転生したらノーパンでした
「あれ?」
気が付くと真っ暗な所に立っていた。寝てたわけでもなく、立っていたのだ。
「ええっと、俺はなぜこんなに暗い所に立っているんだっけ……」
思い出せない。
「死んだからに決まってるでしょ?」
振り向くと、ゴスロリ幼女が偉そうに、そして怠そうにこっちを見下していた。
「お前、誰?」
「おまっ……。この私に向かって“お前”って、ほんっとうに失礼ね」
とてもご立腹のご様子だが、明らかに怪しい人なのだ。人かどうかも疑問だが、目がキラキラしすぎだろ。
「悪魔か?」
「女神よ。ぶっ殺すわよ?」
女神は普通、そんな事言いませんよ。
「じゃあ、子女神」
「米神……? まぁ確かに豊穣の加護も持ってるけど」
何を勘違いしたらそうなるのか、天然の中身は俺には理解不能だ。
「何よ。不満なわけ?」
俺の僅かな沈黙に納得行かず、組んだ足を組み替えていた。
「別にそんな事はどうでもいいから」
言葉にならない怒りのせいか、赤色のやばいオーラを纏い始めている。
「死んだって言っても、俺には心当たりが全く……」
「だって君さぁ、自宅で死んでたよ?」
「自宅? トラックでも突っ込んできたのか?」
「まぁいつかこうなるとは思ってたけどね」
一転して含み笑いになっている。
「どういう事だよ」
「簡単な話、家に潰されたのよ」
家に潰された……。地震により倒壊が無難かな。
「地震とかっ!」
心を読まれ、しかも鼻で笑われた。かなりムカつくな。顔がザマァと言っているのが尚腹立たしい。
「じゃーなんだって言うんだよ」
「欠陥住宅なんかに住んでるからそうなるのよね」
耐震構造になってたはずなんだが……。それは置いておいて、確かに俺は台所で勉強してたと思う。幸い家族は誰も居なかったな。
「トマトのようにグチャッと、中身をぶち撒けて潰れてたのよ」
「俺はトマトじゃないから。それにトマトはプチッとするはずだろ?」
「君1人だけってのがつまらないよね。1人だけこんな所に来るなんて悲しいでしょ? 呼んであげようか?」
「おい、やめろ」
被害を増やす気か? 女神のくせに。
「まぁ女神が人殺しとか出来ないんだけどね」
ほっ……。てことは、挑発しても問題なしって事だな?
「な訳ないじゃない。転生した先でアレがこーなって、それは酷い事になるわよ?」
意味不明。日本語でお願いします。
「まぁ雑談はこの辺にして、異世界に飛ばすわよ」
「ちょ、ちょっと待て。お決まりの能力授与的な何かは何もないのか」
「ちょっと“な”が多すぎてよく聞き取れなかったから、無視して送るわよ」
「おい」
ついゴスロリ幼女の腕を掴んでしまった。悪気は決してない。
「あーもう、面倒くさいわね」
「面倒くさいのはお前だろ」
掴んだ俺の手は簡単に振り切られた。
「心配しなくても向こう行ったらちゃんと新しい能力使えるから」
「向こうで貰えるのか?」
「もう渡してあるわよ」
「今教えてくれないのか? それ以前に、自由に選べないのか?」
「えっ!? 何で選ばせる必要があるの? 貰う側のくせに図々しい」
ムカつくが……、正論だな。ムカつくが。
「お前の性癖が反映された能力って事だな。最悪だな」
「名前ちゃんとあるんだから。便所の女神様とお呼びなさい」
便……。確かに何かに座っていると思ってはいたが、椅子にしてはちょっとおかしいな。
「ちょっと、何よ。ジロジロ見ないでくれる?」
近くに来てみると、太く綺麗な流線型の白の1本足。本当に洋式だがトイレだった。
「確かに私が能力とか授けるけど、私の趣味を暴露するつもりはないから」
「と言うと?」
「ランダムよ。か・ん・ぜ・ん・に、無作為抽出したんだから。お陰でチート性能に……」
おっしゃー。こいつの反応を見る限り、マジで期待できそうだ。
「さっさと送ってくれ。くぅー、行くのが超絶楽しみだ!」
「……分かったわ。それじゃあ、両生類の体に魂を送るわね」
俺の足元に魔法陣が現れ、転送が開始され……。はぁ? 今なんて言った?
