嫌いな人たち
また書きました。
今回は前回の続きです。
前回を読まないと内容がわかりませんので、ぜひ前回の日常が好き。を読んでからこちらを読んでいただけると幸いです。そのほうが話が入ってきやすいです。というか私は前回を読んでいる前提で書いているので、そのあたりはごめんなさい。
この小説を読んでひとりでも楽しませることができているのなら、私はそれで満足です。
日常が好き。
*嫌いな人たち*
僕こと山田悠が嫌いな人たちは以下の三人。
霧原夢叶。
黒際義人。
檜山寧。
嫌いというより、苦手だ。
理由は僕自身わからないが、苦手だ。あまり相手にしたくない。しかし、僕はこの三人のバイトの先輩であるため、優しく接してあげなければいけない。ちくしょうめ。
「あれ、先輩たち早いですねぇ、……ふぁ~ぁ」
あくびをしながら眠いだるいキャンプめんどいと言いたげな少女夢叶ちゃんが言った。
いやね、僕もさっき呼ばれたの。準備という名目でもう食べた朝ごはんを食べさせられたよ。あとお金を大量に使わされたよ。今月はもうサボれないなぁ。
「おはよう夢叶ちゃん。とりあえずこの釣竿でアユを釣ってきて」
「おっ、僕もやりたいッス!」
元気に出てきやがったのは義人くん。無駄に元気な人って好きじゃないなぁ。
「うん、じゃあこっちを使って行ってきて」
「あざッス!」
まったく最近の若い奴はまともに挨拶もできないのか……。まあ、僕もその最近の若い奴の枠に入るのだけれど。
「私はここで待ってる」
ここで待っていると言ったのは寧ちゃんだった。この子はまだマシなほうだ。いや、苦手なのに変わりはないけれど。性格がちょっと変わっている。
「さすがいい子だなぁ寧ちゃんは。ということで僕たちはここで待ってるから二人で楽しんできてね」
はーぁ、めんどくさい。めんどくさいから来たくなかったのだ、このキャンプ。
さて、やることがなくなった。寝よう。早く起きすぎて眠たい。僕が5000円かけて借りてきたテントに大の字になって寝転んだ。持参したブランケットを足にかけて眠りに入る。
と、そんな僕の腕に頭を乗せてきた。寧ちゃんが。さっきのやつ撤回します。寧ちゃんは好きです。いや、恋愛的ではなく、後輩的に(?)。純粋に後輩として好き。
「先輩、私は先輩が好きです」
衝撃の愛の告白だった。僕は反応に少し遅れた。
「先輩として」
取り乱さなくてよかった。これまで生きてきた上で反応が遅れてよかったと思えたことは初めてだ。滅多に思うことはないだろう。日常を生きていく上では。
「僕も君みたいな後輩は好きだよ。後輩として」
「そうですか。私は先輩が構ってくれないので嫌われたのではと心配していましたが、そういうわけではなかったんですね。安心しました」
ごめんね寧ちゃん、僕はさっきまで君のことが苦手だったよ。だって性格がちょっと変わっていらっしゃるからさ。あと構ってちゃんだったんだ。
この子は身長が小さいと言うと、とても憤慨なさる。だいぶ身長を気にしているようで。
「うん、別に嫌いではないよ。というか、朝早く呼ばれて眠たいから寝かせて」
「いいですよ。私も一緒に寝ます」
僕が寝たいと言うと、寧ちゃんは快く承諾してくれた。どころか一緒に寝ると。なかなかいい子ではないか。なぜ今まで苦手だと思っていたのだろうか? 要は身長のことを口にしなければいいだけじゃないか。
「おっ、私も一緒に寝るぞー!」
麗華さんが僕たちの話を聞いて自分も寝ると言い出した。麗華さん、あなたはもう26でしょ。僕は26のお姉さんと一緒に寝るという性癖はない。麗華さんはお呼びではない。
まあ、僕の心の声なんか聞こえないので、遠慮なく僕の腕枕に頭を乗せる。
あれ、軽い。結構軽い。しかも改めてよく見ると、麗華さんの体、スタイルいい。端的に言って……エロイ。
いやいや、僕は欲情とかしてない。寧ちゃんにはギリギリ欲情しても許されるかもしれないけど麗華さんはダメでしょ。いやだからって言って寧ちゃんに欲情しているわけではない。
あー、なんか、両手に花だなぁ。
あぁ、麗華さんいい匂いするなぁ、髪の毛。
僕の意識はしだいに遠くなる。
*目を覚ますとそこは*
目を覚ますとそこは、桃源郷であった。
具体的には、目の前には麗華さんの唇。腕には寧ちゃんの胸の感触。寧ちゃん胸薄いけどけっこう弾力あるね。
「はっ!?」
僕はこの状況の異常さに気づいて、咄嗟に飛び起きた。
なぜこんな状況になってるの!?
