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鞠奈ちゃんはドジな子ですが...  作者: 小麦 楓菓
鞠奈ちゃんが奮闘する、章
20/20

まる子じゃなくて鞠奈です。

とても長いことお待たせしてしまいました。

なんとか五月中に投稿することができてほっとしています。


待っていてくれた読者様、ありがとうございます。

今後の投稿がとの程度のペースでできるかはまだはっきりしてませんが、最低でも月に一話は投稿したいと思っています。


まずは早く元のペースに戻れるように頑張ります。



書き方が前と結構違う気がします。

始めから読み返してはみたのですが、完全には思い出せないものですね。

「まる子!」


 指をさされて、久しぶりにそう呼ばれるのを聞いた鞠奈はあまり思い出したくない小学生時代のことが頭にたくさん浮かんできて、すぐにでも逃げ出したいほどでした。


「......」


 呼び名を訂正するどころか声を出すこともできません。

 今、鞠奈の頭を埋め尽くしているのは『またまる子ってあだ名が広まったらどうしよう』という不安です。

 まる子と呼ばれるのに対して鞠奈だと訂正する意地どころではないのです。


「まりちゃん、どうしたの?」

「大丈夫か?」

「具合悪いなら保健室いく?」


 鞠奈の顔色を見て席の回りに集まってきていたみんなの心配そうな声に鞠奈は少し落ち着きを取り戻せました。頭の奥に嫌なものを押し込めながら、転校生そっちのけで自分を心配してくれるクラスメイトたちに笑って大丈夫だと答えます。


 ちらちらと鞠奈の顔を見ながらですが自分の席に戻っていくクラスメイトに鞠奈はほっとしました。


「鞠奈、大丈夫そう?」


「......なんとか」


「無理しないで言いなさいね? 頼りなさい」


「ありがと、実砂」


「あら、今のはイケメンじゃなかった?」


 どうやら鞠奈を笑わせようとしているようです。

 気をつかって普段なら言わないようなことを言う実砂に鞠奈は軽く笑ったので、成功です。


「ほんとにイケメンだなー、実砂ぽんは。惚れちゃう惚れちゃう」


 少し気持ちが軽くなりました。

 そんな鞠奈を見て安心しているクラスメイトに実砂も安心していました。

 心配していない少数派も珍しそうに見てはいたものの、わらっていたような人はいませんでしたから。


 鞠奈は実砂に頭をポンポンとされておとなしくしています。


「熊野、体調が悪いなら無理しなくていいからな?

