忠実なる白神子
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世界高等会議に向け慌ただしい城内を尻目に、女王リーアはのんびりと歩く。
テラスに見つけた長椅子に座り、最近城下で流行っているらしい本を開き目を通す。
よくある男女の生と死、出会いと別れが描かれている。
ふーん。
なんだか、ワンパターンな短編小説って感じだわ?
ぼうっと読んでいると、耳に小さな溜め息が聞こえた。
「…お久しぶりですわ。女王陛下。」
外見は十代前半の、白い神職の装束を纏う少女が頭を下げる。
気付いたリーアは顔だけを向け、緩く笑みを浮かべた。
「ええ。久しぶりね、ルカ。」
ああ、とルカは歓喜の涙を一筋流し膝まづく。
「…女王陛下とお会いできない間は、何をしても暗い海を漂っている様な心持ちでしたわ…。今はただ喜びで胸が震えております。ああ、この思いでだけで、私は生きて行けますでしょう!」
……長い。
嬉しいわ、と口にしながら半分は聞き流す。
この口上は何百回聞いたのだろうか。
彼女はルカ。女王リーアに心酔する神子である。
元々は女神に仕えていたが、一度リーアに出会い一目で憧れ、心を奪われた。
それからは、不老不死のリーアの為に人生を捧げ、リーアの妾の一人と契り不老不死となった。
多少いやかなりルカの思いは他の者に比べて重いが、害はない限り口出ししない事にしている。
「そういえば、霊王ルヴィランス様が、大層女王陛下にお会いしたいと仰っておりましたけれど…。」
ふと、気の済んだルカの話題が、ルカの住む精霊国の話題に移る。
精霊国の宰相がルカの夫である為、一応は霊王も多少敬っているのだろう。
「…まあ、ルヴィが?」
「はい。勿論、殿下や夫…いえ妾のシシェアもお待ちでいらっしゃいます。」
そう、本当は世界会議までは獣国で大人しくしようと思ったのだけれど。
精霊国にも最近行って居なかったし、1日位は顔を出した方が良いかしら?
そう思うと、夫の精霊王の顔が思い浮かぶ。ああ、子ども達にも会いたいわ…。
次いでに、ルカの夫でもあり、私の妾シシェアにも。
少しだけ、行ってみましょうか…。
「…そうね、今日の夕方頃早速行ってみるわ。一晩だけ泊まりに行きましょうか。」
「一晩だけ、でございますか?…承知致しました。」
女王の返事に僅かに戸惑いを見せるも、ルカは静かに頭を下げた。
そう、これがルカの良い所ね。無駄口を聞かないで意図を汲み取る有能さ。
勿論、仕えてくれる者ではスイキが一番だが、同性となるとルカの名が上がる事だろう。
「…それでは失礼致しましす。」
リーアとの会話を切り上げ、ルカは精霊国に戻っていく。直ぐに女王の帰国を精霊国に伝える為だ。
さーてと、私はリルトとちょっと遊んでから、精霊国に行きましょ。
でも、本当に久しぶりかも?普段は、魔国と獣国を行ったり来たり、一人で過ごしたりしているし。
精霊国と法国なんて、10年に一回行くか行かないか?だったわね~。
あら私って結構酷い…。
僅かの反省を胸にし、可愛い孫の元に向かう。
「…おばあさま!」
「こんにちは、リルト。」
リーアの姿に、慌てて衛兵が扉を開けてくれる。流石は獣人王の直系孫、護衛や侍女も多い。
センヤの特徴を受け継ぎ、獣人王と女王の名を戴くこの王子に、周囲の期待も大きい様だ。
女王の力も絶大で、リーアが孫と遊ぼうと軽く言った事が、このように簡単に叶えられる。
「おばあさま、ぼく…いっしょにエホンが、みたいです!」
あら、可愛い。
目を輝かせて児童書を胸に抱く姿は、庇護欲を多いに沸き上がらせた。
「ふふ、良いわ。では一緒にね?」
嬉しそうなリルトを膝に抱き上げ、ゆっくりとページを捲っていく。
うんうん、こういう老後も良いわねえ。不老不死とは言え、五千万年も生きてるのだもの…お役ごめんしたいわ。
のんびりと絵本を読み進め、次第にリルトが目を擦り欠伸を始める。
ああ、まだ3歳だったものね。
「そろそろ、終わりにしましょう?続きはまた明日ね。」
「…は、い。では、また…あした。」
うとうとと微睡みながらも返事をするリルトに少し笑い、後を侍女に任せて廻廊を歩き出す。
外を眺めると、少しずつ傾く夕日。
さてと、精霊国に向かいましょうね。
その一瞬で、目の合ったサヴェルに軽く手を振って微笑みを向けた。
「…丁度良かったわ。サヴェル、精霊国に一晩行ってくるから、イシュに言って置いてね?」
という拷問の様な事付けをして、リーアの姿は薄くなる。
消える瞬間、サヴェルの悲痛な叫びが木霊したそうである。
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