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オーパーツは眠らない  作者: 兎和乃 ヲワン
第2章.シャイン騒乱編
19/42

19.突破

 リゾーが目を開けると、そこは真っ暗だった。体を動かそうとしてみたがほとんど自由が効かない。自分を覆うように何か硬い物があるのは分かった。


「……ココは?」


 自分はつい数瞬前まで前衛基地でエモと共に集中砲火を浴びていたはずである。最も、自分を殺さないようにしているはずだが……


「……一体僕らは何処に逃げたんだ?? エモ?」


 リゾーは自分を覆っている硬い者に問いかけた。


「ズレたことを……私達は逃げられてなどいない。地面の下に潜っただけだ」


 硬い者、エモが答えた。


「地面? …………に潜っただってぇ!? あの一瞬の内にか!?」


 リゾーが驚いて身を捩る。


「あの燃える弾は苦手だが、元々私は銃弾を掴むほど素早く、一撃で石の壁をぶち砕くほどのパワーで動けるんだぞ? 一瞬の内に地面に穴を開けて、それを埋めることなんて簡単だ……」


 エモの表情は見えない。得意顔をしているのかいつもの仏頂面なのか


「しかし、参ったな。潜ったのはいいが……今、地上は敵だらけだし、流石にあの数に囲まれたら、突破するのは難しいな……それに」


 リゾーのお腹辺りにあった硬いものが移動した。その物体の発する熱から判断するに恐らくはエモの右腕だろう。リゾーの顔近くでガリガリと何かを削る音がした。


「この……壁方向の土……いや、石か? やけに硬い。手で掘るのは無理だな……かといって、殴って壊すとデカい音がする。バレたら終わりだ……」


 エモがそうぼやくと、ガリガリという音が止まった。右手で前衛基地方向の岩の壁を削るのを諦めたようだ。


 狭く、暗い地中にリゾーの呼吸音だけが聞こえる。外の様子は不明だ。しかし、まさか焦げた地面の下に潜っているとは夢にも思うまい。リゾーは急な動きによって開いた左手の傷口を抑えながら、フゥと息を吐いた。


