HPにあたるものだと思うが、一万超えている。
これがあの老人に言った付加魔法や必殺技を余裕で使える体にした結果なのだろうか
(運が他のよりむっちゃ低いけど....ええや、気にせんとこ。
ほんまに低いかもわからんのやし)
そう、平均的な数値がわからなければ、どれほどのアドバンテージがあるのかさえ分からない。
ここに戻ってきてからはずっとバフとデバフの確認をしていて動いていないため、どれだけ強化されたかの実感も湧かない。
(まぁ、ここからはどっちにしろ移動するわけやし。
そん時にどんだけ体力伸びたかわかるやろ)
だいたいこれくらい歩くと疲れる、というのは把握しているので、そこと照らし合わせて確認すればいいだろう。
そう考えながら、俺は最後の必殺技の欄を押した。
「は....?」
なんだこれは、それが必殺技が並ぶ文字列を見て出てきた感想だ。
思ったことを言葉にせず、大抵思考で片付けて自己完結する俺が、思わず声を出してしまうくらいには予想外な代物だった。
(これはつまり、そういうアレか?
こりゃぁほいほい使えんかなぁ....)
それを見て一つの予測を立てた俺は、予想どうりであれば、付加魔術同様人前では使ってはならない物であると認識し、一覧を閉じた。
この場で使って確かめてしまえばいいじゃないか、と思うかもしれないが、それは出来ない。
(大きな音立てるとまたあの熊さんくるかもしれへんからなぁ...
もっと安全が確保できて、人がおらんような場所で試そかな)
そう、俺はあの熊に会うのが怖い。
一度死ぬ気で逃げて、文字どうり死んだのだから当然だ。
死ぬときはあっさりしていたが、迫られる恐怖というのは酷く記憶にこびりついている。
故に出来るだけ音を立てたくないのだ。
強化されているのだから、などと未だ実感できていない不確かな「強化」の二文字だけに頼ってわざわざ一度死んだ原因をおびき寄せられるほど、俺には度胸がない。
そうなれば移動も難しくなってしまうが、ちょうど一覧を見ている間に空は白んで来ている。
あの熊が夜行性かどうかは確証が持てないが、少なくとも今日は夜に狩りをしていた事は間違いない。
さしもの熊も24時間ずっと活動しているわけでは無いだろうし、夜と違って日中は視界も確保できる。
よって俺は日の出の後ちょっと待ってから移動するつもりだ。
(まだ時間あるなぁ....あの木ぃ登るか)
足のとっかかりになりそうな枝が程よく生えている木に目星をつけ、俺はそこで時間を潰すことに決めた。
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(おお、スゲぇ。確かに体軽いわ)
足もよく上がるし、手にもとても力が入る。
大した問題もなく木の頂上付近までこれた。
あいにく座れそうな場所は無かったが、安定してバランスを取れる場所も発見できた。
フラつく事もなく、バランスも心なしか取りやすくなっているように感じる。
(運動神経結構上がってんのな)
よく読む小説のような劇的な変化は見受けられないが、きっちり老人に言ったことは反映されているようだ。
(これやったら、もしかして....)
ある一縷の望みをかけて服をまくり、自分の腹筋を確認してみるが、そこにあったのは無常なる光景だった。
だが別に贅肉が付いているわけではなく、むしろわれていると言った方が正しい。
だがそれは肉がつかなさすぎて割れているように見えるだけで、特別鍛えて付いた物ではない。
(別に食ってないわけじゃないねんけどなぁ....はぁ、無念....)
身体能力が向上されているのならもしやと思ったのだが、世の中そんなに甘くは無いようだ。
「はぁ.....」
ため息をつき、視線を前方に戻すと、ひょっこり出た太陽と目があった。
(目がぁァアア!!目がぁァアアあ!!!)
すぐさま視線を下に戻し、心の中でふざけてみるが、ついで出てきた虚無感に襲われる。
自分にはもう知人にも友人にも家族にも会いに行く手段は無い。
誰も助けてくれる人物はおらず、自分は今この世界で正真正銘の孤独だ。
そう思うと、不安よりも寂しさの方が大きくなった。
恋人などはいなかったが、友達は少ないわけでもなかったし、家族との仲も良好だったと言える。
(もうあいつらと喋れんのか....
おとんにも、おかんにも、会えんねんなぁ...)
特別仲の良かった友人達を思い出す。
いつも一緒にいた。
学校の行事に限らず、そのメンバーで遠出もよくした。
もう彼奴らと笑い合う事は出来ない。
仲が良かった家族達。
父と母、親戚などにも、随分と可愛がって貰ったものだ。
(なんや、思ったよりしんみりするもんやんか.....
クッソ....なんやねん、これ.....)
思い出すたびに涙が溢れ、頬を濡らす。
恵まれているとわかってはいたが、それを両親にも、友人にも伝えたことは無い。
だからせめて、別れの言葉でも言いたかった。
今頃になって湧き出る思いが、涙へと変わってゆく。
(ああクソ....
不注意イヤホンダメ絶対ッ....!!)
溢れ出る思いは、日が完全に姿を見せても暫く止まることは無かった。
しばらく主人公の自分語りが続きますねー
誰にも会えませんし。