 ......頼めるか?」


 一瞬、断ることを考えてしまいました。

 それでもすぐに頭の奥にぎゅうぎゅうと押し込めます。


「もちろんです! まっかせてください!」


 鞠奈のその返事に転校生の高橋くんは目を丸くしています。


 彼が知っている鞠奈は仲のいい友達としかほとんど話さず笑うことも珍しい、こんなに大きな声を出しているところなど想像もできないようなおとなしい女の子なのです。


 それが今は、目黒先生に満面の笑みを向けて元気にはきはきと話しているのです。驚くのもまったく不思議ではありません。


 ざわざわとして落ち着かない生徒たちに目黒先生は何度か手を叩いて注意を集めます。


「転校生を紹介する。ふたご座転校生くんこと高橋龍くんだ。

 みんな仲良くするように。

 熊野は案内とかいろいろ頼んだ、中森は熊野のことよろしくな」

「はい」


 今はニコニコと笑っていますが、鞠奈の様子がおかしかったことを目黒先生も心配してくれています。

 よくよく見てみれば鞠奈の顔色がまだ少し悪いことにも気づきます。


「高橋君は、中森の隣の席だ」


 目黒先生は実砂の隣の空席を指差し、高橋君がそこに向かうのを見るとHR(ホームルーム)を終わらせて教室を出ていきました。

 普段から目黒先生は手短にHRを終わらせてしまいますが、それは今日も例外ではないようです。


 さて、問題は目黒先生より鞠奈たちのもとへやって来た転校生、高橋君です。


「久しぶりね、高橋くん。小学校の卒業以来かしら?」


 俯く鞠奈を凝視していた高橋君に声をかけたのは実砂でした。


「......あれ? えーと、中森実砂?」


 先ほど目黒先生が実砂に話しかけていたのに、高橋君は実砂のことに気がついていなかったようです。

 声をかけてきた実砂と目をあわせて心底驚いた様子でいます。


「そうよ。私が隣の席だから、よろしくね。

 鞠奈は高橋くんが馴染めるように先生に頼まれてるから、私も一緒に案内とかするわ」


「ああ、うん、わかった。ありがとう。

 それで、えーと」


 高橋君はチラチラと鞠奈に視線を送ります。

 実砂が高橋君の対応をしている間に落ち着いたのか、今度は視線をあげています。


「久しぶり、龍さん。

 わからないこととか、困ったことがあったらまりに言ってね!

 だいたいのことは解決できると思うから」


 高橋君、小学校での呼び名でいくと龍さん、はこれでもかというほど目を見開きました。

 というのも、鞠奈がまっすぐに視線をあわせてこんなに話しかけてくれたのははじめてだったからです。

 人見知りがある上に龍さんに苦手意識を抱いていた小学生の鞠奈は、話しかけられると必ずと言っていいほど俯いて短い言葉を返していました。


「まる子ってそんなに話せたのな」


「......えっと、うん」


 気まずい沈黙が漂いはじめたとき、二人の会話に入ってきたのは七虎でした。


「ねえねえねえ、マリリンとふたご座転校生くんって知り合いなの? あと実砂ちゃんも」


 鞠奈はここで入ってきてくれた七虎に感謝せずにはいられませんでした。

 強張っていた体の力が少し抜けます。


「えっとねぇ、まりと実砂ぽんと龍さんは同じ小学校だったんだよ」


「えっ!? そうなの!?

 じゃあ家近いの?」


「あー、同じ方向だね。駅は同じかも?」


 この事実に頭の奥に押し込んだ不安がまた出てきました。



 ──もしかしたら学校が終わったあとも駅まで一緒に帰ることになるかもしれない......!



 上の空で七虎とニコニコと話していた鞠奈はやっとまた頭の奥に不安を押し込みました。


 もうそろそろHRのために設けられた時間が終わり、10分休みになります。

 ありすとの約束がありますから、早速鞠奈は龍さんをつれて3年3組の教室へ向かうことにしました。もちろん実砂も一緒です。

 鞠奈たちの教室は三階にありますが、ありすの教室は二階にあります。


「どこ行くんだ?」


「優しい先輩を1人紹介しようと思うんだ」


「きっと1人じゃ終わらないでしょうけどね」


「あー、確かにそうかも。でもありす先輩が一番だったらいいんだよ」


 龍さんは鞠奈と実砂の話がわからず微妙な顔です。


 そして三年生の教室がある二階への階段の一番下の段を降りようとしたとき、鞠奈が足を滑らせてしまいました。

 しかしそこは実砂が鞠奈の腕をとり、残すところ一段だったとはいえ階段からの落下を免れました。

 龍さんの、すぐに引っ込められてしまったもののとっさに伸ばされていた手に気づいたのは実砂と丁度今の様子を見ていた周りの生徒だけです。


「危ないからぼーっとしない」


 実砂の口調は小さい子どもに言い聞かせるようなものです。


「ご、ごめんごめん。

 ありがとー実砂ぽん! イケメンすぎだよ!」


「はいはい、どういたしまして」


「まる子は昔から変わんないなー、そのドジ」


「いやー、あはは。気を付けてはいるんだよ?」


「どうだかな。まる子っていうのはぼーっとしてて困る段階になってから慌てるやつだからな」


「だから、まりはまる子じゃなくて鞠奈だってば」


 昔と同じような会話だななどと考えていた龍さんは鞠奈が少し眉を寄せていることには気がつかなかったようです。

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