「おぉ、先輩、ハーレムですね」
「ハーレムじゃない」
僕が飛び起きた時、夢叶ちゃんが僕の顔を覗き込みながら、相変わらず眠そうに言った。
「おっ、モテモテですね先輩!」
やたらと元気な人は苦手なんです。義人くんは僕をモテモテな男として見ているが、これはたまたまの構図である。だから後輩たちよ、ネタにするな。
そんな思いを込めて後輩二人にガンを飛ばすが、僕の睨みはあんまり怖くないらしい。「ははっ」と苦笑いしている後輩二人。ミ〇キーかよ。
僕は二人のこういうところが苦手なんだ。ネタにされるのは嫌いだ。
「はぁ……」
僕は溜息をつき、ゆっくりと立ち上がった。
「どれぐらい釣れたかな?」
僕はテントから出て、義人くんが持参したらしいクーラーボックスに入っているアユを覗いた。
「うわっ! もうこんなに!?」
クーラーボックスの中には、だいたい100以上のアユが入っていた。え、普通にすごいんですが……。
「すごいでしょぉ、義人くんが全部やったんですよぉ」
相変わらず眠そうですが、夜寝てます、夢叶ちゃん?
「オッスー、僕が全部釣りましたよ! 実は釣りが結構好きなんですよー僕!」
あら、意外なご趣味。でもやっぱり無駄な元気を放出しているなぁ。……苦手だ。
「私はまだ1匹も釣れてないんですよぉ」
「頑張れば釣れるよ」
適当にアユを釣らせようとする僕を快く承諾してくれる夢叶ちゃん。この子もいい子じゃないか。
何この子結構いい子じゃん。なんで嫌いだったの? よくわからない。自分で自分がわからなくなってきた。なんで今まで寧ちゃんと夢叶ちゃんを嫌いだったの? あれ? こんなにいい子達なのに。
「ねえ、夢叶ちゃん。僕は君が好き」
「はぇ?」
「後輩として」
「はぁ、私もです」
夢叶ちゃんは非常に冷静な性格らしく、眠そうなのも相まって、全然ひるまない。商売に向いていますなぁ。最近店の経営が良くなったのもこの子のおかげですかなぁ。僕の観察眼はどうやら少し落ちぶれてしまったようです。
「さて、釣れない釣りはやめて僕の胸に飛び込んでおいでー」
些細な欲望を少し出してしまった僕を快く承認し、胸に飛び込んできた。
まじかこの子結構僕を受け入れてくれるよ? この子騙されやすかったりするのかな? 人を信じやすいのかな? まあいいや。
腕の中の暖かい小さい温もりを抱きしめる。あぁ、気持ちいい。なんだこの心地よさ。あぁ、後輩を抱擁するのって気持ちいいなぁ。
あれ、僕なんだか変態じみてないか? やばい、このままだと僕は変な性癖に目覚めてしまいそうだ。
目覚める前に後輩を引き剥がそうとした。しかし、夢叶ちゃんの体に力が入っていない。
「あれ、どうしたの? っあ、寝ちゃった」
僕の抱擁が心地よかったのか、寝てしまったようだ。さすが僕。
あれ、なんだかんだ言って僕は嫌いな人が消えてきている。かといって義人くんは好きになれそうにない。無駄に元気が有り余ったいる人はどうも僕とは相性が悪い。
まあ、いつか仲良くなりたいという気持ちもあるのだが……。
どうもみなさんこんにちはスマイルさんです。
今回も日常が好き。を書いてみました。書いている間はネタがなくてとても苦戦しましたが、実際その苦戦も含めてとても楽しかったです。
今回は『嫌いな人』というものをキーワードとしています。みなさんも嫌いな人や苦手な人がいるのではないでしょうか?
そんな人にも、きっといいところはある。嫌いな人をただそれだけで見るのはよくない。ちゃんといい面も見てあげたら嫌いではなくなるのではないか。そういう思いで書いております。
前書きでも言っているのですが、この小説は私の前回の小説である日常が好き。の続編となっています。前回を読んでいる前提で書いているので、この小説を読もうと思っていただいた方は、ぜひぜひ私の前回の小説を読んでからお願いします。
ひとりでもこの小説を読んで楽しんでいただける人がいるのなら、私はそれだけで満足です。