彼女は暴力系ヒロイン
一応、「宇佐美」「三隅」は拙作「六博」の主人公ですが、読まなくても問題は無いと考えております。
「このぉ、バカけーんーりぃぃー!」
榛原アイロがグリーンベレー仕込みのタックルで倉井剣理の体にもたれかかる。
「あ、アイロ?」
ドゴガギゴギメキドゴサモ
倉井剣理は全身を複雑骨折し入院した。
「と、言うわけで!」
「うう」
机の前で頭を抱えている少女がいる。
上着はセーラー服、下はズボン、気の強い眼差しは一見すると少年に見えるかもしれないが、ポニーテールと黄色いリボンが辛うじてそれに反論する。彼女の名前は榛原アイロ。倉井剣理複雑骨折事件の犯人だ。
そして彼女の目の前には。耳の上の赤い髪飾りからロップイヤーのように髪をたらした少女が仁王立ちしている。彼女は榛原アイロの友人、宇佐美アムだ。
放課後、榛原アイロはこの無人の空き教室に呼ばれた。
机が二つ、幕で覆われたホワイトボードが一つ。ホワイトボードの後ろにはなにやら大きめの箱が一つ。それ以外は事前に片付けられているようだった。
机に突っ伏しているアイロと、腕組みしている宇佐美。アイロの隣のもう一つの机からは、宇佐美の親友で剣理の友人の三隅シバが胡乱げな瞳を宇佐美に向けている。三隅シバは男性で、怪我なのかトレードマークなのか鼻の頭に絆創膏を貼っている。
宇佐美が、唐突にホワイトボードの幕をとりさった。
「『第一回榛原アイロの暴力系ヒロイン度数を下げよう』」
「お前、そういうノリ好きだよな」
三隅が呟く。
その横でアイロはポロポロと涙を流していた。
「うう・・・・・・ひっくひっく」
「ああ、いや、怒ってる訳じゃないんだ、ホント」
「そう、ほら。飴ちゃんあげるから」
宇佐美が強引にアイロの口に飴玉を放り込む。
アイロの両の眼が見開かれる。
「よし、立ち直った!私の暴力系ヒロイン度数を下げることで剣理と私の距離感を密接にすると、そういうことね?ウォォォオオ!」
「立ち直り早ぇ!」
「つーか、密接な距離感を求めてる段階の相手に暴力系ヒロインすんな」
「だって、剣理、おとなしい子より元気な子の方が好きだって・・・・・・」
アイロのトーンが下がる。
「あ、怒ってる訳じゃないんだ。深呼吸しようスーッハーッ」
「スーッハーッ。よし立ち直ったわ!」
「立ち直り早ぇ!」
アイロのガッツポーズに宇佐美の感嘆の声。
「当然よ。フフフ!私はあらゆる困難を耐えてきた!武術!プロレス!グリーンベレー!」
アイロの拳が虚空を振るわせる。
「でも、それら全てが剣理を殺しに行く方向に使われてちゃダメだろ」
「効かないわ!そんな暴言など!オホホホ」
「強くなっている!?この数秒間で確実に、成長している!」
アイロの哄笑に取り合えず三隅が呻く。
三隅が引き下がったのと同時に宇佐美は、真面目な顔をしてため息を付いた。
「っていうかさ、倉井君と距離を詰めたいなら、ちゃんと、告白はしたの?距離を近づけたかったら、まずは物理の前に言葉でぶつかって見ないと」
「ちなみに、お前にした告白の返事はまだ貰ってないからな。アム」
「うぐ!今はいいのよ話が逸れる!」
ギラリとした三隅の声が宇佐美の背に刺さる。
「え!?まだ付き合ってないの」
「今はいいのよ話が逸れる!」
宇佐美が強引に話をそらす。宇佐美の目は明らかに泳いでいるが、三隅は頷いた。
「まあ、なんだ。こういう不誠実なクズの世の中にはいるが・・・・・・」
「ウグッ」
宇佐美は心臓を押さえる。
「実際にはクズは世の中に少ない筈なんだ。だから、まあ手段としてはありなんじゃないかな」
