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恐れを知らない『ケーキ』、谷崎 潤。
彼は例え相手が『ケーキ』であろうと『フォーク』であろうと『その他』であろうと、人懐っこく話しかけてくる。
その、裏表ない明るい態度はどこで育まれたか。彼の育った家庭はどんなものか。
(......引っ張るなぁ)
講演会のパイプ椅子に座りながら、壇上の事務局長の話を谷崎本人はそう評する。
同僚には変な顔をされたが、『ケーキ』の血液数パックというのは講演会の付き人業を谷崎がする時のお決まりの報酬だ。実際、事務局長は何も言わず用意してきた。結果、谷崎には付き人兼客寄せパンダをする義務が生じる。
局長が引っ張る谷崎家の家庭事情。それは彼から見れば単純な事。
谷崎潤は『ケーキ』の父親と『フォーク』の母親から生まれた、ただそれだけの事だ。
国際結婚カップルの子供が両国に理解が深い事と同様に、谷崎潤にとって『フォーク』は母親の同類であり、恐るべき天敵にはどうしても見えない。
もっとも、そんな『フォーク』にとって据え膳にしか見えない潤少年が今まで無事に生きてこれたのは、『ケーキ』二人と同居しても正気を失わない程肝の据わった母親が、彼の周りに目を光らせ神経を尖らせ守ってきたお陰である。
『ケーキ』と『フォーク』の共存、特に『フォーク』の社会復帰を目指すNPO「ショーケース」にとって彼以上に分かりやすいマスコットはいないだろう。事務局長の講演会に、月に一回ほど出席して愛想を振り撒く。学生バイトでしかない谷崎が、売り物を横から取れる由縁である。
「ショーケース」の活動の中でも『フォーク』の社会復帰支援は大きく比重を占めるものだが、そのために必要な『ケーキ』や『それ以外』の持つ『フォーク』への偏見解消は困難を極める。だから、「ショーケース」の上層部は講演会の数を増やす。
谷崎にして見れば講演会なんて効果が薄いと思うが雇い主が聞いてくれないからしょうがない。
パンダか奇跡の証人かなんかを見るような視線に居心地悪さを感じながら、今日も谷崎は周りに愛想を振り撒く。