「マズイな……」

「ああ……やはりココは一端…………面倒だがッッ……引き返すべきだ。リゾー、反対方向へ土を掘って他の場所から地上に出よう」


 歯軋りの音をさせて、悔しそうにエモが提案した。


「何言ってるんだ。マズイっていうのはそういうことじゃない。時間のことだ…………それより、削ることはできるんだな?」


 リゾーはある決意を固めながら確認するように聞いた。


「は?」

「この岩の壁だよ。さっき手で削っていたんだろ?」


 リゾーは左手で自分の腰辺りをまさぐる。狭いところで無理矢理に動くので、やたらエモの体にぶつかる。

 リゾーは腰から目当ての物を引き抜くと、何かを削る音をたて始めた。


「何を言っている? こっちの岩? は無理だ。早くココから移動しなくては」


 リゾーの意図が掴めないからか、エモは苛立っているようだ。


「そう……その通りだ。早く出ないといけない。今からで間に合うかどうか……」


 リゾーは焦っていた。


「だから何を言っているッ……! この音は何だ? さっきから何をやっている!?」


 エモはきっと眉間に皺を寄せているだろう。耳障りな削る音は止まない。


「エモ、君は息をしないだろうが、こういう狭い場所じゃ……人は息が続かない。広い場所に繋がっていないといずれ息ができなくなるんだ」


 リゾーは息を乱しながら作業を続けた。


「[ズレた]こと言ってる場合か! 質問に答えろッ! ココが見つからないとも限らないんだぞ!!!」


 憎き敵に向けるような低い声でエモが吠えた。その時、リゾー達の右側、壁方向の岩盤が突如[開いた]。


「うわッ……これは何だ!? 広がった……?」


 エモが裏返った声を上げ、お互いにバランスを崩して新たに広がった空間になだれ込んだ。


「岩に……顎が外れた男の顔を彫った……! かなり、大きくな。コイツに口を開いてもらえば、音もなく硬い岩でも穴を開けられる」


 リゾーの左手を生暖かい血が伝った。彫刻刀が血を吸っているのだ。

 岩の壁に彫った男の口の中にリゾーが上半身を突っ込み、その先をまた削り出す。口の中は元いた場所よりもさらに狭く、リゾーの頬にざらついた岩が当たっていた。


「リゾー……!! 貴様、血が……!」

「重要なことは、エモ……僕の血が持つかどうか、最後まで息が続くかどうかだッ!」


 既に息を荒くしているリゾーは一つ大きく深呼吸した。土と汗と、血の臭いがした。


「……今ので五十センチは進んだか? エモ、壁まで何百メートルあったっけ……? 一体いくつ同じ顔を彫れば[そこ]まで行けるかなッ?」


 血が垂れ、震える左手を大きく開いた口の中に突っ込んで、さらに彫る。


「エモ、僕は顔一つ彫るごとに気絶するかもしれない……僕が寝たら、叩き起こしてくれッ!」

「リゾー…………!」

「君の言う通り真っ直ぐでいいんだッ! エモ、一端下がる必要なんてないし、僕達にはそんなことをしている余裕はない。何より君のやったことを僕は無駄にしたくない!! 真っ直ぐだ。真っ直ぐ、突っ切るんだッ!!」

「なんて奴だッ!! やはり私には貴様が必要だったッ!! いいだろう!何度だって叩き起こしてやるッ! そして、必ず二人で脱出するんだッ!!!」

「ああッ!!!」


 二つ目の顔が彫られ、その大口を開けた。



「……いッ……おいッ!しっかりしろッ!!!」

「ぐはッ!?」


 リゾーは頬に強烈な衝撃を受けて、覚醒した。


「……ココは?」


「地面の下だッ! しっかりしてくれ……! 後もう少しだ!」


 地中には延べ五百もの顎の外れた男の顔が彫られた。最初、リゾーは二つ目の顔を彫ったところでまず一度目の気絶をし、エモに殴り起こされた。その後も五回目、十二回目と気絶し、ボコボコにされながら進んできた。二十回目を越えた辺りでリゾーは何らかのコツを掴んだらしく、序々に気絶の回数が減っていった。


 しかし、それでも限界は訪れた。数百の顔を彫り続ける間、リゾーは彫刻刀に血を吸われ続けたし、息は荒くなる一方だった。

 彫りかけの顔にリゾーはもたれかかった。息を整えようと大きく吸うが、暑い空気が入ってくるだけで苦しいままだ。


「ぐっ……エモ……す……少し……休もう…………疲れた」


 なおも胸ぐらを掴んで殴ろうとするエモをリゾーは必死の思いで止めた。


「……分かった」


 エモはそっとリゾーを地中の壁に横たえて、手を離してくれた。


「しかし、もう時間が無いぞ。私は息をしなくても平気だが、貴様は……さっきから息が浅い。空間は広くなっているというのに……」


 リゾーは何か言おうと思ったが、喉から声が出なかった。

 地中に静寂が訪れる。


「……この、顎の外れたコイツらは……何が目的なんだろうな」


 しばらくして、エモが独り言っぽく話し始めた。


「?」

「私やリゾー、この上で私達を探している奴らにも目的がある…………しかし、コイツらは? たった今生まれたばかりのコイツらは何のためにいる?」

「…………たぶん」


 気が付くとリゾーの口は動いていた。


「喋るな……! 答えて欲しい訳じゃない。呼吸を整えることに集中しろ」


 既に熱くは無くなった金属の滑らかな感触がリゾーの口を覆った。リゾーは右手でなんとかそれを外した。


「いや、いい。大丈夫だ。言わせてくれ……彫刻もすぐに再開するッ……そして、話の続きだが、エモ…………コイツらは……口を一回開ける……たったそれだけのために存在しているんだ……」

