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オーパーツは眠らない  作者: 兎和乃 ヲワン
第4章.未知との遭遇編
29/42

29. 拘束せよ!

 長らくエタっていました。兎和乃です。思う所あって再開することにしました。今週から週一更新の予定です。今までの話を改稿するかもしれません。

 それでは、29話.拘束せよ! お楽しみ下さい。

 水の滴る音がした。

 音は不規則に何度も地面を打つ。辺りは薄暗く視界は狭い。

 ここは鍾乳洞。ローバーが言っていた崖からの出口だ。


「先が見えるかい? エモ」


 リゾーは恐る恐る湿って滑る壁を頼りに足を進めていた。前をエモが歩いているはずなのだが、エモの真っ黒な肌は闇に溶け込んでしまうのだ。さらに、どうゆうつもりなのかエモは足音を立てない様に歩いている。この上返答がないといよいよ本当にそこに居るのかどうか不安になる。リゾーが見落とした何処か別の道があって、そっちに行ってしまったのではないかとさえ思える。


 小石か何かが砕けた。エモはちゃんとそこに居るらしい。


「居るなら返事してくれよー。怖いじゃないか。あー、それよりさ。ローバーから貰ったこれだけど」

「そこ、穴があるぞ」

「うおっとぉ!?」


 ぐいと引っ張られて抱き寄せられる。ここまで近づけば顔くらいは見える。薄暗闇にエモの大きな輪郭が映った。綺麗な黄色が二つリゾーを見た。闇に濡れた白銀の髪がリゾーの額を撫でる。


「ルール3:製作者を保護。大丈夫そうだな」


 リゾーは言葉が出なかった。何を言おうとしても喉を押さえつけられたように声にならない。ただ、美しいと思った。

 会った時から成長してないな僕。ため息が出た。

 穴を覗いてみる。穴の中は更に暗く全く底が見えない。ただし、音は聞こえる。水の流れる音だ。


「地面の下に水の流れがある。川だ! こんな所に川があるぞ!」


 リゾーは一応手を伸ばして見たが、手は空を切った。川はもう少し下にあるらしい。曲がりくねった壁と衝突して立てる音の豪快さから考えて浅くはないようだ。


「ルール1」

「分かってる分かってるよ。寄り道せずに行くってば。それに僕だってお荷物じゃない。本当に迷子になったら置いていっても構わない」


 エモが急かすので、リゾーは立ち上がりながらかなり強がってみた。これくらい言わないと怒らせてしまうだろうから。しかし、エモの返答は意外なものだった。


「ルール1:命令を遂行。ルール2:自己を保存。ルール3:製作者を保護。確かにルール1は絶対だ。その筈だ。しかし、[ルールの順序]は既に二度も覆っている」

「ああ、シャインとローツでの事?」

「そうだ。命令の遂行を優先するなら貴様など見捨てて然るべきだったのに、私自身そう思ってそう行動したのに結局二度助けに戻った」

「うん、凄い嬉しかった。ありがとう! 助かったよ」


 リゾーは素直に感謝の言葉を述べる。


「私は嬉しくない」


 だから、エモが一瞬足を止めて言ってきた事は意外だった。


「私にとってルールとは生きる上での基準だ。何がしかの困難に対し、どう行動するかという点で私は常にルールに依存して来た」

「エモの行動に意思はないって言いたいのか?」

「そうじゃない。遺跡で復讐対象を怒りのままにぶっ飛ばしたのはルールを守るためだが、私の意思でもある。それは勿論ルール1と私の意思が同じだからだ」

「その言い方だとまるで、僕を助けに来てくれたのは自分の意思じゃないみたいじゃないか」


 エモは少し言い淀んでから答えた。


「今は私の意思はどうでもいい」

「どうでもいいって……」

「問題は私がルールに逆らえる事ができてしまったという事だ。シャインの時はまだ鎖の拘束がきつかったが、ローツでは鎖が大分緩んでいた」

「いい事……だろ?」

「良くないんだ。リゾー」


 不安げなか細い声、リゾーが聞いたのはシャイン以来だった。


「全く、良くないんだ。私はルールを基準に生きているのにその基準が私の意思によって都合よく曲げられてしまうなら、きっと私の[形]が変わってしまう」


 リゾーは少し考える事にした。エモが自分に悩みを相談するとは思わなかった。適当な答えはエモを迷わせるだけだ。エモの製作者は自分なのだから、悩みくらいどうにかしてやりたい。そして、感謝されたい。尤もリゾーには人の悩みを聞いた経験などないのだが。

