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「......それにしても、お前にとって丸木戸ってどんな扱いなんだ? 恋愛対象?」
「いいえ、さとちゃんはさとちゃんですよ。僕の大切な幼なじみ、一番信頼している『フォーク』です。恋愛っぽく見えるのは......」
谷崎は少し考えて言った。
「やっぱり僕が『ケーキ』で、相手が『フォーク』だからじゃないですか?」
「......おれも『フォーク』なんだが」
壬生が申告すると、谷崎は鼻で笑った。
「ただ異性だからって言うだけで襲っちゃ強姦じゃないですか。同様に
『フォーク』『ケーキ』である上に、互いに信頼しあって、互いが好きで好きで堪らない。そんな『フォーク』に食べられる、それが『ケーキ』の幸せだと思うんです。少なくとも、僕はさとちゃんに食べられたくて生きています」
まっすぐ壬生の顔を見据えて口に出す猟奇的な願いは、谷崎の誰にも言わない本心だった。
いくら大事な客寄せパンダだとしても、いや影響力の強いパンダだからこそ公言しては咎められる。谷崎はそのくらいの自覚はあった。
しかし、 勧善懲悪の話がある横で悪党小説も出回っている、どんな立場でもどんなキャラでも作者の都合で正義になったり悪党になる、そんな小説の世界で育った青年には、言っても良いんじゃないかと谷崎は思ったのだった。
「......ふん。別に良いんじゃないか」
そして壬生は、谷崎が思った通りに何もいわずに認めてくれる。
「おれは姉さんが偽善者だなんて思わない。正義だ道徳だなんて面倒なモノはその時の社会に合わせていく。もしその思想を『正しく』したいのであれば......」
「僕にとって『世界』の大部分はさとちゃんに占められていますけど、僕の勝手でさとちゃんを変えようとは思いませんし、されたら怒りますよ」
「......ふん」
次の日、『ショーケース』に出勤する谷崎は昨日の裏通りの近くを通ったが、全く何の呵責も感じなかった。
だって自分は悪くない。
そもそも悪いってどういうこと?
全ての思想は主人公にも悪役にもなり得るのだから。
ただ、警察に捕まりたくないな。
谷崎はぼんやりそう考えた。
僕を捕まえられるのも縛れるのも食べられるのも、世界で一人だけ。
それ以外が僕を捕まえるのも、食べるのも、考えるだけで気持ち悪い。
(つまり、何も変わらないんだ)
交番の様子を見ても、『ショーケース』の職員に話しかけても、何も異変は見られない。
(まぁ、致命傷は『フォーク』が付け合った物だし、僕に類がかかることがありえないんだけど)
「おはよーう! さとちゃん見なかった?」
呑気な口調で『フォーク』に挨拶しながら、谷崎はそう考えていた。
しかし、声をかけられた『フォーク』は、言いづらそうに口ごもる。
「......あの、掲示見ました?」
「見てないけど......さとちゃんどうしたの?」
「昨日付けで、丸木戸さん......辞表出していましたよ」
谷崎は耳を疑った。




