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オーパーツは眠らない  作者: 兎和乃 ヲワン
第1章.遺跡脱獄編
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2.抜け穴

 絶望の瞬間。ジャンヌが見つかった!

 リゾーは思った。もう終わりだ。しかし、見張りは怒号を上げて襲い掛かってくる事もドアを破ってくる事もしなかった。いったい何故なのか、彼は壁をもう一度見て、ようやくその謎を理解した。ジャンヌが何故壁から下りなかったのか、何故裸だったのか。すべては隠すためだった。牢屋の暗闇とレンガの暗色、そしてジャンヌ自身の褐色の肌で見張りの目から自分の姿を隠すためだった。もし白い服を着ていればたとえ牢屋の暗闇であろうと見張りが鳥目でもない限りジャンヌは見つかってしまう。だから脱いだ。脱いでしまえば、見張りが来た時だけ壁の更に上の方、もっと暗い所まで登ってしまえばまず見つからない。


 見張りはしばらく牢屋内を見回した後、ドアの小窓から顔を離し、階段の方へ振り返った。そして、

 すぐにドアの小窓に顔を戻した。


「燭台がねぇぞぉ! ……てめぇら起きてやがんなぁぁぁ!」


 見張りは雄叫びを上げながらドアをこじ開け、牢屋に入ってきた。


「……ボッコボコにしてや……!?」


 勢いよく布団を剥いだ見張りは動きを止めた。

 ベッドには健やかに眠ったフリをしたリゾーと床に何故か[白い服を着て寝ているジャンヌ]が居たのだ。見張りは丸太のような腕でジャンヌの胸倉を掴み上げた。


「……寝たふりしてんじゃねぇ! 燭台がねぇんだよ。お前台で何かしてたんだろぉ!?」


 地に付かない足をブランとさせ、ジャンヌはゆっくりと目を開けた。


「何をしていたんだ。燭台でよ。何をしてたんだ!」

「燭台? ……何の事? 私寝ていたらベッドから落ちてしまったの。……ベッドが狭いから」


 平坦な声で答えたジャンヌは見張りから顔を引いた。


「とぼけんじゃねぇ! ……俺がここを出る時は確かにあったんだ。お前が何かしたとしか考えられないだろうが!」


 見張りはジャンヌの顔に唾が飛ぶくらい激しく早口で問い詰めた。

 彼女はより一層顔を引いた。

 彼女が何か言いかけた時、ドアから狸の仮面をした小柄な男が入ってきた。


「……見張りぃ……何を騒いでいるんだ。こんな夜中に」


 小柄な男は声を発した。リゾーは聞き慣れた妙に高い声に驚いた。


「チーフ!? こいつら消灯時間中に動いて何かしてやがったんですよ。燭台が無くなってるから……きっとそれで何か……脱走でもやらかそうとしてたに違いないんです!」


 小柄な男ーーチーフーーが牢屋の机を振り返る。やはりそこに燭台は無い。


「見張りぃ……よく見ろよ……落ちているじゃないか。机の脇にさぁ」


 チーフが指差した床には燭台と見張りが剥いだ布団が落ちていた。


「……あれ? いやさっきまでは……そんな所には」


 見張りは困惑しているようだ。ジャンヌから手を離し、両手で頭を抱えた。


「……きっとその娘がベッドから落ちた時に机が揺れて、台が床に落ちたんだろ。……こんな事で夜中に騒ぐなよぉ」


 チーフが呆れた様子でそう言った。


「いや、しかしですね。チーフ。万が一という事もあります。ですから……」

「お前……確か、前にも騒ぎを起こしていたよな? ……あの時はお前がここの古株だからという事で許してやったが……もうどうしようもないぞ。……またこんな事を繰り返してしまう様なら」


