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*女王様の非日常*   作者: 由紀
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精霊国の夜

精霊王とのデートを楽しんだその後、精霊国玉座の間にて、臣下達を震撼させる出来事が起こった。


玉座の間には、床に正座させられる精霊国第一王子レギュランスの姿が。


古参の臣下は無表情を貫いているが、新参の者は顔色を失い玉座の間から立ち去っていた。


「…城下での人間のみの売買を禁じたのは、貴方ですね?」


「…………はい、母上。」


小さく縮こまる姿に、側に控える宰相シシェアと神子ルカは目を逸らす。


普段のレギュランスは冷淡で、他者に厳しい性格だ。外見は精霊王に似通った面差しをしており、余計に臣下へ畏れを抱かせている。


「なぜ私が怒っているか分かっていますか?」


女王リーアの敢えての敬語に更にレギュランスは目を伏せた。

返答もリーアに聞こえる程度の物だ。


「独断で、施行したからでしょうか。」


「…いいえ。」


おずおずと自分を伺う可愛い息子に、一度息を吐いてからその場にしゃがみ、視線を合わせる。

長く生きているとは言え、何歳になっても子どもは子ども。


「では無くて、人間のみの売買を禁じた事よ。 確かに私は、精霊を大事にしろとは言ったわね?」


「はい…。」


少し口調を柔らかくすると、レギュランスは普段の雰囲気を取り戻せた。

レギーとは、幼い頃あまり一緒に居てあげなかったから…良くなかったかな。


「精霊達を優位にするのは悪くない、でも…人間を区別するのは違う。」


「…そうなの、ですか?」


「ええ。ルール…決まりで縛っては、それは暴力と一緒なの。それこそ、昔人間が精霊に行った事と同じになる。」


その言葉にレギュランスは目に見えてショックを受ける。精霊…ホビットや亜人の迫害を学んでいるからだろう。


「母上、私は…。」


「…大丈夫よ。」


「…っ!」


そっと、レギュランスの頭を撫でてやる。

精霊王の第一王子という事で、気を張っているのね。


「精霊達自体が、人間に尊敬される様になっていけば良い。…貴方なら出来るわ。」


「母上…ありがとうございます。」


深々と頭を下げた精霊国の息子を見つめ、リーアは1つ考える。


一人だから、駄目なんだよね。支えてくれる者が居ないと。


よし…。


「決めたわ、レギー。」


「?はい、何をですか?」


にっこりと美しい笑みを浮かべる母に、レギュランスは長年の経験で不安を感じた。


うん、決ーめた!


「貴方、結婚なさい。」


リーアの言葉に、控えていた臣下達もどよめく。

勿論一番驚愕しているのは、レギュランス本人である。


「…いえ、あの、ですが…。」


「あら?何年生きてると思っているの。別に側室でも構わないわ。貴方も政務を継いだのだから、心を支える相手が必要だと思うの。」


いづれの世でも、息子は母親に勝てない。例え、王子であろうとも。


結婚…と、レギュランスは力無く呟く。


「ええ。とりあえずは、私も良い女性を探してみるわね。ああ、勿論貴方が良い方を見つけるのが一番だけど。」


時間も遅くなっていたので、臣下達に解散を命じ、レギュランスにはルカを付き添わせる。


人少なとなった玉座の間で、後片付けをするその人物をじろりと横目に見て「全く」と呟く。


「シシェア、どうしてこんな馬鹿な政策を見過ごしたのかしら?貴方にはレギーの教育係を頼んでいたのに。」


呼ばれた宰相のシシェアは、ハーフエルフらしく長い耳を揺らし、僅かに眉を寄せて頭を下げる。

シシェアは言葉を話せない。遥か昔にルヴィランスを庇った折に喉を潰されたのだ。相手が人間だった為、誰よりも人間を嫌っている。


視線を外し、冷静を保つ様に見えるシシェアだが、リーアの読心魔術で心はさらけ出されてしまう。


〈…私だとて一度止めました。しかし、一度決めた事は意地でも曲げない王子に仰っても、無駄だと思い…。やはり精霊王の血を引かれているからでしょうか。〉


相変わらずよく喋るわ。いや、よく思うわ。


「と言うか、それって責任転嫁じゃないの?」


むうっと唇を尖らせるリーアに、シシェアは一筋額から汗を流し首を横に振る。


〈いいえ、そんな事は。ただ、精霊王の立場を継いだ王子の初めての政策を潰すのも、野暮かと思いまして。何事も経験と申しますし。〉


「違うでしょう?然り気無くフォローするのが、宰相の貴方の役割なのだから。」


きゅっと唇を閉じたシシェアの顔には後悔がありありと浮かんでいる。


…はあ。

もう終わった事だから、仕方無いかもしれないか。


「シシェア…。」


〈…………リーア様?〉


彼の手を取り、両手で包む。


「…貴方だけ。」


〈リーア様…私は…〉


エルフの血を感じる美しい姿を目にし、優しく笑みを作る。


「精霊国始まりから国を護ってくれた貴方だけよ。…もう少しだけ、支えてあげて。」


何を、とは言わない。聡明なシシェアなら理解出来ただろう。


深く頷くシシェアは、その腕にリーアを捉えた。細身の外見に似合わず、強く抱き締めた。


〈少しだけ…こうさせて下さい。私の想いは、夫方にも劣らないとお忘れになりませんよう。〉


「…ええ。シシェア。」


暫く穏やかな優しい静寂に身を寄せる。初めは、各国に愛する者を持つ事に違和感を持っていたが、今はその時の目の前の人を愛そうと決めたのだ。


嫌な女かな?

誰にも聞けないけど。





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