表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/13

11話 連戦



2人の冷めた視線と敵意に、俺はなるほどと納得していた。



思ってみれば当然だ。

森を抜けたお陰で服は汚れているし、何の目的でここに現れたのかもわからない。


そんな男を初っ端から信用するなんてこと、あり得ない。



ならなぜ、その考えに至らなかったのか。

その答えも至極簡単なものだ。


そんなことさえ考える余裕すら無かった。

それだけのこと。




だが、ここまで来ると逆に笑えてくる。


この露出狂の胸先三寸で俺の首は飛ぶだろう。

それはもう、呆気なく。


5日間彷徨い、最後に大立ち回りを演じた結果がこれとは...流石にもう、笑うしかあるまい。



「へへへ...」



「チッ、何がおかしい!」




(おっと、気ぃわるさせたかな?)


まずい展開だ。

こちらの生殺与奪を全て向こうが握っているのにもかかわらず、気分を害させてしまった。



頭ではそう分かっているのに、しかし心は全く違う方向へ興味を示していた。



(沸点低すぎやろ...面白すぎる

やばい、いじりたくてしゃーない...)



「いやぁ...あいつがおらんなった途端、元気になりはったなぁと思いまして」



そんな思考を叶えるように、言葉が紡がれた。



(うわ、言ってもた)


そう思っても、後の祭りだ。

怒りに歪んだ露出狂の顔が、それをしっかりと教えてくれる。



「き、貴様ぁ!!」



剣を振りかぶる露出狂。


チャンスだ、首から離れた。



目の前の足を蹴り込み、払う。


バランスを崩し、側面から地面に落ちるかと思われた露出狂を、俺はそのまま空中で蹴飛ばした。

そしてハッと気づく。



(なるほど、俺が最初やられたんはこれか)



奇しくも、同じような動きとなって理解できた。


転がる露出狂を見て、さらに同じように追撃しようかと考えるが、即座に却下する。


転がった先は馬車の方面。

下手に近づけば、周囲の騎士達は確実に邪魔をするだろう。




「何をする!」



もう1人の露出狂が声を荒げる。


(おいおい、お前俺が首を切られそうだったのにつめてぇ目で見てたやないかい)


それはつまり、俺が死ぬという結果を、俺を殺すという行いを容認していたということだ。


ならば、この可能性は考えておく必要があった事だろう。

わかっていなければ、ならない筈だ。


害する対象からの反撃。

あって当たり前の行為、リスク。

わかっていないとするなら、それは...



(俺が無条件で切られるってーのが前提で進めてたってことかい...

お前は人以下やとでも言いたいんか?)



ピキリ、と頭で何かがなる。



「何をする?こっちのセリフやでそれは」


怒りに任せ、片足で力一杯地面を蹴る。

大きな音を立てられればと思っての事だったが、予想外に深くめり込み...


その衝撃で、全員がピクリと震えた。



「何?弱ってるとでも思ったん?

疲れたつってもあんたらぶっ殺すくらいわけないんやで?」



啖呵を切る。

正直このまま連戦となるときつかったが、怒りのままに適当を語った。



「だ、だったらなんだ!」



「態度、弁えてや」



しっかりと告げる。

人生初の戦闘を終え、現実感のないふわふわとした気持ちだったからこそ言えたことだろう。


ちらりと転がった方の露出狂を見る。

ヘソを丸出ししている鳩尾を蹴った筈だったが、何やら硬い鉄板を蹴ったような感触がした。


もしかすると、あの肌丸見せの鎧はいわゆる魔法の品というやつなのかもしれない。


感触から深手は負っていないだろうと思う。

しかし立ち上がってこない所を見ると、衝撃でのびてしまっているのかもしれない。



「うぐ...クソっ!」



その視線をどう勘違いしたのか、同じように視線を向けて焦り始める露出全開。



「何が望みだ!」



絵に描いたようにそれらしいセリフだ。

先程まであんな視線を向けていた者と同一人物だとは思えない。



(何が望みてそりゃぁ...)



問われれば、答える言葉は決まっている。




「...食料と水」



求めるものは、これに尽きる。


その為に戦う、という危険行為まで犯したのだから。


んでもって最寄りの町までの道教えて、と続けようとするも、露出全開に遮られる。



「それは無理だ!」



「はぁ?別に....!?」



突然、横の茂みに気配を感じた。


気配が動く。こちらへ迫る。


見れば、剣を構えた騎士甲冑の1人。



(やば....え?)