 [形]が変わるって何だろう? 性格の事かな? それなら。


「自分の意思でルールを捻じ曲げるならいいじゃんか! それで君の[形]とやらが変わったとしてもそれが新しい君だよ。だって自分の意思で変わったんだし」


 リゾーは自信たっぷりに言い放った。

 しかし、エモは顔を伏せてしまった。


「貴様に話した私がズレていたな」

「え? ちょ、ちょっとエモ?」


 感謝されるどころか、それからリゾーは口を聞いてもらえなくなった。


 手首を掴まれ、強引に連れて行かれる。エモが長い足で早歩きをするので、引き摺られていると言った方が正確か。

 先程と変わらない暗闇が続く。足元と壁がつるつるである事も同じだ。変わった事といえば、こころなしか道が狭くなってきたような気がする。引き摺られたボロボロの服が擦れる音に混じって、地面下の水音が聞こえる。

 リゾーは歩くのを諦めて目を閉じた。頑張ってもどうせ引き摺られるなら、もうそれに任せよう。

 エモを怒らせてしまった理由を考える。少なくともリゾーの感覚では自分の意思とルールとやらがかち合うなら意思の方をとる。というか、ルールとかよく分からない。どうでもいいんじゃないかと思う。でも、エモにとっては意思より大事なものみたいだ。大事なものを軽んじてしまったから怒ってるのだろうか? いや、そもそも怒っていたのか? あの獰猛な眼を向けられなかった。エモは怒っていた訳ではない?


 リゾーがもう一度口を開こうとした時、エモは足を止めた。

 空気が緊張していた。見えなくても分かるくらい強烈にエモが殺気を放っていた。エモが何かを感知したのだ。

 リゾーは黙って右腰の彫刻刀に手を掛けた。傍らのエモも構えているだろう。

 リゾーは耳を澄ます。地面の下を流れる水の音だけが聞こえる。他に音がないので水音はやけに大きく、いつまでも止まない耳鳴りの様に耳に張り付いていた。

 リゾーは考える。エモが何かやばい気配を感知したというなら、獣か人かあるいはそれ以外の何かがこの暗がりに紛れて自分達を狙っているのか。一体何がいるという。こんな薄暗がりにも凶暴な獣が住んでいるのか。あるいはシャインからの追っ手がわざわざ崖下の鍾乳洞にまで先回りしてきたのか。考えてもそれらしい答えは出てこない。確かな事は後数分もしない内に戦闘が始まるだろうということだった。

 リゾーは彫刻刀を強く握った。トゲがリゾーの手の甲を撫でる。


 水音に混じって僅かに[何か]が地面を踏みしめる音が聞こえた。


 耳をつん裂く轟音と眩しい火花がリゾーの鼻先で起こった。それが闘いの合図となった。轟音が瞬き程の時間に何度も耳を打つ。壁か地面が砕かれ、その破片が飛んできた。

 リゾーは困惑していた。唐突に戦闘が始まった事にではなく、戦闘の音に困惑していた。エモが撃たれたり、ぶち壊したりして金属音が鳴り、火花が散るのはいつもの事だが、この激しい金属音は遺跡でエモが見張りの斧でぶっ飛ばされた時の轟音に似ている。それが瞬く間に何度も聞こえてくるという事はエモとぶつかっているのは巨大な斧なんかではない。それでは瞬く間に振り回しきれない。

 一層大きな火花が散って、エモとぶつかっている物が見えた。

 拳だ。

 拳同士が正面から、横から下から何度もぶつかり合って轟音を立てている。

 エモは今[殴り合い]をしている。

 リゾーはエモから距離を取って伏せた。彫刻刀を顔の前まで持ってきて地面に突き立てる。左手に深く彫刻刀のトゲが刺さった。鋭い痛みが顔を歪めた。

 拳同士がぶつかって金属音を発するという事はエモが闘っている敵もまた金属で出来ているという事。これは非常にマズイ。エモみたいな身体をもった[何か]がこんな崖下の鍾乳洞で待ち伏せていたのなら、ここがその[何か]にとって一番やりやすい場所という事だ。[何か]は暗所の戦闘に慣れている!

 エモはこのままではやられる!


「AAAAAAaaaaaaaaa!!!」


 金属を引き裂いた様な叫び声、これはエモのものだ。悲鳴か怒号か分からなかったが、次にリゾーの頭上をエモが飛び越えて壁にぶち当たった事で悲鳴だったと理解した。[何か]がエモをぶっ飛ばしたのだ。


「エモ、大丈夫か!?」


 マズイ。マズイ。マズイ。マズイ。襲ってきた[何か]はエモより力が上なのか!?


