白き獅子王
…ん、何か眠くなってきたな~。
意識の遠のいて来たリーアは、シュイに断り部屋を出て行く。
ねむい…あ~…スイキに言って無い、けど良いか。
大きな欠伸をしながら伸びをし、人の少ない回廊を歩く。
何故少ないのか?
理由は簡単。
此処は王の自室への道だからだ。
勿論、各城にはリーアの部屋は常時使える様になっているが、眠いリーアには近い王の自室の方が良く思えた。
転移魔術も面倒臭いし、使うのすらダルい。
護衛兵に慌てて礼をされ、最も豪奢な扉に辿り着く。
…久しぶりね。
扉を躊躇い無く開け、奥にあるフカフカのベッドにダイブした。
《アンタの物にしてくれ》
このベッドの持ち主を思う。
スイキとの関係を知っても、それでも私に思いを伝えて来た彼。
結果的に世界の為、王であった彼を選んだ私の本心を、彼は気づいていたらしい。
だからこそ、スイキとの逢瀬は邪魔された事は無いし、権力でスイキの地位を低くしたりもしない。
まあ、常に視線は恐いけど。
スイキの方が年上だから見事に流してるらしい。
寝台に横になったまま、窓の外を見つめる。
星、綺麗だな~。
精霊の国の星空には負けるが、空気の澄んだ獣人国も中々である。
暫く眺め、意識が遠のいて来た頃、扉の開く音が耳に入った。
…ん~?
ぼうっとする頭のまま薄目だけ開けるが、眠さに直ぐに閉じてしまう。
ギシリと寝台に体重を掛ける音が響く。
「…リーア、寝てるのか?」
低い艶のある声音に目を閉じたまま、回らない口を動かす。
駄目…限界…。
「イ…シュ…ごめ、ねむ…」
もぞもぞと布団に潜ると、相手も中に入りリーアをその腕に抱き込む。
暖かい…。
「…お休み、俺の妃。」
いとおしげに頬を撫でた優しい手付きに、次第にリーアの寝息が響く。
暫く後、それに倣う様な寝息も重なったのだ。
窓から射し込む光に、リーアはふと目が覚めた。
…………朝?
えーっと、昨日は…。
自分を包む暖かな感触にそっと目線を移してみる。
目を閉じて静かに寝息を立てる雪の様に白い髪に褐色の肌、男らしい体格の美丈夫。
外見のみを見れば、三十手前程に見える。
すっかり熟睡している相手を見つめ、試しに頬を突っつくが全く起きる様子は見えない。
…スッゴいぐっすりね?
なんだか面白いな~。
内心面白がっている時、部屋の扉がゆっくり押し開けられた。
「…失礼致します。陛下にお話しが…」
その人物はリーアと目が合い、状況を瞬時に察し直ぐに冷静に頭を下げた。
「…また、後で参ります。」
それだけ…?!
何てつまらない反応なの!
「全く…もっと捻れば良いのに。」
「…いけませんでしょうか?」
不満そうに目を細めたリーアに、あくまで相手の表情に変化は見られない。
しかし、生まれた時から知るリーアには僅かに動揺を感じ取れたのだ。
「右大臣センヤ。…少しシュイを見習ってみたら?」
業と相手の自尊心を刺激する名を出せば、みるみる顔が朱に変わり、眉間に力が籠る。
「私は…シュイ殿とは違います!」
荒げられた声に、リーアの上から唸る声が洩れた。
「…グルル…喧しい。出ていけ。」
不機嫌な雰囲気を察し、センヤは直ぐに姿勢を正し出て行く。
「…ったく…喧しい奴だ。」
欠伸混じりに上体を起こし、気だるげに頭を掻く相手に、リーアも体を起こす。
「仕方ないわ、イシュ。…何故かセンヤって、シュイだけには対抗意識燃やしてるし?」
「…理由は単純だがな。」
「え?そうなの?」
不思議そうに夫を見上げれば、何故か苦笑を返される。
「アイツは、アンタの一番に成りたいんだろうさ。」
一番に…?
どういう意味?
「一番って…子どもに一番も二番も無いけど。」
珠維は、養子だけど1番目の子ども。
茜也は、イシュとの最初の子ども。
リーアが思案し自分の膝を抱く様に座ると、背中を包む体温。
獣人って、人より体温高いものね。
私(女王)の現れた五千万年前より獣人を束ねる獰猛な獣人王イシュヴァルト。
「…イシュ。」
「何だ?」
彼の鬣から覗く獣耳がピョコリと反応する。
「私の事、好き?」
リーアは、時たまこの平凡な問いかけを夫達に投げていた。
きっと否定を返された時、やっとリーアの役目も終わるのだろうけれど。
「ああ、アンタがいとおしくて…おかしくなりそうな位にな。」
…まだまだお役御免には遠いのね。
「嬉しいわ…旦那様。」
柔らかく微笑むと、蕩けんばかりの視線を返され口付けられるのだった。
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