 チーフの声はゆっくりと小さな声だったが、その声は否応なしに牢屋内の空気を緊張させた。少なくともリゾーは経験した事の無い寒気に襲われ、ジャンヌはチーフを睨んだ。


 見張りは突然、埃だらけの床に膝を着いた。


「……もっ……申し訳ありません! ……もう騒ぎは起こしません……ですから……どうかお許しを!」


 二メートルもある巨体が埃だらけの床に頭を擦り付け土下座している。この光景を見て、その異様さにリゾーはベッドの端で冷や汗を搔いた。


「……分かれば宜しい。ワシは……もう寝る……騒ぐなよ」


 元の高い声に戻ったチーフはドアから出て行った。それに続いて見張りは燭台を丁寧に机の上に戻すとすぐに出て行った。

 この時、階段を降りて行くチーフを見て、リゾーは全身に鳥肌が立っていた事にようやく気が付いた。

 リゾーはよくチーフに実験室へ連れて行かれる。けれども、チーフのあの異様な威圧感を感じたのはこれが初めてだった。


「……ふう……危なかったわ」


 ジャンヌはベッドに腰かけて一息ついた。

 リゾーは固まっている。


「何ボサッとしてんの。……今度こそ寝ないとエライ目に合うわ」

「……き、き……君は……ほんと……何考え…………」


 リゾーは言い切る前に意識を手放した。


 ロウソクに火が付けられた。牢屋全体が明るさを取り戻す。


「起床時間だ」


 見張りはそう言って、ドアから出て行った。

 布団から片足をはみ出していたジャンヌはベッドから這い出た。ジャンヌの赤茶色の髪が両耳の脇からベッドの上まで垂れている。


「……起きなさい。消灯時間に起きているのもマズイけど、起床時間に寝ているのもそれはそれでマズイんじゃない?」


 ジャンヌは両手で抱くように布団を剥ぎ、床に放り投げた。

 ベッドの上には昨晩気絶した時と同じ格好でリゾーが寝ていた。

 暗い金髪を持つ白い肌のリゾーに赤茶の髪を持つ褐色のジャンヌが近づく。


「……絵本がどうなってもいいのね」


 ジャンヌはリゾーの耳元2cm以内で囁いた。

 何より大事な宝物の危機は無意識の底にいたリゾーを一気に覚醒させた。


「……よせ! ……?」


 飛び起きたリゾーは目の前でカラカラと笑うジャンヌを見て眉を潜めた。


「僕の絵本に手を出すなと言ったろう」

「あら、心外ね。手は出してないわ」

「絵本を人質にしている事自体が手を出しているという事になるんだ」

「あら。意見に食い違いがあったみたいね。……大変だわ。それより絵本は人じゃないんじゃない?」


 融通の利かない文句とすかして躱す様な軽口の応酬はロウソクが1cm短くなるまで続いた。

 結局リゾーが折れた。


「……分かった。もういい……もう……けど次は無いからな。それより僕は聞きたい事が……いや、君が僕に話すべき事があるはずだ」


 リゾーは腕を組み、語気を強くしてそう言った。


「……そうね。昨晩私が壁の上で何をしていたのかって事と……これからの事を話さなくちゃね」


 ジャンヌはリゾーがギリギリ聞き取れるかどうかという声でそう言った。

 リゾーは口を一瞬開きかけて言葉を飲み込んだ。


「私が昨晩やった事……それは……脱出するための出口……抜け穴を開く事」

「……抜け穴? ……開く?」


 リゾーは再び眉を潜め、壁の上を見た。穴らしき物は見えない。


「……からかっているのか? ……壁に穴なんて無いじゃないか。第一、壁にそんな物があったら見張りに丸見えだろう」


 リゾーは組んでいた両手を広げてすかして見せた。


「埋めたのよ……簡単だったわ。燭台のロウソクを刺す尖った部分をレンガとレンガの間に差し込んで削ってレンガを外していくの。人が通れる大きさの穴が出来たらレンガを元に戻して終わり……以外と脆かったわ。想像以上に古い建物なのね。ここ」