「返事をしてくれ!」


 風が吹いた。


「っ!」


 すぐに飛び退いて居なければ、リゾーもぶっ飛ばされていただろう。何かが繰り出した拳によって空気が振動した。

 リゾーはそのままの勢いでエモがぶっ飛ばされた壁に駆け寄る。


「エモッ!」


 エモは身動き一つしていない。近くと辛うじて仰向けに倒れている事が分かった。顔の辺りを両手で触って確かめる。エモは目を閉じていた。まさか、死んでしまったのか?


「エモ……」


 リゾーは目を閉じてエモと額を合わせた。僕はまた大事な人を失うのか?

 手の中で瞼が震えた。

 リゾーは目を開けた。あの縦に細い真黄色の瞳が黒い白目の中でリゾーを見ていた。エモの唇が動いた。


「手を退けろ」

「良かった。生きてた。エモが生きてた!」


 リゾーは喜びからエモの顔を抱きしめた。生きてる。僕はまだ失っていない!


「目的を果たすまで私は壊れない。リゾー、なんか考えろ」


 喜びも束の間ぶっきら棒な相棒が無茶を言う。リゾーは思わず、はぁ? なんて言ってしまった。


「貴様得意だろ。こういうの。いつもみたくなんとかしろ」

「いや、別に得意じゃないから。いつもいつも、いっぱいいっぱいだから」


 エモがいつもの仏頂面で真っ直ぐリゾーの目を見ている。


「策があるのだろ?」


 エモは役場のない声で当然の様にそんな事を言う。リゾーは顔を逸らそうとしたが、両手で頭の向きを固定されてしまった。

 なんか見透かされてる感じだ。絵本で見た仲間という奴も[通じ合っている]時はこうだったか。エモはそういうの嫌がると思ってたけど。リゾーは顔をしかめて渋々答える事にした。


「……なんで分かったのさ」

「敵が迫ってきてるのに余裕ぶってるからさ」


 ああ、そりゃそうか。リゾーは思った。通じ合うとかじゃなく僕がエモに慣れたように、エモも僕に慣れていたんだ。


「はぁー、なんか絵本と違うなぁ」

「策は?」


 リゾーは口を噤んだ。アレをやるのか……。アレをやるしかないのか。

 エモがリゾーの頭を両手で掴んで自分の顔面に寄せた。


「おいッ!」

「……だー、もう。やるよ! やればいいんだろ!」


 確かにこの状況を打開する策はもう思い付いている。但し、リゾーが死に掛ける策をだ。敵の足音が聞こえない。敵は忍び足で必殺の間合いまで詰めようとしているのだ。さっきエモに防がれたから今度は方法は分からないが、防ぎようのない一撃を放って来る筈だ。次は無い。他に策は思い付かない。もうやるしかない。

 リゾーは気合いを入れて立ち上がり、


「エモ、僕を殴れッ!」


 イカれた命令を出した。


「あぁ!? 何を急にズレた事を!」


 同じく立ち上がったエモが見た事の無い顔をしている。目を開いて口を歪め眉を寄せている。ようやく仏頂面を剥がしてやれた。リゾーはこの表情をもっと見ていたいと思った。

 足音が聞こえた。どうやらそんな時間は無さそうだ。


「いいから殴れ! 敵が来るぞ!」

「馬鹿か貴様は!?」

「エモよりは利口だと思ってるよ」

「ルール3を忘れたのか」

「覚えてるよ。早く!」


 エモの縦長の瞳がさらに細くなり、眉間に皺を寄せて、震えている。また怒らせてしまったのだろうか。


「貴様はまた私にルールを……」

「エモ」


 リゾーはエモの長い耳へと顔を近づける。闘いで役に立たないならせめて相棒の不安くらい取り除かないとね。

 そして、リゾーは銀の髪を掻き分けて決意の言葉を囁く。


「心配しなくていい。もしエモの[形]が変わっても僕が元の君に戻してみせるよ」


 さっきはこう答えれば良かったんだ。


「だってエモは僕が彫ったんだ。君の[形]は僕が一番よく知ってるからさ」


 リゾーは精一杯の笑顔でエモと目を合わせた。

 エモの縦に細い瞳がリゾーを映していた。エモはいつのまにか仏頂面に戻っていた。


「そうか。なら、いい」


 エモは右腕を大きく後ろに振りかぶった。しっかりと大きな胸を張り腰を据えた強力なパンチの前段階。遺跡で見張りをぶっ飛ばした時と同じ右パンチだ。

 思い切り殴れとは一言も言っていない。


「覚悟しろ、リゾー!!!」

「えっ? ちょ、優しく」


 震え声で出した命乞いは聞き届けられず、速すぎて見えない右拳がリゾーに駆り出された。拳はリゾーの額を擦って壁に激突し、壁を砕いてめり込んでいった。一瞬でもしゃがむのが遅れていたらリゾーの顔面にめり込んでいただろう。


