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オーパーツは眠らない  作者: 兎和乃 ヲワン
第5章.死の森編
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38. 再起

また遅れました。すみません!

 急斜面の村の中央、家より一周り以上大きい大木の上、階段状に並ぶ牢屋の二番目に高い場所でリゾーは仰向けになった。太い木の幹で簡素に組まれた牢屋の天井が視界を覆った。側面は木の格子で組まれており、そこから見える景色がこの広い森が岩壁に囲まれている事を伝えていた。


「それで、何悩んでるの〜。お姉さんに話してみなさい。なるべく早く簡潔に早急に一言で話してー」


 一つ上の牢屋からルシオラとかいう女の声がする。木の格子の間に顔を突っ込んでリゾーの牢屋を覗き込んでいる。

 ルシオラはこの村から脱出する方法があると持ち掛けてきたがそれはリゾーにとって価値のある提案ではなかった。頭に浮かぶのは救えなかった相棒の事ばかりで泣きそうになる。

 両手で顔を覆った。


「ちょい! 無視すんな!」


 ルシオラは木の格子を殴って抗議してくる。


「私はまだ死にたくないっつーの! ねぇお願い。助けてよぉ〜」


 かと思えば急に涙声で助けを求め始めた。うるさい奴だ。エモならもっと静かなのに。


「エモ……」


 気がつくと相棒の名前が口から漏れていた。


「ん? 何、それ」


 ルシオラはキョトンとしている。本当に泣いていたらしく鼻声だ。ムカつく奴だ。


「それじゃない。僕の大事な、大事な……」


 ギリと歯軋りした。一つ上の牢屋を睨むとキョトンとしたルシオラの顔があった。しかし、すぐに何かを察したような目になった。


「ん、ごめんね。成る程、大切な人が居なくなっちゃった訳だ。悲しいよね」


 何も知らない癖にと、リゾーはさらに睨んだが、ルシオラの目は優しかった。その目がエモの最期を思い出させて涙が溢れてきた。


「辛いよね。苦しいよね。力になれるかもしれないから話せる事だけでいいから話してみない?」


 身振り手振りで敵意がない事を伝えてくる。リゾーは睨むのが馬鹿らしくなり少しだけ話してみようと思った。


「……エモは僕が彫り起こしたアルマだ。シャインの遺跡からずっと一緒だった」


 それから心に開いた穴を埋める様にエモとの思い出を話し続けた。顔を見られたくないのでルシオラのいる方の牢屋の木の格子に背中を預けていた。

 リゾーが話している間、ルシオラは時折、相槌を打ちながら真剣に聴いていた。

 村で一際背の高い大木の頂上付近であるこの牢屋からは傾いた夕陽がはっきり見えた。


「僕はエモを救えなかった。約束したのに……」

「うーん」


 ルシオラは木の格子の間に顔を突っ込んだまま腕組みしている。どうやって罵るか悩んでいるのだろうか。最低だ、とか最悪だとか。ズレているとか。リゾーにはこれ以上人を罵る言葉が分からなかった。


「それってさ、間違ったら悪いんだけど……」


 ルシオラは目を閉じたままへの字にした口を開いた。リゾーは覚悟して目を閉じた。


「エモちゃん、なんじゃない?」

「……は?」


 ルシオラは何を言っているのだろうか。リゾーは瞬間、悲しみさえ忘れて一つ上の牢屋を見上げた。ルシオラは至って真剣な表情で口を開いた。


「だから、君の話だと[シャイン遺跡]でヤバげなアルマを奪い取って、エモちゃんを生み出した。それから一緒に行動してたけど、そのエモちゃんもやられちゃった」


 思わず握った手に力が入る。


「あー、ごめん。デリカシーないってよく言われるんだ私」


 デリカシーが何かは知らないが、リゾーは話の続きを促した。ルシオラは一つ咳払いをした。


「エモちゃんを直して目を覚ますと目の色が違うエモちゃんが居た。なんかややこしいなこれ」

「エモじゃないよ」


 リゾーは歯軋りしながら答えた。


「何で分かるの?」


 ルシオラは不思議そうに答えた。リゾーは目を細めて感覚でしかないがあれがエモではないと確信している事を伝えた。


「感覚? 製作者とアルマの間に何か相互作用があるのかしら? いや、それとも……」


 ルシオラは真剣な顔で考え込んでしまった。

 知っている事を話したが結局状況は変わらない。リゾーは木の格子を掴んでルシオラを睨んだ。


「あっ、ちょっと待って。脱線しちゃった。えーと、エモちゃんの事。君がそこまで言うなら蘇ったエモちゃんはエモちゃんでないとしましょう。だとしても、君は重要な事を見落としてる」

