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鞠奈ちゃんはドジな子ですが...  作者: 小麦 楓菓
鞠奈ちゃんが準備する、章
14/20

報告会という名の語らい。

 木曜日の朝、坂町高校の校舎二階にある使われていない空き教室に二十人は越える生徒が集まっておりました。


 他の教室と同じように並べられていたはずの机や椅子は、それぞれが教室の中央を向くように四角く並び直してあり、集まっている生徒たちは思い思いの席に座っているようです。


 見たところ次第に増えていく生徒は男子よりも女子が多いように見受けられますが、男子も少ないと言うほどではありません。


 そしてどの生徒も初めの挨拶以降の話題は似たようなものばかりでありました。


 そのままいくらか時間が過ぎ、空いている席は前の黒板側の一列の真ん中のそれ一つになりました。


 集まった生徒の中の1人、松浦(まつうら) 愛はその空席に目をやった後に時計を見ました。


(そろそろ会長が来るだろうな。)


 そのとき、教室の前の扉が一人の女子生徒によって開けられました。

 恐らく分厚いノートを片手に現れた彼女が愛に会長と呼ばれていた人物でしょう。

 集まっている生徒たちが『会長が来た。』と口々に囁いていますから。

 瞬く間にその囁き声も減っていき二十人以上の生徒がいるとは思えない沈黙に満たされます。


 彼女は一言も発言しないまま唯一の空席に座りました。

 そして欠席した者がいないか確かめる教師のようにぐるりと全体を見回すとひとつ息を吸って──


「では、これより熊野鞠奈様ファンクラブの報告会を開始します。」


  ──鞠奈の非公認ファンクラブ報告会の開始を厳かに宣言しました。


「報告会での報告は後ほど、会員にメールで共有されますがいいですね?

