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足して2で割る。  作者: ディライト
朔美と一馬
8/23

(律儀+理解)÷2=感謝

 廊下には誰もいなかった。本来は授業中だから当たり前だ。

 なんとなく左右を確認してから、一馬は昇降口の方へと足を向けた。

 他の教室内から漏れ出る先生の授業の声に耳を傾けながら、静かな廊下を心なしかゆっくりと歩を進める。

 アシストはした。あとはシュートを打つ者がどうゴールを決めるかである。

 あのように言えば、一馬は朔美も同じように抜け出してくるだろうと踏んでいた。

 まるで休み時間のような雰囲気だったが、腐っても授業中である。流石に教室外にまで出る図々しい生徒はこの学校にはいない。しかし集団とは不思議なもので、例え絶対的進入禁止区域だろうと、一人でも足を踏み入れたならばそこは突如としてフリースペースと化す。

 だから一馬は朔美の耳に届く形で、教室にいなければならないというタガを外してやり、自習を昼休みという形に置き換えたのだ。優等生でもある朔美が真っ先に自習中の教室を抜け出すのは難しいものだったに違いない。だったらと一馬は嫌な役回りを演じたのだった。

 廊下を抜けて階段に差し掛かる前に、自分の教室の方をへと振り向く。

 案の定、二年二組の教室からはちらほらとクラスメートが抜け出してきた。

 その様子に一息吐きつつ、らしくないなどと自分の性分に疑念を抱きながら一馬は駐輪場へと向かった。


 当然のことながら校庭にも中庭にも駐輪場にも生徒の姿は見えない。聞こえるのは様々なせみの音楽隊の演奏だけ。じりじりと照り付ける太陽を避けるように、一馬は駐輪場の屋根の下で自分のマウンテンバイクに跨がっていた。

 ここに着いてから五分くらい経っただろうか。

 一馬は校庭の方からすごい勢いで走ってくる女子生徒の姿を捉えた。

「……っはぁ……っはぁ……!」

 自転車に跨がったままの一馬の前に踊り出て、膝に手をつきながら息を荒げているのは勿論朔美だった。

「この暑い中そんな走って……日射病になるぞー」

「……あんたに……言われたく……ないっ……!」

 朔美は咽返りそうになりながら、自分の自転車を引っ張り出す。

「…………待っててくれたんだ」

「気乗りはしないが約束は約束だからな」

「相変わらず正直なことで」

 悪態をつきながら一馬の横に自転車を並べると、朔美は横目で窺うように覗き込んだ。

「…………なんで、あんなこと言ったの?」

「おまえが目に見えて辛そうって顔してたからだろ」

「えー。してないし。ていうかなんで見てんの」

「俺ほど教室内の情勢に眼を向けているやつはいないからな。まぁ以前の俺じゃわからない程度だったけど」

 今だに水野朔美をクラスのアイドルとして認識していたならばわからなかった機微だ。きっと皆あの邪気のかけらもない笑顔にほだされているに違いない。でもそれは、裏を返せば本当の朔美に眼を向けていないことにもなる。結局誰しも自然と目立つものに引き寄せられるのだ。そんな彼ら彼女らにとってはキュービック・ジルコニアだろうが一向に構わない。見た目がダイヤモンドに見えるならば。

 一馬のその言葉に、朔美はふて腐れるように頬を膨らませた。

「その言い方だと今はわたしのすべてを理解してるって聞こえるけど」

「五パーセントも理解してないよ。でも残念なことに知ってしまった部分があるのも事実だ」

「残念は余計だなー」

 朔美は一馬を睨んで口を尖らせる。

 しかし指を下腹部の辺りで絡ませながら「でも……、」と零して、

「ありがと……。すごく助かった」

 と顔を赤らめながら上目遣いでそう言った。

「お、俺はただ教室を出てきただけだ」

 その悩ましい笑顔に当てられて、一馬は少し気恥ずかしそうにそっぽを向いた。

「へへ、そういうことにしとく!」

 お互いに頬の辺りが暑く感じるのは直射日光のせいでないのはわかっていることだろうが、それに突っ込めるほど野暮でもないし親密でもない。

「……まぁいいよ。それよりどうすんだ? 五限開始まで一時間半くらいあるけど」

 気を取り直して一馬が腕時計に眼をやりながら言う。

「ホントに!? じゃあさじゃあさっ、前から実行したくてもできなかった三ツ星イベントがあるんだけど!」

「なんだそりゃ」

 一気にテンションが上がった朔美にげんなりした表情で返す一馬。

 三ツ星なんてレストラン寸評雑誌じゃあるまいしと一馬は思った。

 そんなことも露知らず、朔美は呑気に胸元で拳を携えながらやる気に満ちている。

「そうと決まれば、いざ行かーん! 栗原しっかり着いてきてよ!」

「俺の所見じゃまだ何も決まってねーぞ!?」

 一馬は訳のわからないまま、立ち漕ぎで走り出しスカートをはためかせる朔美の背中を追った。そんなことを叫んだところで朔美のペダルを漕ぐ足は止まらないのはわかっていたのだけれど。

 二台の自転車を縦一列で走らせて例の如く繁華街方面へ。

 自転車に乗っている時は心地良い風が肌を撫でるが、着いた後に大量の汗が吹き出してくるため、一馬はあまり飛ばしたくないと思っていたが、朔美の足の回転は止まらない。ギアなしの自転車とは思えない速さに思わず脱帽する。本当に日射病にならないか心配だ。

 朔美の自宅である『きそば きっぺい』も通りすぎて、そこからもう二分程度走らせたところで、朔美は自転車を降りた。

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