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オーパーツは眠らない  作者: 兎和乃 ヲワン
第3章.渓谷への旅路編
26/42

26.オリハルコン

 幾重にも重なった線路が空を覆っていた。神秘的とも言える光景を前に立ち尽くす人々、石球が空に向かって伸びた線路の先端から離された時、その石球がさっきまで走っていた列車を粉々に粉砕した時、ローツの人々はようやく我に返った。

 悲鳴と怒号が飛び交い、線路を転がる石球が観光区画を蹂躙する。線路から逃れようとした人々は飛んできた石球に潰された。区画中の線路がまるでそれ自体、石球を打ち出す兵器であるかのように変形し、高さをスピードに変え、石球で地面を穿つ。石球の衝突音でシャインの軍人達の怒号が掻き消された。


「なんて……ことだ……!」


 観光区画の端、呪いの鉄橋の果てでリゾーが乾いた喉を鳴らした。千切れ飛んだ線路の枕木に掴まってさらに上へ登った。


「クソッ! 線路全体がオーパーツとは!」


 リゾーの眼下でエモが吠えた。


 彼らはローツの惨劇に戦慄していた。


 また見知らぬ無関係の人を巻き込んでしまった……!

 歯噛みしたリゾーは上に向かって千切れた線路の枕木から飛び降り、走り出した。背後からドスの利いた制止の声が飛んできたが、それでもリゾーは逃げ惑うローツの人々へ駆けて行く。


「おい……止まれ!!!!!! お前が行って何になる!」

「また巻き込んでしまったんだ! 少しでも多く皆を逃がさないと!!」

「バカな! オーパーツはお前の血で動くんだぞ! お前が行ったら餌になって余計に敵を強くするだけだ!!」

「それでも!」


 リゾーは悔しかった。自分の行動が招いた結果は、自分ではなく他の誰かを殺していく。その事実が悔しかった。もう自分は何もしてはいけないのではないか、と考えてしまうのが嫌だった。

 あの日の脱獄が間違いだとは認めたくなかった。


 気がつけば涙が頬を濡らしている。強く握った左手の傷口が血で滲んだ。

 空を覆う線路に遮られて辺りは暗い。立ち止まったリゾーの肩が悲しみで震えた。


「リゾー」


 銃声と人が潰れる音が飛び交う中、エモが小さな、しかしはっきりとした声で話しかけてきた。とても優しい声だった。


「少なくともお前のせいではない。私がお前を無茶に付き合わせてしまったんだ……お前は、英雄になりたいんだったな?」

「……うん」

「そのためには周りを巻き込んではいけないだったか?」

「……ああ」

「そうか」


 エモはフゥー、と息を吐いた。

 リゾーは急に頭を掴まれ、顔を上げさせられた。エモの毒々しい黄の眼と目が合う。


「なら、考えろ」

「……何を?」

「作戦だ! 奴を倒すための! この結果は鉄橋を侮った私のせいだ、どんな役割でも協力してやる!」

「そんなこと……鉄橋を侮ったのは僕も一緒だよ。それに」


 エモから目を逸らして、一拍おいた。


「君の鎖だが、シャインやさっきのことから考えて何か遠回りをしようとすると発熱して君を縛るようだ。だから……君には恐らく、ここから引き返して線路と戦うことだってできやしない。そんなことをするぐらいならここから今すぐ飛び去った方が早いからだ」

「……」

「君は、先に行ってくれ! 僕はもう逃げる訳にはいかない。戦うための力だってある!」

「おい、待て……ッ⁉︎ リゾー後ろだ!」

「っ⁉︎」


 エモに背を向けて走り出そうとしたちょうどその時、あっという間に足元の線路が形を変え、蛇のごとく脚に巻き付いてきた。抜け出そうとするがビクともしない。


「しまった! 線路全体がオーパーツなんだった。くそっ取れない! エモ!」


 考えるまでもなくエモに助けを求めようと手を伸ばして、それに自分で気がついてリゾーは顔をしかめた。

 エモの方は自分に絡みついて来た線路を千切り取っているところだった。しかし、千切った先から次々に別の線路が絡みついていく。


「クソッ! このままじゃ……!」

「ああ!!? この鉄くずがッ!! 纏わりついてきやがってぇ!!」


 リゾー達は拘束されてしまった。彼らは、走ればすぐに辿り着ける距離で人が死んでいくのを特等席で見せられることになったのだ。


「一般人の避難を急げ! グズグズするな! おい貴様、敵前逃亡は銃殺だ!! 覚悟しろぉ!」


 数百メートル先でシャインの軍人が叫ぶ声が聞こえた。石球が軍人のすぐ近くを通っても、その軍人は叫び続ける。


「残った者で敵を引き付けるぞ! 対オーパーツ用の焼夷弾の使用を許可する! 線路を全て焼き払うのだ!! 急げぇ!」

「了解! 焼夷弾装填!」

「装填!」

「装填!!」


 逃げ惑うローツの人々を、逃げなかったシャインの軍人達が守っていた。十数人いる内のほとんどが線路を攻撃し退路を確保、残りの何人かが住人の避難を誘導する。

 しかし、石球の攻撃は変幻自在で焼夷弾で線路を焼き切り、石球の進路を断つことは出来ても遠くから線路を持ち上げることで放たれる石球はどうしようもなかった。

 また一人、避難を誘導していた軍人が石球の下敷きになった。


「軍曹、避難を誘導するんだ!」

「しかし、隊長! これ以上人数を減らしては危険です!」

「避難が完了次第、即刻撤退する!! 急げぇ!」

「そうだ行って来い!」

「ここは俺達に任せろ!」

「大丈夫だ! 焼夷弾さえあれば線路は切断できる!」


 逃げなかった軍人達、命を賭けて戦う覚悟をした彼らは軍曹と呼ばれた若い軍人の背中を力強く押した。が、しかし、一人が減って再開された防衛戦はあまりにもあっけなく、あっという間に決着が付くことになる。


