12話 渇望の2 食べ物
「どうぞ、スープです」
「ああ、どうも
ありがとうございます」
薪木を囲みながら、差し出されたスープをすする。
干し肉を削り、キノコや山菜などを突っ込んだ簡素なものだ。
だが、そんなことは関係ない。
(うっま...)
5日ぶりの食事なのだ。
手が進まないわけがない。
渡されていたパンと共にかっ込む。
「ふぅ...」
一息つく。
見れば、皿の中身は無くなっていた。
差し出される手。
「もう一杯どうですか?」
頬張る姿を見ていたのか。
若干恥ずかしくはあるが、答えは決まっている。
「すんません、お願いします」
あの後、戸惑う騎士さん達へ一方的に事情を話した。
腹が減っているのだと、
水が欲しいのだと、
ここがどこかわからないのだと。
すると、驚く事にこちらの意向に沿った形で場を収めたいとの返答が得られたのだ。
望み通りとはいえ、話を聞かずに「身命を賭して!」などと切りかかられる未来も予想出来ただけに、半信半疑にあれよこれよと任せたが、結局手を出してくることは無かった。
(にしても、お姫様の護送なぁ...
テンプレではあるけど、まさか俺がかち合うとはな)
黒ローブは恐らく馬車の中の姫様を狙った刺客なのだろうと、騎士の1人は語った。
露出狂と露出全開のあの対応も、襲撃の後の事で気が立っていた故のこと。
どうかお許し下さいと、何度皆に頭を下げられたことか。
(元々殺す気ぃとか無かったんやがなぁ
どうにもやばいやつみたいに思われてる節あるな)
もちろん元々助太刀の名目で加勢に入ったことは告げた。
害された今であっても、これ以上何かするつもりはないとも言ってある。
だが...視線を感じるのだ。
一挙動ごとに、俺が動くごとに、ちょうど背後にいる人物が代わる代わる...必ず1人は俺を意識している。
こういうことも、気配で感じる。
感じる事が出来てしまう。
(なまじ優しぃされるだけ変な気分やなぁ
ま、当たり前やとは思うけど)
今のこの状況は、抵抗の手段がないので仕方なく、ということなのだろう。
特にあの馬車の方面へ歩を踏み出した時の注目度はかなりのものだ。
(合わしてもくれんねんもんなぁ
これも当たり前っちゃ当たり前か...)
おかげで中にいるらしい姫様のご尊顔を拝謁することすらできていない。
これだけはどうか、と念押しして頼まれたので進んで見には行かないが、気になるものは仕方ない。
露出コンビや騎士達は美人揃いである故に、姫様にも期待が高まっている部分はある。
(やっぱ万が一をなくすためなんかなぁ
護衛の騎士隊に男がおらんってーのは)
そう、驚くべき事に部隊は全員が女というファンタジーではあり気な、現実ではまぁ無い編成となっていた。
理由は聞いてはいないが、『物語のように』ならないためにだろうと思われる。
騎士とかモテそうだしな。
そうでないなら、何かこの世界特有の事情なのかもしれない。
まぁ、そうであるならそれはおいおい見て知っていけば良いだろう。
なんにせよ、今回俺の目標は達成された。
渇望した二つ目、「食べ物」を手に入れることが出来たのだから。
「ごちそうさんです
ありがとうございました」
「はい、食器はこちらへ」
立ち上がりながら思う。
『これからどうしようか』
出来ることが増えたからこその選択肢。
今、これまでのように必要な最低限を探すしかなかった状況は既に超えている。
ここにきてやっと、俺は異世界転移のスタートラインに立った気がした。
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瞳に感じる光無し。
囀る虫の鳴き声からおそらく夜。
(んでもってこの落ち着かん感じ...知っとるぞ、こりゃあ......今!!)
寝転んだ状態から体全体で横へ跳ね、同時にこの荒々しい目覚めをくれた人物を確認する。
先ほどまで首があった位置にめり込む美しい剣。
それを握るは、肩出し足出しヘソ丸出しの露出狂。
昨日蹴飛ばしたら気絶した方の痴女だった。
「避けるか...」
「避けるわ!」
ごくあたりまえの事である。
だが、この女は怒りの表情をしていた。
何故切られない?
そう言っているかのように。
「ファルをああしたのはお前だな」
「ファル?...ああ」
目線を辿って理解する。
お漏らし痴女のことか。
「ヒッ!?」
(やっぱビビられてる...)
お漏らし痴女に転身した彼女のこの様子を言っているのなら、確かに俺のせいということになるだろう。
あの後、暫くして目覚めた彼女はそれからずっとあの調子だ。
三角座りで膝を抱えて、ブツブツと何か呟き、偶に啜り泣いたかと思えば、俺と目を合わせただけでそれをガチ泣きに変える。
なにもそこまで怖がらなくてもとは思うが、仕方ないのかもしれない。
あの状況に俺がなったとして、同じようにならないとは言い切れない。
実際、経験したことが無いのだから本人の気持ちなんてわからないのだ。
「まぁ...そうなんのかな」
「そうか...ならば、死ね」
返事をすると、言質は取ったと言わんばかりの物騒な返事。
続いて、まるで舞うようになだらかな動作で剣を抜き、振り上げていく。
剣がゆっくりと振り上げられていくにつれ、先程まで感じていなかった恐怖心が、何か行動に移ろうとしているこいつを怖いと思う気持ちが湧き上がってくる。
何故だろうか?問うて瞬時に答えは出た。
(油断...捨てたな)
このように行動に移るなら、襲撃を後回しにする理由は無い。
よってこいつが起きてからそれ程時間は経っていないはずだ。
目を覚まし、この状況で落ち着いている周りを見てある程度現状を察したのか。
そしておそらくは寝込みの奇襲を失敗した事で予想を確信に変えたのであろう。
そしてそれは、自分以外の騎士達に勝った俺と斬り合ってなお、上回ることが出来る自信がある、ということだ。
そんなガチ露出を前にして俺は...
(武器の手持ち足りるかな
状況的に殺すわけにもいかんしな...まぁ、負けはせんやろ)
...余裕ぶっこいていた。
一度のした相手。
戦闘の経験。
上手くやれたという自信。
しばらく後の彼が見れば、いや、過去の自分が見てさえも、だから俺はダメなんだと憂いた事だろう。
蹴られただけで気絶した奴が何言ってんだと思うその心。
それを慢心と呼ぶことを、やはり俺は忘れていて。
わかっていた事を、戒めようとした事を、また、俺は繰り返し。
そして、いつもの通りに。
手痛い失敗をくらう事になるだろう。
スラリと掲げられた剣。
突如、倒れるかと思うほどの脱力。
その動きに警戒していなかったわけではない。
しかし...
上半身が地面につくスレスレでの流れるような踏み込みは。
そしてその滑るような移動は。
(...!?)
容易に俺と奴との間合いを潰し。
「死ね!」
踊るように、俺の首へと迫った。
正直バトルパートが多い気がしないでもないですが、こうなるかなって思って進めるとそうなっちゃったんでね。しょうがないね。
さて、書いてたのはここまで。
次からは完全不定期ですよー
書きあがったら投稿しますが、消せよ不快だわって人が多ければふつーに消しますからコメントお願いねー。