宇佐美は心臓を押さえながら、呻いた。
「うぐ・・・・・・ググゥ・・・・・・でも・・・・・・立ち直ったわ!」
宇佐美のガッツポーズにアイロが簡単の声を上げた。
「立ち直り早い!」
「反省が無いだけだ。コイツは」
「と、無駄で生産性の無い話をしたところで・・・・・・」
バンッと宇佐美がホワイトボードを叩いた。
「――何の意味もないオラァ!」
「!?」
「!?」
ホワイトボードをドロップキックで破壊する。そして代わりのつもりだろうか?後ろにはテレビデオが設置されていた。
「・・・・・・なにアレ?」
アイロが首をかしげた。だが三隅が目を見開く。
「むぅ、アレが世に聞くテレビデオ!かつてテレビとビデオを融合させたまったく新し」
「・・・・・・アムもそうだけど、三隅もそういうノリ好きよね」
「気のせいだ」
「フッフフ。どうやら、この新兵器の恐ろしさに気づいたようね」
二人きりでもこういう会話をしているんだろうか?その恐ろしい想像を振り払うようにアイロが宇佐美に聞き返す。
「恐ろしさ?」
「ええ、そうよ!この新兵器はテレビとビデオを融合させたまったく新し」
「恐ろしさは・・・・・・無視・・・・・・?」
「要は、だ。榛原の問題のシーンをビデオから現状把握して問題点を洗い直そうという話だろ?」
「そうなるわね」
「へー」
アイロが頷いた。つまり、これからビデオ上映されるビデオはアイロと剣理が今までどう接してきたか、その総集編となる。
「恐ろしい!」
アイロが青ざめた。
ジャーン!とロゴが出た。モアイである。
「おお、凝ってるなぁ」
「やぁめーてー!」
「ふふん」
モアイの下には「クラスの恋愛マスター日下部院プレゼンツ」と書かれている
「委託しました」
「やぁぁめぇぇてぇぇー!」
「だと思った。まあ、俺の方のクラスの恋愛マスターの壁ヤンは押せ押せしか言わねぇからなぁ」
「やめてぇー!やーめーてぇー!私の恥ずかしいところを見ないでぇー!」
地団太を踏みながらアイロが叫んだ。だが宇佐美が羽交い絞めしているのでテレビデオに触ることが出来ない。
(グリーンベレー仕込みのタックルを持つ女を羽交い絞めする腕力ってどんなだ?)
三隅の思考を一瞬そんな疑問が横切ったが、話が逸れると判断して頭を振った。代わりにアイロのほうを向いた。
「まて、榛原。良く聞くんだ」
「うう」
「今から行うのは現状把握と、問題点の洗い出しだ。正直・・・・・・俺はいつか剣理はお前に愛想を尽かすか、死ぬかのどちらかだと確信している」
「・・・・・・そ、それは」
アイロの目が一瞬逃げるように三隅から外れる。その先には宇佐美がいた。宇佐美の視線は力強い。
「逃げても現実は変わらないわ。現実を見て、決断することからはじめないと!」
アイロはゆっくりと、しかし確実に頷いた。
三隅は一瞬、宇佐美に一言言おうかと思ったが、話が逸れるのでやめた。
ビデオ再生――
ビデオに写っているのは、まだ髪を短くしていた頃のアイロだ。
そして、桜の花。着こなされていないスタンダード制服が初々しい。
アイロが一人で歩いていた。
そこに、アイロよりやや長身の少年が現れる。こちらも着こなされていないスタンダードな制服だ。このツンツンとした髪型の男こそ、問題の男、倉井剣理だ。
問題の男が、転んだ。
「な!?」
問題の男の頭部がアイロの胸元に収まる。
「何すんだぁー!?」
アイロの怒号と、蹴り。
――ビデオ終了
「あー、これはまあ、可かな?剣理に瑕疵が無いわけでもないし」