死角からの一撃。

剣に体ごと乗せたフルプレートの突進は、おそらく致命傷となり得るだろう。


だが...遅い。

命のやり取りの場と化したこの状況で、俺が拍子抜けしてしまう程。

先程の黒ローブとの戦いを思えば、天と地程の差があった。



横に避け、そのまま足をかける。

それだけで、容易に騎士は足を取られた。


だが、これだけで襲撃が終わるわけがない。

先程の黒ローブとの戦いを見ていればそう...第二陣。

仕留める為の一押しが。



そうして俺が注意を戻すと同時、視界の端の騎士が矢を放つ。



(ちょ!?)




発する気配の方向性から狙いは分かっていたものの、矢が早い。

見間違いでなければ風のような、衝撃波のような物を纏っていたように思う。


それは、俺の頭へと突き刺さる軌道を寸分の狂いもなく描いていた。



ギリギリのところで剣と手斧を取り出し、交差させて受けるも、衝撃で大きく仰け反ってしまう。

このままでは尻餅をつくだろう。


大きな隙だ。

これをこいつらが見逃すはずは無い。



やはり。

露出全開女が掌を突き出して何か幾何学的な紋章を空中に浮かべている。


ここまでくれば、だいたい予想もつく。



(魔法か....!!)



させまい。


手斧を無理矢理投げる。

強化故か、反射故か。

倒れる途中の無理な姿勢でも、手斧はしっかりと露出全開へ向けて飛んだ。



しかし...



「ストームウィンドォォォオオオオ!!!」



轟、と。

瞬間、風が吹き荒れた。


圧倒的な気流の暴力。

地を抉り、木々を薙ぎ倒し、手斧を彼方へと吹き飛ばして、それは俺に迫る。



(む、無理!くらってられん!!)


無理な体勢ではあるが、少しでも後ろへ飛ばねば命に関わる。


足に力を込める。

だが、動かない。



「!?」


視界の端に微かに見えた魔法陣。

掌を発光させてこちらに向ける、足元の騎士。


そういうことか。



(マジか...)


迫る気流が遅く感じる。

時間を圧縮させ、脳が危機回避への方法を探らんと奮闘する。


しかし、もはや詰み。

とれる行動など、ありはしなかった。



「ガッ....!!」



身体中をバットで殴られたような衝撃を幾重にも感じる。

風は終わらない。


無限に続くのかと絶望し...気がつけば、俺は空を見ていた。



ハッとし、そしてその直後、感覚が戻ってくる。


俺は、意識を失っていたのだ。


(はぁ...またかい)


日に二度も空中で意識を失うなど、稀有な経験だ。

全く嬉しくは無かったが。



不幸中の幸いか、未だ空中に体はある。

随分と高く飛んだようだ。


このまま自然に落ちていれば、頭からの落下は免れなかったことだろう。



体制を立て直し、着地に申し分ない姿勢に整える。

すると、唐突に視界に何かが現れた。


襲いかかってきたわけではなく、だらりと力無く浮く目前の騎士。


(こいつは...さっきの)



そして理解する。



(あいつ...仲間ごと打ちやがったんかい)



俺を狙った範囲攻撃で、俺の足元にいたのだからそれは当たるだろう。

足を縛り付けた魔法もあの距離でないと効力がないのであれば、こいつが逃げるだけの猶予がなかったのも頷ける。




このまま落ちれば鎧の重さもあいまって無事では済まないだろう。

もしかしたら、もう死んでいるかもしれない。

しかし、それを言うなら今から治療を施せば助かるかもしれない。


そしてここで助ければ、そのまま戦闘中断の可能性もありうる。


だが、いわばこいつはこの魔法をくらうことになった直接の原因でもある。


行動の結果情の甘さを悟られ、絡め手の作戦を練られれば俺はおそらく嵌められてしまう。



ならばどうする。

おそらくは切り札であったろうこの魔法で健在な姿を見せれば、そのまま脅しをかける手段も取れようが...

脅しで行くならこいつを助けたという事実は重しにしかならない。


デメリットの方がいささか大きいか...

捨てるか?