「言い忘れてたけど、体は道端に落ちてるから、直ぐに前を隠しなさいよ」
「おい、道端に落ちてる両生類って一体……」
女神が満面の笑みで手を振っている。確実にカエルだろ……。
「おい、なんとか言えよ」
ふざけんな! 魂だった俺は奈落の底へと、排泄物のように流されていく……
「ん?」
地面に横たわる俺。目の前には青空が……。あー見たくない。カエルな人生とか……。
見たくない意識が働き、体を動かす事に躊躇いを生じている。
「げへっ。いいな」
「あぁ本当にいいな!」
「俺、生で見るの初めて……」
嫌らしい男の声が“足元”から聞こえてくる。
「ぐふっ。触っちまおーぜ」
「順番に、だぞ? 長々触るなよ」
「い、今なら誰も見てないよ……」
恐る恐る見ると、俺の股間を覗き込んでいいるオッサンが3人居る。
左から順に、ハゲ、青髭、デブのトリオだった。真ん中がリーダーか? デブはパシリだな。
それより、俺がスカートを履いている。俺が一番痛い奴じゃねーか。
「おい何勝手に覗いてるんだよ。俺にはそういう趣味はねーから」
そう言いながら起き上がったが、違和感が襲ってきた。
俺の声、高すぎじゃねーか?
「お、起きちゃったよ……」
「お前らが騒ぐからだろ?」
「隠してねーし、寧ろその気はあるんじゃねーか?」
3人の目と合い、直ぐにスカートの下を見ていると分かった。
オッサンと一緒にそれを覗き込むと……、ノーパンな上に俺の聖剣が無かった。
「無い! 何で無いんだ!?」
スカートで慌てて隠し、あったはずの場所を擦る。
あっ……。初めての快感が襲う……。いや、そうじゃない。
「パ、パンツならあっちのお店で……」
デブが、遠くに見える村らしき集落を指差している。村にしてはかなりでかいな。
お店を紹介してくれるんだからデブに悪気はないんだろう。
だが、
「無くしたのはパンツじゃねーからな」
「パンツ履かないのがモットーか」
「もっとパンチラしてくれ!」
こいつらをどうやって撒くか……。
いやそもそも、これは俺の体じゃない。見せる代わりに色々聞き出すか?
「おいそこで何をしている?」
正義の味方! 白馬の王子様! 勇者様!
そんな事は見て呉れからは一切感じられない、駆け出しの冒険者の一行と思われる集団が、集落とは反対側からやってきた。
俺は胡座を掻き、腕を組んで堂々としているので強姦には間違えられそうにはないだろう。
「いやいや、何って通りかかっただけで……」
ピューッと風が吹き、俺のスカートがペラリと捲れた。
リーダーと思われる正義感溢れる男か男の子だかが、1、2、3と表情を激しく変更してきた。威厳有る初期状態から、真顔、愕然を含むだろうテレ顔を経て、憤怒の赤顔へと変貌する。
だが男は、見えてしまった物から目を逸しも隠しもしない。多少なりとも興味があったと思われる。
「貴様らー!人気がない事を良い事に、か弱い少女に淫らな格好をさせやがって」
俺がか弱いかどうかは分からないぞ?
試して無いからどうなるかは見当はつかないが、何しろチート性能を持ってるらしいからな。
俺との温度差がある雰囲気の中で、正義全うしようと安物の……いやいや努力して買っただろう並の剣を抜き、攻撃の構えを取る。憎しみが混ざってるのではないか?と思える程の形相で、正直味方にしたくないレベルなのだが……。
「ひぃ。に、逃げるぞ!」
「俺達は悪くねえからな!」
「ま、まってぇ……」
「こら、待てぇー」
男が血相を変えたまま凶器を振り回して、集落へと逃げるオッサン達を追いかけていく。
ぎこちない振り回し方を見ると、あまり才能がないと見受けられる。
素人目で見てこもれなのだから、相当だな。
「君、大丈夫?」
PTメンバーの1人と思しき長髪で優しそうな女性が話しかけてくる。
仄かな甘い香りと、さらさらとした髪が触れ、男のままだったら聖剣が飛んでもない事に鳴っていたかもしれないな。
「今の所は何も」
というより、開脚して寝そべってた俺の体と、パンツを履かせなかった女神に問題がある。
俺のせいでもトリオのせいでも決して無いのだ。
「そう。それで、お父さんとお母さんはどこに住んでるの? 送ってあげるわよ?」
「えっ? あぁ、えっと……」
いや、この体に両親がいるかどうかなんて知らなねーぞ?