「こ、殺す気かァー!!? 誰が思いっきり殴れって言ったよ!」

「? 弱めに殴ったのだが?」

「弱めじゃないだろ。振りかぶってた!」

「あれより弱くするなら撫でているのと変わらん。初めから撫でろと言え。早く立て撫でてやる」


 エモはそう言いながら、リゾーに右手を差し出した。

 エモに撫でられるというのはよく分からないが、恥ずかしいので遠慮しておくとして、今この手に触れるのはマズイので、リゾーは自分で起き上がった。


「いや、もう策は終わったよ。これで少なくとも五分五分の闘いになる筈だ」


 怪訝そうなエモの顔の上で[鎖模様]がズルリと蠢いた。鎖模様は何かに引っ張られたようにエモの身体の上を動き始め、徐々にその動きを速めていく。


「エモ、君は今ルール3を犯した。[拘束]が始まる」

「ああ、そうだ! 貴様のせいで。これじゃまともに動けないぞ!? いや、これは……そういう事か」


 鎖模様同士が擦れ合い、悲鳴の様な音を立てる。


「鎖は[拘束]する時、エモの身体を凄い速さで這い回って擦れる。そして、素早く擦れるって事は凄く[熱く]なるって事だ。そして、その[熱]は」


 エモの鎖模様が赤く赤く、輝き始めた。


「ロウソクの火よりもずっと明るく、この暗がりを照らしてくれるんだ!!!」


 リゾーはすっかり勝利気分で暗闇の先、敵の居る方向に指を指して吠える。エモの身体を高速で這い回る鎖模様が暗闇を照らして行く。湿った地面が見えた。ツルツルの壁が見えた。天井や地面から生えたぶっとい柱のようなトゲが見えた。天井のトゲから垂れる水滴までくっきり見えた。


「わざわざ暗がりに隠れて攻撃してくるって事はさ。明るい場所で闘ったら勝ち目が無いって事だろう? まだエモと闘う気力があるか、勝ち目が無くなったから逃げ出すか。どっちにせよ、勝つのはエモだ! さあ、突然住処から引き摺り出された小動物みたいに怯えきった表情を見せてみろ! お前自身にもよく分かる様にお前の怯え顔をそこの壁に彫ってやるからさ!」


 赤熱した鎖模様が明るさを増し、鍾乳洞の暗がりに人の姿が浮かび上がった。

 身体は小さい。手足が細い。胴が細い。髪は黄色、いや金色だ。髪は肩まで下ろしている。手に獲物はない。胸がある。首筋に[白い鎖模様]が見えた。[何か]の目が一対の紅の光を反射する。

 暗がりに浮かび上がったのは……女の子だった。

 女の子は[白い鎖模様]が刻まれた細い手でゆっくりと拍手をする。そして、暗がりと同じ色をいた唇を開いた。


「お〜見事〜〜〜!!!」


 女の子はよく通る綺麗な声で歌う様に喝采した。縦に細い真紅の瞳が楽しそうに笑っていた。

 エモとリゾーは顔をしかめた。さっきまでの勝利気分は女の子の口の中に吸い込まれてしまった。

 暗がりの女の子がまた歌う。


「ねぇ、聞いて聴いて聴いて? 私ね。今スッゴイ初めてなの! 敵が見えないからって、ルールを破って鎖の拘束を明かり代わりにするなんて! 死にたがりなのかしら? 貴方ってホント素敵ね。マスター以外にまじまじと身体を見られるのも初めて、同じオーパーツに会うのも初めてだし、後〜〜……あ、いけない! 私ったら自己紹介がまだだったわ!? 初めまして、私の名前はコロナ。今から貴方達を殺すけど、今回ちょっと初めての事が多いから優しくしてね?」


 早口で捲し立てた女の子は可愛らしい笑顔を浮かべ、首を傾げた。



 次回 30. 造られた者達

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