「私的にもOK」
「でしょ!?でしょでしょ!?私と剣理の接し方間違ってないでしょ?」
ビデオ再生――
次に現れたのは剣理だ。彼がにこやかに談笑している。
「でさー!このアングルがさ!」
相手はクラスの友人だろう。
「統計学的にもよ、やっぱよー」
剣理が、品無く笑う。
と、その横を榛原が横切った。剣理は笑顔で榛原に笑いかけた。
「オッス榛原!見るかお前も、この俺の秘蔵のエロ本コレクション。お前も興味あるだろ?男なら!」
榛原の目の前の本は、肌色だった。そして榛原の顔は肌色から赤へと変わる。
「私は、オ・ン・ナだぁ!」
本日の蹴りは変則上段回しだ。それを後頭部に。
――ビデオ終了
「うーん、後頭部かぁ・・・。不可・・・・・・かなぁ?」
「え?全然OKでしょ。しょうがないじゃん」
「ほらぁほらほら!ね?ね?私間違えてないでしょ?」
「ちなみに、剣理に聞いたけど、このとき初めて榛原が女だって知ったみたいだ」
「え!?」
「それまでは『隣のクラスに訳の分からん理由で蹴りを放ってくる頭のおかしい男がいる』って相談受けてた。この時から『隣のクラスに訳の分からん理由で蹴りを放ってくる頭のおかしい男みたいな女がいる』にシフトしたんだよな」
「へー」
ビデオ再生――
剣理、それにクラスの友人たちが談笑している。
「学園祭のフォークダンスって。いいよな。女子と手ェつなげたりしてさ」
剣理の友人が言った。
「美人で有名な水原さんとか来たらドキドキしちまうよ」
「お、じゃあ、俺は吉野井サンかな楽しみなのは」
「俺は興味ない」
「お前は端で宇佐美と踊っとけ」
「ぬぅ」
そんな友人間の会話の中で、剣理が笑った。
「踊りたい女子かぁ・・・・・・。全然関係ないけど、この場合、アイロ・・・・・・榛原はどっちに入るんだろうなあの男女!ハッハッハ」
そして、剣理は首をかしげた。
級友の表情がおかしい事に気づいたのだ。彼らは剣理の後ろを見上げている。
剣理が振り向くと、そこには般若がいた。剣理の後ろに般若はいた。
般若は、虎の爪をはめた拳を振り上げた。
「誰が男ォ女だァ!」
――ビデオ終了
「これはアウトです」
「アウトですね」
「えっ!?」
「武器はアウトです」
ビデオ再生――
次に現れたのは。男女二人であった。公園だろう。そこからカメラに何か語りかけている。
「はいどぉーも」
ペコリと二人そろって一礼した。
「最近アレ、私ペットが飼いたくてねぇ」
「いやぁ、ムリでしょう。キミ、ガサツだもん」
肩をすくめる。
「いや、飼えますって。じゃあ、やってみようか?君、ペットな。イヌな」
「え、イヌ?まあ、うん」
膝を突いて、
「ワ・・・ワンワン?」
三隅が試すように吼える。
宇佐美が頷いた。
「ワンワン」
「お前もペットかよ!」
三隅の裏拳が擦るように宇佐美の左腕に当たる。
――ビデオ停止
「これ俺らじゃねーか!?」
三隅が叫ぶ。宇佐美もだ。
「ホントだ!マジいつとったの!?恋愛マスター日下部院さん!?」
「いや、何やってんの。あんた等」
アイロの声が冷たい。
「送れ送れ!」
駆け寄って、ビデオ画面から三隅と宇佐美が消えるまで早送りを押す。
画面内でペコペコシャカシャカと三隅と宇佐美が頭と手足を動かしている。
「っていうか、アイロと倉井君映って無いじゃん、何やってんの日下部院さん!」
宇佐美が拳を振るわせる。と、その時、ビデオテープが真っ暗になった。宇佐美が早送りを止める。
ビデオ再生――
黒いバックに大きく、文字が表示された。