「どうかしたの?」
「俺は、1人だから親はその……」
「記憶喪失かも!?」
「いや、孤児なんじゃね? 養子取る余裕なんてねーから、ほっとこーぜ」
両方共ちげーよ。しかも、野郎は割り込んでくるな。
「何か勘違いしてるようだが、俺はこれでも16だ」
「自分を俺だなんて……、逞しく生きてきたのね……」
違います。無駄に本当そうな涙をキラっと見せてくれたせいで真顔になってしまった。
冗談が通じない一行らしい。
「そういえば、冒険者なんですか?」
「おう、よくぞ聞いてくれた!」
あーこれは聞いてはいけないパターンだ。聞いてしまった以上はイベント不可避。
「本来は5人PTを組む所なんだが、過疎化で4人しか集められなかったんだな」
うん、まぁ過疎化だという事にしておくか。
「俺もそのPTに入れてほしいんだが」
「君が?」
お姉さんもびっくり。どこか行ってしまった馬鹿を除いた3人が顔を見合わせる。
「肉付きを見る限り、ちょっと心配かな……」
「そもそも資格がねーだろ」
「年齢的に無理だと思うよ」
だから16だって。体はちょっと小学生なのは確実だろうけど。
「そこをなんとか! 俺、白魔導師できるからさ」
「「「えっ!?」」」
「えっ?」
急に顔を近づけてくるから驚きに驚き返してしまったじゃねーか。
「回復できるの?」
「出来る……はず。呪文は知らないが」
「なんだよ、はったりかよ」
「お嬢さん、嘘は良くないよ?」
便所の悪魔がそう言ってたんだから、間違いないんだ!
「取り敢えず、ダメで元々。冒険者ギルドに連れてってくれ」
「んーどうする?」
「いんじゃね? 打ちのめされたら諦めるだろ」
「それもそうね」
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ということで、集落までやってきたが……。
「大都会じゃねーか」
大都会を出ると田舎の雰囲気になるわけだから、ギャップが酷すぎる。
PTリーダーらしき男もトリオも居なかった。鬼ごっこでも楽しんでるのだろう。
「来るの初めてなの?」
「あぁ。1人旅だったからな」
嘘はついていない。この世界へは1人だったしな。
「ふーん。その割に手ぶらなんだね」
「魔法でちょちょいのちょいだからな」
「呪文知らないのに?」
うぜーこの男。印象は優しいが、根はしつこい模様。
「冒険者ギルドはこっちよ」
女は親切でいいな! きっとカウンターには素晴らしい方々が丁重に案内してくれるはず。
冒険者ギルドは都市のあちこちに在るらしく、支部が入り口にあった。
「サムパーティーの皆さん、どうされましたか?」
入り口で警備している甲冑姿の男が槍を持ったまま尋ねてきた。リーダーの名前はサムっていうのか。
「この子を見てくれる?」
「お子さんですか?」
「んなわけねーだろ」
「冗談きついよね」
野郎どもがツッコミ役のご様子。
「この子に適性試験を受けさせたいのよ」
「はぁ……ですが年齢が」
「そこをお願い。不可が出ればきっと諦めると思うの。どうしてもって言うから……」
「分かりました。取り敢えずこの子は預かっておくので、手続きを済ませてください」
「ありがとう。助かるわ」
3人は中へ入っていった。
「じゃあお嬢ちゃん。私についてきなさい」
大人しく付いては行きたが、なぜか裏へ連れてこられた。
「ここで待ってなさい」
裏には練習場のような物もちらほら見受けられるな。
木人もいくつか在るな。剣の練習もできそうだな。
剣か……。魔剣は存在するんだろうか? あるなら使ってみたいよなー。
ギルドの建物の壁にくっついている椅子に座り待たされる事数分。
係員らしき女と化物と、先ほどの3人がやってきた。
化物はむさ苦しい顔をするが余り、女とは認めきれない。
「この子なのね?」
声が低すぎだろ。それ以上に苦しそうな声を出すな。俺まで苦しくなってくるわ。
「ええ、お願い」
「それじゃあ手をカードに当ててくれる?」
スキンシップを取ってくれるのはスリムで活発そうな短髪女だ。
化物が近寄ってきたら気絶するかもしれなかったからな。
差し出されたカードに手を当てると、カードが光り出して何やら文字が浮かび上がってきた。
「それで、どうなんだ?」
「急かしすぎだよ」
俺も結果は気になるが、急かした所で結果は変わらない。
「う、嘘!?」
「どうしたの?」
短髪女に化物が歩み寄り、肉によって他者が覗く隙間を与えない。
「816歳!?」
「はっ?」
「見かけによらず、オババなのね」
ババアの方が近い化物にオババと言われるとか。
背伸びしてカードを奪い取ろうとするが、肉が邪魔で全く届かない。メタボ過ぎだろ……。
「そんな高齢だったの?」
「ほら」
見た3人がマジだと言わんばかりの驚きに包まれる。
「ね?」
「ほんとね……」
「何だよ、ロリババアかよ」
「ババアは失礼だと思うよ? ロリ淑女にでもしておきなよ」
もうどうでも良くなってきた。兎に角そのカードをよこせ。
奪いとったカードには俺の名前が……空欄? こっちの方が衝撃だったんだが。
年齢……8 16歳。確かに数字が3つあるが、8と1の間に半角スペースが挟まってないか?
