三
例え通常の料理に味を感じられない『フォーク』だとしても、食べなくては体が持たない。
理性やモラルを司る脳だって体の一部だ、栄養不足で働きが鈍くなって『ケーキ』を襲うなんて事態は全力で避けたい。
しかし、閉じこもっていた方が世のためである『フォーク』だとしても、現代社会は養ってくれない。働かざるもの食うべからず。ニート、カッコ悪い。世の中のそんな風潮が聡規を責める。世に出たくないが死にたくもない、そんな良識を持つ『フォーク』は二者択一を迫られた。
三つめの選択もあるにはあるが......それを選ぶのは聡規の自己認識が許さない。その選択は全力で見ないふりをして、聡規は「世に出る」事を選んだ。
「はい、丸木戸 聡規さんですね。今日もよろしくお願いします」
平日の夜、聡規は受付で今日の分の登録を済ますと、拘束具を受け取り自分の身につける。
見える位置に名札|(と言っても役目が書いてあるだけで聡規の個人情報は載らない)を下げれば完成。控室を出るとちょうど通り掛かった『ケーキ』が挨拶してきた ━━何か「うあっ」とか悲鳴か驚きか知らない叫びを上げられたが ━━
「お、お疲れ様です!」
「あー、どうも」
少しでも食べられる可能性を無くすため、『ケーキ』は自分たちを見かけたら挨拶するように。そう指導されていることは知っている。
だから無感動に返事して(返さないと今度はこっちが危険視される)、聡規はいきあたりばったりに歩き出した。
さぁ、バイトの始まりだ。