(...それは気に入らん)



気に入らない。

ふと浮かんだ考え。


日本で一般人として生きてきた自分が、他人をそのように見捨てるという選択肢を取ることが。

そして何より、その選択肢において利点しか感じないと思ってしまっている自分自身が。


違うだろ。

俺は常識人で、紛れも無い一般人な筈だろ。



なら答えは出た。



俺は炎の付与を切り、目の前の騎士を片手でつかむ。


そして叫ぶ。

着地に間に合えという祈りと共に。



(全体付与...目の前の騎士と俺、治癒力上昇!)



「アシスト!」


ドン!と、足に衝撃が伝わる。

着地したのだ。


騎士の分があるせいか、些か足が痺れる。



が、耐えた。

正念場は乗り切った。

次はこいつだ。



「おぅらぁ!!」


俺は力んだ声とは裏腹に、出来るだけ地面を滑るよう横へ投げ飛ばした。

思惑の通り、大きな音で草や枝を折りながらズザーっと滑った騎士だが、特に鎧の中にはダメージは無いようだ。

しかし森の中へ随分と入り込んだため、それはあちらの露出全開達には見えまい。



そして言い放つ。



「ハッ!罠んなんかはめっからじゃボケ!」



これでどうか。


奴らからは、魔法をくらうくことになった原因を自らの手で...そう見えないだろうか?



唱えた「アシスト!」は着地の衝撃を和らげるための魔法。

空中で掴んだのは自分の手で止めをさしたかったから。


そのように思ってくれるだろうか?



いや、思わせるのだ。

まるでそのように行動したような素振りであれば、咄嗟のこととは気づくまい。



そう考える内に、身体中の痛みが引いた。

完全にそれが消えたと同時、俺はため息をつきながら、俺は付与を切った。



「ふぅ...」



感覚的にできるようになっていたものだ。

力を抜くように、指先でつまんでいた糸を離すように、任意のタイミングで付与は切れる。


騎士にはもう少しつけておこう。

重症ならば、それがいい。



残りの騎士達に向き直る。

露出全開がぴくりと震える。



「んで、どうする?」



歩を進め、近づきながら問う。

露出全開が後ずさる。



「まさかあれが奥の手ってか?

冗談やろ...ひと一人仕留めきれんあれが?」



(めっちゃ効いたけどな...強がらんと、終わらんっぽいし)


風に服がなびく。

そこかしこに見える肌には傷1つない。


当たり前だ。

先程治療したのだから。



はったりを思惑どうり受け取ってくれたのか、騎士達も後ずさる。


露出全開は馬車へとその背をぶつけ、ズルズルとしゃがみこんでいく。



さらには、焦点の合わない目で何処かを見つめながら、ブツブツと呟き始めた。



残る騎士4人も、この馬車よりは下がれないのか俺を囲むに留まる。



やがて声をかけることでやっと、露出全開の瞳は俺を捉えた。



「なぁ...」



「ひっ」



凛とした顔が恐怖で歪む。

元の世界では到底拝めない程整った顔。

そんな美人にこのような顔をさせているのが自分だと自覚し、ぞくりと背筋にえもいわれぬ快感が駆け巡る。



(...ちょっとぐらい、いじわるええよな)


手にナイフを取り出す。

害する気などない。

ただビビらせたいだけである。



「どないすんじゃゴラァ!!」


大声と共に、露出全開の顔、そのすぐ横にナイフを突き立てる。


興奮気味に突き立てたせいか、ナイフは馬車に深く埋まり、大きな音を立てた。



それに反応して露出全開の体はより一層震え...



「ぅぁ...」



その目がぐるりと回った。



「え...」



体はダラリと脱力し、顔は涙とヨダレを垂れ流している。


直感する。

気絶したのだ。



「...マジ?」



正直、そこまでする気はなかった。


これからある筈と考えていた交渉の場面でなにか有利に働けばと。

その程度の考えと、ほんのちょっとの悪戯心。


ビビらせる程度で良かったし、それで済むと思っていた。


だが、俺が考えるよりもこの露出全開にとっては恐怖だったのだろう。


足元からチョロチョロと聞きたくない音が聞こえてくる。



「あー...」


やり過ぎた。

だが、命を狙ったこいつが悪い。


その結論はあるものの、ここにどうしようもない居心地の悪さがある。



頭を掻く。

心なしか、騎士達の視線も咎めるものがあるように感じられる。



「んで、どないしよ?」



結局困った俺は、律儀に留まり続ける騎士達に、その答えを丸投げすることにした。


怖かったらねーお漏らししちゃってもしょうがないよねーうん。

まぁ、こうなるかなって。

そう思っただけです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