 では、急を要すると思われる報告は、その旨を述べて挙手を。

 その他の報告は静かに挙手をお願いします。」


 会長がこの会を進行するようで、挙手を促すと集まっている約半数の者が黙って手を挙げました。

 愛もその中の1人です。


「笹野 絢音(あやね)さん。報告をどうぞ。」


 会長に指名された絢音という女子生徒は返事をすると起立して報告を始めました。


 この会では報告者が立って報告を行うようです。


「つい先ほどのことです。

 教室に荷物を置いてトイレへ行こうとした時にまーちゃんにばったり会えたんです。」


 まりなの新たなあだ名が判明したところで、座っている他の生徒から絢音を羨ましがる声があがります。


「朝から鞠奈様に会えるなんて幸運でしたね。

 私も羨ましい限りです。」


 ノートにメモを取りながら聞いている会長は驚いたことに、素で鞠奈を様付けで読んでいるようです。


「はい、いまだに嬉しくて仕方ないくらいなんです。

 そして今日のゴムには蜜蜂の飾りがついていました!」


「蜜蜂ですか、これは今までには見なかった新しいゴムですね! 一番にそれに気づいたなんて羨ましい。」


 会長だけでなく集まっている誰もが絢音を羨ましがっています。


「今日の絆創膏はあげるとしたら花柄かなぁ。」


 蜜蜂に少しでも関連のある絆創膏を、と考えた愛がそう呟いたのを聞いたのか会長も絆創膏について考えを巡らしたようです。


「私も蜜蜂の柄は、持っていませんね......。残念です。

 何処かで探して買うとします。

 笹野 絢音さん。報告は以上ですか?」


「はい。」


「では次は森 小枝子(さえこ)さん。報告をどうぞ。」


 絢音が着席すると次の生徒が指名され起立します。


「私は、昨日の一時間目の前のことなんですが、廊下で熊野先輩にすれ違いかけたときに、熊野先輩がつまづいて持っていた教科書とかノートとか、落としてしまったんです。

 小さく礼だけしようと思ってたんですけど熊野先輩が転んだのを見て思わず声をかけてしまいました。」


「鞠奈様に怪我は!?」


「元々貼っていた絆創膏が剥がれただけで、怪我はなかったようです。」


 一同揃ってほー、と息をついています。

 気づかぬうちに息を詰めていたようです。


「それで森さんは絆創膏あげたんだ? いいなー。」


「いえ、気づいたのが森谷先輩((琴美のこと))の方が早くて私はあげられなかったんです。」


 残念がる小枝子に励ましの声がかかります。


「でも私はゴムと同じイチゴの絆創膏は持ってなかったので森谷先輩があげてよかったんだと思います。

 それに教科書とノートは私が拾って渡せましたから! ありがとう、って言われちゃいました!」


 今度は小枝子を誉める声と羨ましがる声がかかります。


「別れる時は、つい前も見ずにお辞儀しながら進んでしまったら、前を見ないと危ないと言ってくれて......。

 やっぱり熊野先輩は可愛いだけじゃなくて優しいな、って思いました! 以上です!」


 小枝子は最後は一気に言い切って、着席しました。


「鞠奈様の優しさを再確認できた報告でしたね。

 絆創膏をあげられなかったことは残念でしょうが、落とした荷物を拾えた幸運は誇ってください。

 森さんありがとうございました。

 では松浦 愛さん。報告をどうぞ。」


 そして遂に愛の番が来ました。


 皆の視線が自分に集まっていることを意識しながら席を立ち、正面の会長と目を合わせて報告を始めます。


「昨日の帰りに偶然鞠ちゃんと一緒になったんだけど、左手首に包帯を巻いてた。」


「怪我をっ......!?」


「あまり痛がってる様子もなかったし、そんなにひどい怪我じゃないと思うよ会長。」


「あ、......そうですか。松浦さん、続けてください。」


「怪我したの? って聞いたらドジって転んだときに上手く受け身を取れなかったってさ。」


「そんな、私がその場にいれば......。

 鞠奈様が怪我をせずにすんだかもしれなかったのに......。」


「会長、私だってその場にいたら支えたのにって思ってるよ。

 大事な荷物を庇って下敷きにしちゃった、って言ってた。多分一人の時だったんだろうな。

 もしくは誰かがいたとしても今回もその人を気遣って黙ってたのかもしれない。」


「大事な荷物......?」


「それが何かは聞いてないよ。」


「分かりました。報告ありがとうございました。

 今回のような例もありますから皆さん、鞠奈様が荷物を持って一人で歩いているのを見かけたりしたら、手伝ってあげてくださいね。」


 それぞれから了承する言葉が返ってきます。

 会長に言われるまでもなく、皆そう思っていたのでしょう。


「もし、誰かを気遣って黙ってたのだとしても、それはその人にその時怪我をしたと知られたくないから。

 毎度言っていますが、心当たりがあってもその意思を尊重して謝りに行ったりしないように。

 ここにいない会員にもメールを回します。


 今回の報告会はこれで終了とします。

 解散してください。」


 会長は開始の宣言とは逆に萎れた様子で報告会をお開きにすると一番に教室を出ていってしまいました。


 他の生徒もお互いで少し話しながら机を他の教室と同じように並べ直すと教室を出ていき、次第に減っていきます。


 愛と何人かの生徒もお喋りをしているようです。


「やっぱり会長、ショック受けてたね。話したらそうなるかなって思ってたけど。」

「元気なかったよ。いつもより早くに切り上げてたし。」

「転校生についても話さなかったよね。頭ん中から消えちゃったんだろうな。」

「あー、あの噂のふたご座転校生くんかー?」

「そうそう。」

「そんな会長だから会長なんだけどねー、たぶん。」

「様つけて呼んでるのも会長くらいだよね。」

「あんまり気落ちしないで欲しいけど。」

「見かけたら声かけるようにしよ?」

「そうだね、じゃあ解散しよー。」


 愛たちも教室を出た頃には残っている生徒は片手で数えられる程度でした。


 更に五分も経てば空き教室は言葉通り空になりましたから、何も知らない人には鞠奈のファンクラブの報告会が開かれていたようには見えないことでしょう。

語らいと言いながら結局報告会っぽくなってしまいました。

あまり思うように書けませんね......。

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