 ジャンヌはリゾーの灰色の目を真っ直ぐ見つめて説明した。ジャンヌの口元は少し緩んでいる。


「レンガを外した先になんで抜け穴があるんだ? また壁があるだけじゃないのか?」

「フフッ……それは後でね。見れば分かるわ……さて次は今後についてね。やっぱり昼間は監視されているから夜……巡回の隙を付いて抜け穴から……でも布団に誰もいないのは……」

「ちょっと待て、その前に言うべき事があるだろう!」


 リゾーは1人作戦会議を始めたジャンヌを手で止めた。彼は真剣な心持ちでジャンヌの灰色の目を見た。


「……見張りがこの部屋へ入って来た時、……君は……その……全裸だった!

 けど、いつの間にか服を着ていた上、君は床に寝ていたし、燭台は君の手の中にあったはずだ。……どうやって机の下まで移動させたんだ? どうやって服を着たんだ? どうやって壁の上から床まで一瞬の内に移動したんだ? 燭台は……投げたのなら大きな音がするはずだし、転がしたなら見張りに見えてしまう。服と瞬間移動は……どうやった?!」


 昨日までちょっと近づかれるのも警戒していたリゾーが湧き上がる疑問に身を任せ、ジャンヌのすぐ近くまで顔を寄せていた。


「ちょっと! 大きな声出さないで! 見張りに聞こえちゃうわ! 質問も一つずつにして!」


 一喝し、両手でリゾーを抑えた後、ジャンヌは両眉を下げて、ため息を付いた。


「……ハァ……そんな事を聞いて何になるのよ? ……全く前向きじゃないわ。無意味な事よ……そんな終わった事は……何を期待しているの? 今はここからどう出るかって話をすべき時なのに」


 ジャンヌは早口で語気を荒くし、睨む様にリゾーを見た。


「お……大声を出したのは悪かったよ……でも君だって怒鳴っているじゃないか…………気になるんだよ……分からないままでは前に進めない。教えてくれ」


 リゾーは姿勢を正して冷静さを取り戻した。言い終わってから、急に近づいた事が恥ずかしくなってきて顔を反らした。


「嫌よ。ふざけている場合じゃないわ。昨日だって文字通り私の足を引っ張って……余計な事されるのはもうコリゴリ!」


 リゾーは咳払いしてから真剣にジャンヌの目を見て、


「…………君がちゃんと説明してくれれば余計な事をしなくて済む」


 目を合わせたのが以外だったのか困惑顔のジャンヌに、はっきりそう言った。


「……貴方なんか変わってない? 昨日と……」


 ジャンヌが眉を潜めた。早口でなくなっている。


「そうか? ……正直、僕は今からでもこんな事は止めて欲しい……ただ君の行動には理由がある。それを知ってからでも……いや、知って置きたいと思ったんだ」


 リゾーは視線を下に向け、埃でラクガキされた床に指を這わせた。


「……何を書いているの?」


 リゾーが床に描いたのは鎧を着た兵士だった。


「へぇ~……上手ね……ってこれが何なのよ!」


 リゾーの視界の端で兵士を覗き込んでいたジャンヌは頭の向きを変え、目を細めた。


「英雄だ。これって言うな…………英雄は僕の憧れだ。英雄の行動は一見無謀な行いに見えるが、それには必ず理由があるんだ」


 リゾーは目を閉じ、枕の下に隠した絵本の各ページを思い浮かべて空想に耽った。


「……ハァ……分かったわよ。別に私は英雄じゃないし、こんなゴツイ鎧も着た事ないけど……言えばいいんでしょう。言えば」


 ジャンヌは顔を背け、ふんぞり返った。

 リゾーは空想を止めてジャンヌの話に集中した。


「見張りが入って来たあの時、流石の私もビビったわ……でもチャンスはあったのよ……抜け穴の事を隠すチャンス……見張りがベッドの前に立って布団を剥ぐ瞬間……燭台を布団に投げ入れた」