瞬きしてもやはり空間があるように見受けられる。俺が16歳で、体が8歳。辻褄は合うな。
「エルフなのかな?」
「耳はノーマルに見えるわ」
ギルドの人たちは何か言い合っている。
係員2人を見ていたら、後ろからカードを奪い返された。
「歳以上に、ステータスまじでやべーだろ」
「というか、本当に白魔道士なんだね」
「どんな感じなの?」
「回復力とMPが測定不能になってるな」
「ねぇ測定不能って何?」
「カンストしたり、特殊能力か何かで計測拒否されてる感じね。兎に角、普通じゃないって意味よ」
「じゃあこの子天才!?」
「馬鹿言うなよ。長年の経験のせいだろ?」
取り敢えず816歳で年齢制限が通るなら、願ったり叶ったりだ。
「なー、俺って合格?」
話し合ってる2人に尋ねる。結果を早く教えろ。
「うーん。そうね、書類検査は通過かな?」
「異存ないわよ」
よっしゃー!
「武器は持ってる?」
「何も」
自慢ではないが、パンツすら無い無一文だ。
渡されたのは単なる枝としか思えないしょぼい杖だった。
「合格だった場合はそのまま武器を貸与するから、壊さないようにね?」
おう、親切だな。ついでにローブとかもくれちゃったりは……しないか。
「呪文が分からないんだが?」
「下級単体回復魔法のケアリズムか状態異常除去のエスナレーションを誰でも良いから当てると良いわ」
回復させたら健康になるのか? デブは状態異常に入るのか?
その実験も込めて化物に両方叩き込む事にした。
『下級単体回復魔法』『状態異常除去』
杖を振り呪文を唱えると、凄まじい光が杖から飛び出し、俺まで目を瞑ってしまった。
「おい、眩しいからやめろ」
「何も見えないよ!」
「フラッシュ?」
キーンと耳を劈く音が消えた辺りで、漸く光が収まった。
残念ながら杖が耐え切れず、墨になっていた。
「俺の杖が……」
悲しみに暮れる中、大声が上がる。
「あ、貴女誰!?」
凄い美人がいる。ついさっきまで居なかった女性だ。
ちょっと待て、化物が居ない。まさか本当に……。
「何言ってるの。さっきから居たでしょ?」
声も美しくなっていた。回復魔法、素晴らしいな。
不細工がいたら回復魔法で美人に作りなおせばいいな。
「鏡見て来たら?」
「……そうするわ」
顔以前に脂肪が減った時点で気づくだろ……。
「ということで、名前は分からないのだけど、合格よ」
「まさかの完全合格?」
「みたいね」
やっとかよ。さっさと戦闘がしたいのだが?
「じゃあ俺達のPTに入れるな」
「それは許可できません」
これからよろしくな! と言う前に遮られた。
お役所仕事モードに入ったらしく、礼儀正しく尚且つ隙がない。
「どういう事だよ」
「このような逸材の方を雑多なPTに入れる事は出来ません。
それに、こちらの方にあなた達が釣り合いません」
どうやら褒められているようだ。褒められる分には問題はないな!
「俺は別に構わねーよ?」
「ほら。だからいーだろ?」
「ダメです。冒険者ギルド本部で厳正に審査されるべきです」
いきなり天辺取れる系か? ならここはギルドの人について行くか。
「あー、やっぱこの乱暴そうな人のPTは辞めとくわ」
「それが宜しいかと」
「俺がいつ乱暴したよ?」
「口調が暴力的」
「まぁ仕方ないわね、規則だから。2人共帰るよ」
乱暴そうな男はガンつけてきたが、大人しく引き下がっていった。
完全にチンピラじゃねーか。
「明日本部に一緒に来てもらうけど良いわね?」
「それは良いけど、無一文で家もないんだが」
「一定以上の冒険者には部屋が支給されるので心配は無いですよ?今日の所は、支部内にある客室を手配しましょう」
おお助かるぜ。初めて魔法を使ったせいか、今すごく怠いんだよな。