「何だよ」


 リゾーは怒りを込めて続きを促した。ルシオラは至って真剣に答えを返した。


「そのエモちゃんじゃない子は誰が作ったわけ」

「え?」


 想定外の事を言われて反応できないでいるとルシオラはもう一度大きな声を出した。


「誰!」

「……それは」


 言い淀んだ所にルシオラが畳み掛けてくる。


「エモちゃんを蘇らせようとして彫刻刀を使ったのは誰?!」

「いや……でも」

「でもじゃない!」


 リゾーは観念して小さく肯定した。ルシオラの質問の意図がやっと理解出来た。


「……僕だ」

「じゃあ、どうするの」


 ルシオラの頭が今にも木の格子の間から飛び出して来そうだ。リゾーは圧倒されて反論する余裕がない。


「どうするも何も……」


 なので小声でボソボソと愚痴を言った。


「アイツはエモと同じ目的を持って生まれたアルギラの機械巨人だ。僕なんか居なくたって……」

「そこよ!」


 しかし、地獄耳なのかルシオラはしっかり聞き取っていた。なおも喰らい付いてくる。


「同じ目的を持っているのなら、そのエモちゃんじゃない子はエモちゃんの遺志を受け継いだ二人目のエモちゃんって事なんじゃないの!?」

「……!?」


 後頭部に彫刻刀のトゲを突き刺した時以上の衝撃がリゾーの脳を駆け巡った。

 自分がエモを治せなかった事が恐ろしくて他の事に目が行かなかった。あのアルギラの機械巨人はエモではないが、エモと同じ目的を持っている。それは会話の中で確信している。このまま放っておけばエモはいつかプロトの死を知ってしまう。


「やっと気付いた? そ、れ、と!」


 一つ上の牢屋から激しい音がしてリゾーは我に帰った。ルシオラが木の格子をぶっ叩いたのだ。


「今まで君が落ち込んでたから我慢してたけど、個人的にどうしても許せない事が一つだけある」


 ルシオラは思い切り息を吸った。その目には静かな怒りが籠っている。


「君、自分で作ったアルマを見捨てたでしょ! 自分で思ってたのと違うからって……!」

「あ、あの時はびっくりしたから、だから、見捨てるとかそんなつもりじゃなくて……あの」


 さっきとは立場が逆転してリゾーは怒られる側になった。しどろもどろになりながら言い訳を探した。


「ヴィクトリエ随一の[アルマ技師]としてそれだけは許せない。自分で生み出したものを否定する権利は誰にもない! 例え生み出されたのがどんなものだろうとも」


 ルシオラはキッパリと言い切った後、木の格子をギリッと両手で握り、視線を落とした。

 会話が止まり静かになってもリゾーの心にはルシオラの言葉が反響していた。

 自分で生み出したものを否定する権利は誰にもない。

 エモではないからといってリゾーは見捨ててしまった。確かに自分が生み出した機械巨人を。相棒の遺志を受け継ごうとしてくれていたのかもしれない者を。

 リゾーは思った。悲しんでいる場合ではない。僕はこんな所で殺される訳にはいかない。

 リゾーは立ち上がり、恐らく鍾乳洞の方向だろう遠くの岩壁を見た。


「……ここを出たらまずエモの墓を作る」


 自分でも驚く程ハッキリとした声が出た。一つ上の牢屋へ振り返る。


「ここから脱獄したい。方法を教えてくれ」


 溢れた涙を左手で拭う。リゾーの心に開いた穴は塞がっていない。だが、最初に覚悟した時、ジャンヌが死んだあの時と同じなのだ。前を向かなきゃいけない理由が出来た。


「やっと、本題に入れるね」


 ルシオラは嫌味ったらしく吐き捨てると木の格子から抜け出そうと頭を引っ張り出そうとした。


「あ、あれ抜けない」


 間抜けな声を出して、今度は両手で木の格子を掴んで無理やり頭を引っこ抜こうと試みた。木の格子に歪められてまるで顔が潰された様だ。相当痛いだろう。

 しかし、その試みも虚しく終わり、ルシオラは木の格子から両手を離して肩で息をしている。そして、リゾーの方を見ておずおずとこう言った。


「あの、助けて」


 リゾーはため息を吐いた。



 次回 39. 脱獄

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