一家団欒?
お待たせ致しました。
左大臣シュイ。
右大臣センヤ。
内大臣サヴェル。
そして、獣人王イシュヴァルト。
豪華な食卓を囲むのは、この中枢を担う面々。
城の者が見れば、泣く暇なく逃げ出す顔触れである。
しかし普段は全員が揃う事は滅多に無い。
というもの、シュイとサヴェルは養子であるし、唯一実子のセンヤすら父である王へ、気安く近付きづらいのだ。
この日は、リーアの来訪により昼に集合したが、三人は奇妙に黙りこんでいる。
その時、豪華な扉が静かに開かれた。
「失礼致します。右大臣殿のご子息をお連れしました。」
「…ああ、感謝する。騎士団長。」
扉を開いたスイキにセンヤは軽く会釈するが、それに僅かに瞳を細めるイシュヴァルト。
センヤ達は下がる室温に居心地悪そうだが、スイキ本人は顔色一つ変えずリーアへ視線を向ける。
「…我が君、お部屋を整えて置きましたので、いつでもご使用頂いて大丈夫でございます。」
「あら悪いわね?態々ありがとう。」
「いえ、我が君の御為ですから。」
そう?と小首を傾げる女性に、スイキはいとおしげに視線を送り甘い空気が漂う。
勿論、リーナの隣に座る獣人王の機嫌は絶賛急降下中であり、王の怒気に息子三人は呼吸すら出来んばかりである。
給仕のメイドと執事は、ただひたすら気配を消す事に努めていた。
「…それでは我が君、殿下方失礼致します。…あ。忘れておりました、陛下も。」
計算なのか天然なのか、スイキは頭を下げると獣人王に白々しい笑みを向ける。
パタン
イシュヴァルトはその白い髪…鬣を逆立たせ、気迫はその辺の獣人なら一睨みで消し炭となるだろう。
あまりの息苦しさに、サヴェルなどは先程から一㎜も動かない。
そんな空気を変えたのは、全く気にせずグラスを傾ける女王リーア。
「…それで?その子がセンヤの子なのかしら?」
リーアの一言にイシュヴァルトはみるみる怒りを鎮め、扉の前でちょこんと待つ子どもへ目を向ける。
はい、とセンヤが手招きし慌てて駆け寄って来る。
…かわいい。
センヤの紹介を聞きながら子どもを見つめた。
3歳だという少年は、センヤと同じく赤毛で赤い獣耳を揺らす。大きな黒目がちの瞳は、リーアを不安そうに伺っている。
ふふ…一番下の孫が出来たわ。
「…貴方のお名前は?」
優しい微笑を送ると、忙しなく耳が揺れてセンヤに促され、そうっとリーアに近づく。
「リルトです…あの、おばあさまと、おじいさまの、おなまえをいただいて。」
辿々しい口調に思わず笑い、イシュヴァルトに横目で視線を向け、笑みを交わす。
イシュヴァルトのルトに、リーアのリって事ね?
獣人族は物心ついてから名をつけるから…。
この子はイシュの面差しを受け継いでるから、あえて私達の名を与えたのね。
少し考え、リルト本人より緊張気味なセンヤを見てから、リルトを抱き上げた。
「…それでは、偉大なる獣人王イシュヴァルトの名を貰った名に恥じない生き方をしなさい。」
「……はい!」
素直でよろしい。
思わず微笑み、自身の手首に着けたブレスレットを一つ外し、手に持たせる。
「…私からは、祝福を。誇りを持って生きなさい。いずれ獣人国を導けるように。」
幼い瞳にリーアはどう映ったのか。
リルトは目を輝かせ、ブレスレットを握り頷く。
リーアから離れると、乳母に連れられ部屋を去るのであった。
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