「……なるほど、布団にぶつかったなら投げても音がしない」

「そう。そしてその行動と同時に剥ぎ取られる瞬間の布団とベッドの間、つまり見張りの死角に飛び込んだ。ベッドの端で衝撃を殺してね……これで、燭台は布団と一緒に机の下まで行き、私は音もなく床に落ちる事が出来る……後は知っているでしょ。あのチーフが入ってきて、うまい事説明してくれたのよ」


 ジャンヌは両手で伸びをしながらそう言った。


「……なるほど……チーフが来なかったらどうするつもりだったんだ?」


 リゾーは顎に手を当ててしばらく考えると、視線だけジャンヌにくれて疑問を付け加えた。


「あれだけ大声で騒がれたら誰か気づくでしょ」


 伸びの姿勢のままジャンヌが答えた。


「……それもそうだな。…………で? 服は?」


 リゾーはまた疑問を付け加えた。

 背中を解し終えたジャンヌがリゾーの方を向いた。


「私早着替えの天才なの」


 歯を見せて元気に笑い、ジャンヌは得意そうに言った。


「何だよそれ……」


 リゾーは呆れたという顔をしてから……この狭い牢屋で久しぶりに笑った。

 ドアの外、階段の下から足音が響いてきた。見張りはそれに気が付いたのかドアから離れて頭を下げた。


「おはようございますチーフ……昨晩は申し訳ありませんでした」


 チーフは見張りの挨拶に片手で返した。


「アレいるか?」


 手を口の前に持ってきてチーフは吸う真似をした。


「……アレですか!? もちろん。最近ご無沙汰だったもんで……えへへ」


 見張りは狂喜して何度も階段の同じところを踏んだ。


「よしよし。持ってくるよ。……待っていな」


 チーフは階段を上へと上がっていった。


「アレって……何?」


 会話を盗んだジャンヌが言った。


「変な野菜の事だ……見張りがアレを渡されると階段の隅で夢中になって匂いを嗅ぐんだ……」


 リゾーはこりゃあ昼飯が遅くなりそうだ、と付け加えた。


「…………チャンスが来たわ」


 ジャンヌは見張りが階段の上を見ている間に不敵な笑みを浮かべた。

 ロウソクがさらに2cm短くなった頃、チーフが下りてきた。その手にはリゾーが言ったーー野菜ーーが握られている。

 見張りは頭を下げてチーフから差し出されたそれを受け取った。

 ジャンヌとリゾーはそれを横目で見ていた。


「……チャンスって事は今抜け穴から出て行くのか? 抜け穴の外がどうなっているのかも分からないのに? ……それに野菜に夢中になっているたって……気付かれないか?」


 リゾーは表情を暗くして上ずった声を出した。チーフが階段の上へ登って行った後、ジャンヌとの会話は無かった。ジャンヌはずっとニヤニヤしながら脱出の算段をつけているようだったし、突然チャンスと言われてもリゾーは不安だったからだ。また昨日の様に冷や汗を搔かなければいけないのか。


「……野菜じゃないわ。あれが野菜じゃないから私達は大丈夫なのよ」

「……?」


 リゾーが難しい顔をしていると鼾の様な呼吸音が断続的に響き出した。リゾーがドアの外を見ると、見張りが野菜に顔を突っ込んでいた。見張りは千鳥足でたたらを踏んだ後尻もちをついた。


 それを確認したジャンヌはスッと立ち上がるとドアの前まで歩いて行き小窓を掴んだ。リゾーは止めようか迷ったが止めておいた。


「……やっぱりね」

「いったい何が……ハッ!?」


 リゾーがジャンヌに着いて行って見ると、彼は驚愕した。


「何だ! この見張りの目……白目を向いているぞ! 普通じゃない!!」


 仮面の双穴から血管が浮き出た肉厚の白目が顔を覗かせている。


「今までは、過去のトラウマのせいでこんなに近づこうとは思わなかった。だから気付かなかった。いつも見張りがこんなヤバイ目をしていたなんて……!」


 見張りの巨体が呼吸に合わせて揺れる。リゾーはその気味の悪い様を見慣れていたはずだった。しかし、今は思わず後ずさりしてしまう程、呼吸が浅くなる程恐ろしい物に映った。