「何だ? 急に静かに……しかも暗くなったぞ」

「太陽が雲に入ったか?」


 軍人達のいる一帯に濃い影が掛かった。線路を転がっていた石球はいつの間にか何処かへ消えている。そして、一人の軍人が、やがて空を見上げた。


「なん……だ。あれは!?」


 空を見上げた軍人が青ざめ、他全ての軍人達は空に銃口を向けた。

 観光区画を覆う球状の巨大な線路の天頂に、それはあった。線路から直接生えた無数のトゲが区画中の石球をそこに縛り付けて、一つの塊を作っていた。


「退避しろぉーー‼︎!」


 隊長の叫びが合図になった。線路の頂点から石球達が離され、垂直に落ちていく。軍人達が四方に逃げ出すが、彼らは全てすっぽり巨大な影に収まる。


 大量の石球が轟音と共に高く砂煙を立てた。



 リゾーは恐怖していた。区画ごと自分達を覆うこの巨大な敵を前に流石に闘う決意が揺らいだ。


 砂煙が晴れると、区画の中心部に石球が線路ごとめり込んでいた。それによってできた深い大地の裂け目が良く見える。


「おい! ボサっとするな! 石球が埋まってる間にぶっ壊すぞ!」


 エモが体に巻き付いた線路を噛み切って、リゾーのことろまで駆け寄った。リゾーに巻き付いていた線路は両腕で無理やり引き千切られた。

 拘束を解かれたリゾーは右手で左手の甲を摩りながら、膝をついて震えた。


「何してる! 止まるな!」

「……一つだけ、分かったことがある」

「……?」


 そして、リゾーは立ち上がり、キッと石球を睨む。


「どれだけ巨体に見えても、敵は目玉を持った本体だけだ。目玉が線路の中を移動している。そいつを倒すだけでいい」


 エモが目玉? と訝しげに聞いた。


「死んでしまった人達や、自分の不注意を責めるのは後にする。君から学んだことは……何が起ころうと、目の前のことに集中しなくてはいけないということだ!」


 リゾーは彫刻刀を抜いた。それをじっと無表情で眺めるエモは何を考えているのか


「…………ふん。移動していると言ったか? 根拠は何だ?」

「線路全体が本当に奴の全身なら、僕はとっくに死んでるはずだからさ。でも生きてる。きっと、あの目玉、本体が近くまで来ないと、線路の変形は起こらないんだ。あと、さっき観察していて分かったことだが、石球は四方から来るように見えて実は一発ずつ違う線路を変形させて放たれている」


 彫刻刀が左手を貫くのと(もう慣れた痛みだ)、リゾーの推理が終わったのが同時だった。エモは少し関心した様子で、


「そうか。つまり、一発目の石球を避けて……」


 リゾーは真剣な様子で、


「別の線路が盛り上がった瞬間に」

「移動してきた目玉を私が潰す! ってことか」

「そういうことだ」


 互いに頷いた。


 線路改め、線路内を移動しているらしい目玉を倒すためリゾー達は走り出した。とはいえ、目玉もそれを黙って見ている訳ではない。当然のごとく近くの線路を変形させ、足を引っ掛けたり、叩き潰そうとしてきたりする。しかし、そんな攻撃はエモには通用しない。リゾーは必死に避けて進む。区画の中心までは三十メートルほどか。


「奴が僕の血で目覚めたというのなら、僕の血をもっと欲しがるはずだ! もっとも、君を先に始末しようとするだろうが、そうはいかない。作戦がある」

「そういうことを今話すか……」

「ダメだった?」

「まさか、手っ取り早くて最高だ」


 言いつつ、エモは左から襲ってきた線路を殴り返した。線路の攻撃がエモに集中している間にリゾーは視線で目玉を探した。線路が変形しているということは近くにいるはずなのだ。

 ……いた! 一瞬、折り曲がり前方を塞いだ線路を左から右へ目玉がこちらを睨めましながら移動していった。


「右だ、エモ! 線路を右へ移動していった!」

「分かってる!」


 リゾーは突然頭の後ろに加わった重さのせいで派手にこけた。地面に頬を擦り、皮膚が裂ける。顔を持ち上げるとエモが目玉から伸びた鉄のようなトゲを掴んでいた。

 どうやら死角からトゲに刺されるところを守ってくれたらしい。


「うおお!?」

「おい! 今の内に目玉を潰せ。おい、リゾー! 早く……ッ!?」


 エモが突然、動きを止めた。何かに驚いたように自分の握った手を見つめている。


「どうしたんだ、エモ。目玉は何処へ行った⁉︎」

「バカな。そんなリゾー、お前……」

「……?」


 エモがこっちを向いてかたまっている。その表情に恐怖を滲ませて。


 風が吹く。リゾーが顔をしかめた。ふいに胸から足にかけて冷やりとした液体が何本も川を作って流れているからだ。


 口から鉄の味がした。


「これ……は」


 エモから視線を離して、右前方の歪んだ線路を見た。奴がいない……!

 左下を見た。すぐ足元のまだ歪んでいない線路の下から奴が生えていた。そして、奴から伸びたトゲが胸を貫いているのを見た。


「バカな……エモは確かに掴んでいたのに」


 リゾーの口から言葉と一緒にゴハッと血が吐かれた。


「リゾーオオオォォォ‼︎」


 天頂に開いた穴から光が差していた。


次回 崩落

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