「おわかりいただけただろうか?・・・・・・ではもう一度」
――ビデオ停止
「!?」
「!?」
ビデオ再生――
「今度は画面上方の建物を見てほしい」
渋い声が画面に響く。
確かに、三隅と宇佐美の漫才練習場からでも、一応学校は見える。
「はいどぉーも」
三隅と宇佐美が同時に頭を下げた。
その遥かかなたの学校で、豆粒のような何かが動いている。
「最近アレ」
豆粒のような何かが伏せた。
「ペットが飼いたくてねぇ」
豆粒は全力で体をたわませている。
まさに、これこそがグリーンベレー。
グリーンベレー仕込のタックルが別の豆粒を襲う。
「いやぁ、ム」
襲われた豆粒は校舎の窓を飛び出し中空に放り出された。
ドゴガギゴギメキドゴサモ
良く聞けば、そんな墜落音が聞こえた。
――ビデオ停止
「今日か」
「今日ね」
「日下部院さん、編集早いわね・・・・・・」
アイロは心底そう思った。
「見終わったな」
「ええ」
清清しい顔と声の三隅と宇佐美。
「ううう。テレビデオ・・・・・・恐ろしい兵器だった。まさかテレビとビデオを融合させたまったく新し」
「じゃあ、帰ろうか」
「そうね」
三隅が立ち上がると、宇佐美も立ち上がった。
「待って!」
二人の足が止まる。
「待って二人とも!」
「ん?」
アイロが拳を振り上げた。
「私が剣理ととどうすれば付き合えるかアドバイスをしてください!」
応える三隅の口調はいっそ爽やかですらあった。
「基本無理だろ。事あるごとに殺しに来る奴なんて」
「ヴォバァ!」
「吐いた!?余りの心理的プレッシャーに横隔膜が!胃が!心臓が!そして何より彼女の魂のあり方が生存を拒否している!?」
宇佐美が叫んだ。そして、宇佐美が教室の端にあるティッシュをとりに走る。
アイロがブルブルと震えた。
だが、アイロには見えていた。今までの苦難の日々。
武術家に投げ飛ばされたあの日。レスラーに締め落とされたあの日。そしてグリーンベレーのタックルに跳ねられたあの日々を。
アイロの瞳に意思が灯る。
「よし立ち直っヴォバァ」
「また吐いた!?ギリギリ駄目だった!」
アイロは倒れ伏した。
「っていうかさ」
ビクンビクンと痙攣するアイロを宇佐美がつついた。
「もう、思ったより二人の距離感は近いし、暴力に訴える必要は無いんじゃないの?」
「それは・・・・・・!」
アイロは頭をハネ上げた。
「実は・・・・・・その、剣理に暴力を振るっている時の・・・・・・性的な高揚が忘れられなくて・・・・・・てへっ」
笑顔のアイロが、頭をかいて舌を出した。
「へー」
「ほー、成る程なー」
宇佐美と三隅はうなずいた。
「いや、己の性的高揚を満たすために殺しにいっちゃまずいだろ!?」
その時である。
「話は聞かせてもらった!もはや心配は要らない!」
声が響いた。男の声だ。
ドバン、と勢い良く扉が開いた。
「お前は!?」
扉の開いた先にいるのは長身にツンツン頭、目には力強い意志を宿した、包帯と松葉杖の男だ。
「お前は、倉井剣理!?」
「でも、あなた病院にいるはずじゃ!?」
三隅と宇佐美が叫ぶ。
「それよりも心配が無いって?」
アイロが首をかしげる。
「何を隠そうこの俺も!理不尽に暴力を受けることに性的な高揚を得るようになったのだ!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・えー・・・・・・?」
みんな幸せ。
本編とはやや逸れますが、グリーンベレーガンダムよりブラックベレーガンダムの方がかっこよかった印象があります。