「気付いていると思うけど、あの野菜は麻薬よ。繰り返し服用すると毒が強まるの」


 ジャンヌはドアの小窓から手を離し、机の方へ歩いて行った。


「あの麻薬は屋内では育てられない、太陽の光でないと育たない花の葉っぱ。それも状態から見てかなり新鮮だから、ごく最近採られた物……つまりチーフは今、麻薬を外へ採取しに行った! ……今なら出られる。見張りの交代も来ないみたいだしね」


 ジャンヌがそう言って、机の上のロウソクに右手を伸ばした時、リゾーはその手を掴んだ。


「……危ないんじゃないのか?」

「……何が?」


 舌打ちをしてジャンヌはリゾーを見た。


「見張りの交代なんて確かに見た事ないし、今なら誰も僕達を見ていない。それに、チーフが外への出口がある事を証明してくれた。僕達にはここから出ていくための抜け穴もある」


 リゾーの頬から汗の雫がこぼれた。リゾーは俯いて、ユラユラ揺れる火を見ていた。


「僕達にとってあまりに……都合がいい。それって……つまり……罠なんじゃないのか?」


 ロウソクの火に近いせいかジャンヌも汗を搔き始めた様だ。しかし、その目は真っ直ぐリゾーを見て、その顔は不敵に笑っていた。


「ええ……そうかもね。でも私はチャンスを目の前に立ち止る事なんて出来ないし、何より……」


 ジャンヌは左手を握りしめて突き出した。


「楽しいじゃない。罠かも知れないけど、出口の場所も知らないけど、私達はアイツ等の知らない抜け穴を知っている。……こんなに楽しい事ってある?」


 リゾーはさらに視線を落としてジャンヌの右手を離した。


「くッ……どうしてそんな! 楽しいなんて!!」


 リゾーは悔しそうに膝を着いた。


「…………君は英雄だ。そんな事が言えるのは英雄だけだ」


 リゾーの声と体は震えている。


「だから、私は英雄じゃないって……」


 ジャンヌはそう言った後、膝を折ってリゾーに顔を合せた。その口調は軽く、またバカバカしい口論でも始まりそうな気さえした。


「教えてくれ! ……どうしてそこまで外に出たい? [ここでだって生きていける]のに」


 リゾーは楽しい気持ちになどなれなかった。チャンスという言葉の意味が危険と隣合わせだと悟ったからだ。


「…………生きていけやしないわ…………生きているなんて言わないわ。こんな所で一生を過ごすのは……!」


 生きていける、という言葉を聞いた瞬間ジャンヌは突然声を荒げた。彼女は両手をグーにして、今までに無い程、眉間に皺を寄せた。


「……死にはしないじゃないか」


 急に怒った様な態度を取られて、リゾーは視線を逃がしながら小さくそう言った。


「ココに居たら……出来ないのよ!!」


 ジャンヌは金切声でさらに大きく叫んだ。


「だから、一体何が!」


 リゾーも乗せられる様に声を大きくした。牢屋内の張りつめた空気が否応なしに神経を逆撫でする。


「……アンタには関係無いでしょ!」


 いきなり身を引いて、挙動不審になったジャンヌは目を逸らした。

 リゾーは勢いよく顔を上げて、めいっぱい息を吸った。


「ココから出るって事は! 命懸けだぞ……! 死ぬかもしれないんだぞ! それなのに君は……! 出たい理由を隠すのか! そんな奴を信用しろって言うのかッ!!」


 リゾーは今までで一番大きな声で思いのまま叫んだ。

 牢屋に静寂が戻る。ロウソクの火が空気を燃やす静かな音だけが耳に届く。ジャンヌの顔は先程とは真逆に曇っていた。


「外に出たいのは……友達を……助けに行くため」


 ジャンヌの瞳から雫がこぼれた。



 次回 煌めく炎

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