「……何故だ?」

「………………僕が、そのために作ったから……」


 リゾーは苦々しく言い、暗い中でも感じるエモの視線から逃げるように顔を伏せた。

 ややあって、エモが口を開いた。


「……羨ましい限りだな。つまりコイツらは生まれた時から既に目的達成済みという訳だ。私達はこんな辛い目にあってもまだ最初の国さえ出れていない……」


 エモが一人冗談めいて愚痴をこぼした。リゾーは口数の少ない奴だと思っていたが、今はよく喋る。何故だろうか


「……僕はとても残酷なことをしているのかもしれない。何百と同じ顔を彫ってようやくこの彫刻刀を使う意味が分かってきた気がする」


 心まで衰弱していたリゾーにとってはエモの妙に柔らかな態度は逆に辛かった。リゾーは一瞬もう彫刻刀など使いたくないと思ってしまった。


 地中に風は吹かない。いくら吸っても気分の優れない空気が肺を満たしていく。リゾーの呼吸はどんどん無意味なものとなる。


 死の時が刻一刻と迫っていた。


「…………リゾー、少なくとも私は貴様に作られたことに関して何一つ……恨みはない。必ず目的は遂げるし、私はそうしたい」


 声色を変えて放たれたエモの言葉には力強い何かが宿っていた。どんなヤバい状況でも勇気が湧いてくるような、そんな輝かしい、あの狭い牢屋で見た何かが……


「……」


 沈みかけたリゾーの精神に光明が差す。ほとんど感覚が無い左手が何かに包まれる。彫刻刀のトゲが蠢き、血しぶきが立つ。


「なんとしても、あの女の無念を晴らさなくてはならないッ!!! 立ち止まる訳にはいかないんだッ! 後少し……きっと後少しでこの硬い壁を乗り越えられる……!」


 エモに人間の体温は無い。しかし、リゾーは握られた自分の左手に確かな暖かさを感じた。リゾーは微かに残った感覚を頼りに左手を持ち上げた。


「リゾーッ……!」


 エモの嬉しそうな声にリゾーはニヤリとした。流石に仏頂面じゃないだろう。リゾーは右手で大口を彫る位置を確認し、隣のエモを感じながら左手の彫刻刀をそこに突き立てた。

 削っている間も左手から血が噴く。エモが力強く握り、出血を強引に止める。激痛の伴う行為のはずだが、リゾーはしっかりと握られたということしか感じなかった。


 エモが手伝った彫刻はとてもいびつに仕上がった。ちゃんと人の顔が彫れただろうか?

 心配は杞憂に終わる。彫られた男の下顎が落ち、そして……


「……? これはッ! この感触はッ!!」


 口の奥に突っ込んだ彫刻刀が石であるはずの壁に沈んでいった。

 その壁には匂いがあった。肥沃な大地が持つ湿った匂いだった。


「柔らかいぞッ! 湿っているッ! 削るまでもなく彫刻刀が刺さる……! ということはつまり、エモッ! これは! この壁はッ!!」


 カラカラの喉から出た声は希望に満ちていた。リゾーは隣を振り向いた。エモがどんな表情を浮かべているのか見ることはできない。リゾーの左手を覆う硬い手はまるで包むようにそれを握った。


「良くやったな……! ココまで良くたどり着いたッ!! 何百メートルあったかもしれない岩の連続を……突っ切ったぞッ!!」


 エモの低い叫びが蒸し暑い地中に木霊した。リゾーはそっと土の壁から抱き上げられ、彫った顔の口内に置かれた。エモが拳を握る音がする。


「岩なら大きな音が出てしまうが……土ならばッ音もなく、一瞬で穴を開けられるッ!! 待っていろ。すぐに外の空気を吸わせてやるッ!」


 エモの言う通り一瞬の出来事だった。土の壁はあっと言う間に掘り開かれる。

 土の壁に穴が開いた。エモはさらに掘り進めていき、姿が見えなくなる。掘る時に出た土はリゾーが彫ってきた数百もの顎が外れた男の顔、その口の向こうへと消えていった。


 リゾーを背中に抱えて、エモは自分で掘った穴の中へ。穴はまず真っ直ぐに進み、すぐ九十度上に曲がった。上から僅かな光が差し込む。そして……



 狭い地中とは違う冷えた空気がリゾーの肺を満たした。



 次回 暗闇の出国

 読了ありがとうございます。兎和乃ヲワンです!

 久しぶりに後書きを書きますが、今回は別に何かやらかした訳ではありません(笑)。しかし、今回の投稿した話のことでもありません。

 何を話すかというと、「オーパーツが眠らない」が10万文字を突破したのでそろそろテコ入れをしようという話です。といっても大幅に改稿する訳ではないので全部読んで下さっている方もご安心下さい(誰か、いらっしゃいますよね……?)。

 改稿せずにテコ入れ、と言ったらもう分かっちゃった方もいると思いますが、ストーリーに深みを出すため過去編的な第0話を追加します!!




 宣言しといてあれですが、いつ追加するかは未定です……。

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