五千万年前*episordⅠ
ユリアの女王になるまでの話しです。
ストーリーの中に時たま放り込む予定です。
五千万年前、18歳の娘だった私は突然この世界へ連れて来られた。
前の世界ではそれなりに立場があり、婚約者も居た私は初めは嘆き泣き続けた。
飽きる程に泣いた時、神だと名乗る女性が目の前に現れたのだ。
『世界を整えて欲しい』
様々な人種、種族の入り乱れる世界…私が初めに持った感想として、気持ちが悪いだった。
世界の規範も無く、取り纏める存在も居ない世界。
比率的に、雄の数が多いらしく女性は大切に扱われるらしい。
その為、今より少し前に私と同じ年頃の娘を連れて来たが、酷かった様だ。
自尊心の高いその娘は、自分の好みの男を集め飽きれば捨て、数少ない女を殺す様に命じ更に世界を混乱させた。
神は心を痛め、娘を元の世界に戻したが遅すぎた。
女の激減した世界、空気は荒み、人々の心は淀み切ってしまっていた。
神は僅かに時を早め、娘に侵された世代が居なくなるのを待っていた。
そして時が経ち、平和な異界を選び良識のある娘を選んだ。
神は目の前に立ち竦む娘を見つめる。
『…木崎 ユリア。せめてもの私からの手助けに、高位魔力、年齢操作、法力…他にも精霊達からの祝福を授けました。…どうか、世界を整えて貰えませんか?』
嫌だ…
やりたくない…
ユリアの瞳から涙が溢れる。
自分を真っ直ぐに射ぬく視線に体が震える。
「…わかり、まし…た。」
神が消え、与えられた城と呼べる邸内の室内で呆然とした。
鏡に映る見知らぬ美少女。
顔すらも変えられたのか。
涙を拭い、城から出て行く。
神から御触れでもあったのか、異界からの女を探し走り回る人々。
外套を頭から被ったユリアは、街中を抜けて道なき道を歩く。
ふと、ぼろぼろの衣を身に付けた小男と目が合う
。
驚愕に見開く目に気付くと同時に、その醜い口を開く。
わめきたてながら、ユリアの腕を掴む男。
恐怖に怯えるユリアは抵抗出来ず固まるが、男はこう言っていたように思う。
『これはこれは異界からの姫様、どうか私と来てくださいませ。あなた様の良いように致します。』
私を見つけたら金でも手にはいるのか?
興奮する男に怯えている間に、周りに人が集まって来る。
自分と供に来いと騒ぐ人々に、ユリアは顔を青ざめ震えるしか出来ない。
裏のある笑みに、ユリアが込み上げるものに耐えている時、人混みが突如割れた。
馬に乗った人物は、ユリアを抱き上げ馬に飛び乗ると走り去った。
周囲の騒ぎを気にも止めない様子にユリアも思考も吹っ飛び、相手の顔をまじまじと見上げる。
二十代初め頃の精悍な顔立ちの青年、灰色の髪を持ち、それ以上に目を引くのは獣の様な尖った耳。
人気の無い森に入り、馬を止めた青年はユリアを下ろした。
戸惑うユリアを余所に、青年は近くの木に寄り掛かり口を開く。
「…俺は獣人のスイキと言う。君は?」
じゅうじん?
「…どうして、助けてくれたの?」
ユリアの戸惑う視線に、何故かスイキの表情は不思議そうに目を細めた。
「か弱い女人が危険に会っていたら、放って置けないだろう。」
当然だと言わんばかりの相手に、ユリアは全身の力が抜けていた。
もしかして、異界からの女の話しを知らない?
神がどういう風に人々に伝えたか知らないが、この青年の耳には入っていないようだ。
安堵し、ゆっくり外套を下ろす。
目が合うと、何故か固まる青年。
「私の名前は、ユリア。さっきはありがとう。」
笑みを向ければ、スイキの頬に赤みが差す。
「…あ、いや。ええと、ヤーリアか?」
ん?
「いえ、ユリアよ?」
「……ユリーア?」
青年の伺う様な表情に、ユリアは頭を振る。
もしかして、発音しにくい名前なのかしら。
「ユ」
「ユ?」
「リ」
「リ…」
「ア」
「ア。」
思わず笑ってしまうユリアだが、相手の表情は至って真剣である。
「ユリア…?」
「ええ。」
ニコッと微笑めば、嬉しげに笑むスイキ。
真っ直ぐな彼の雰囲気に、ユリアの心は不思議と落ち着けていた。
この際、自分の美しく変わった容姿を利用してしまおう。
心を整え、スイキに近付き相手を見上げじっと見つめる。
「お願い…私を手伝って…守って…。」
ユリアの言葉にスイキの瞳が瞬く。
まだ…駄目かしら。
相手の胸元に体を寄せ、手を取り指を絡める。
「お願い…貴方しか居ないの。」
弱々しく囁けば、背に回される腕。
「俺などで、良ければ…。」
力強く抱き締められ、ユリアの口元は知らず綻んだのだった。
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