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足して2で割る。  作者: ディライト
朔美と一馬
5/23

(白旗+歩み寄り)÷2=交代

 一馬はひらひらと両手を掲げてそう答えた。

「まるで俺がお前に尾行されてたみたいだな」

「それはご想像にお任せします」

「ちょっと怖いなそれ」

 二人に再び笑顔が零れる。そんな笑い声もすぐに止んで、朔美は喉の調子を整えるためにひとつ咳払いをしてから口を開いた。

「わたしもおんなじ。へらへら笑って、聞きたくも無い恋バナに相槌打って、興味のないファンションやアイドルの話にのっかって、分け隔てなく平等に、みんなにとっての良いクラスメートを演じてるだけ。あんたはいつも先に帰っちゃって知らないと思うけど、わたしも放課後はいつも一人なんだよ?」

 その言葉に一馬は驚きを隠せない。放課後も友人達とデパートやカラオケなどに繰り出しているものだとばかり思っていたからだ。

 目を丸くする一馬に、朔美はくすっと喉を鳴らせて話を続ける。

「でもそんな解放された時間が大好きでね。帰りもこのお昼休みみたいに、いろいろなとこで寄り道したりしてるんだよ。……そうやって、わたしは一人の時間を確保してきた。誰にも邪魔されない自由な時間。昼休みだってその成果だよ。大抵の人たちは本当に仲の良い人のところへ行くでしょう? だから抜け出せる。十分の小休憩じゃそうもいかないからね」

 授業と授業の合間の小休憩ほど厄介なものも無い。『クラスメート』は暇つぶしにはもってこいなのだ。

「あの群れる空気が昔から大嫌い。自分がホントにやりたいことも出来ない場なんて、宇宙空間に生身の身体で出るようなものだもん」

「俺も同じだよ。あの場では流れに身を任せるしかない。逆らったら激流に巻き込まれるだけだもんな」

 だから二人は合わせるのだ。少しでも住みやすい場所を確保するために。

「やーっとわかってくれた? わたしたちが似てるって」

 朔美は喋り疲れたように一つ息をつくと、朔美は期待するように一馬を見つめながら、正座していた足を崩した。

「そうだな。確かに似てるといえば似てるかもなぁ」

「でしょー? はぁ、なんだかすっきりしたよ。ずっとあんたにこのこと言ってみたいって思ってたから」

「そりゃ光栄だね」

 一馬も大きく伸びをする。店内の快適な涼しさのお陰か、気づけば倦怠感は大分収まっていた。

 話が途切れてしまったからか、朔美は間をもたせるためか内側に巻かれた艶の良い毛先を弄りだす。

 それを見て、一馬もなんとなく指の間で襟足を撫でた。

 いつもなら食後の眠気と戦いながら授業を聞いている頃だろう。

 しかしかつてない状況に二人はどこか戸惑いを感じていた。

 今までは決して誰にも関わらせようとしなかったプライベートのような昼休みに第三者と過ごしていることは、二人に何かしらの心境の変化を起こしているのかもしれない。

「もう、尾行しないの?」

 朔美は無言に耐え切れず窺うように聞いた。

「しないだろうな。もうする意味もないだろ」

 バレていたという事実は知ってしまったし、それでも尚続けられるほどふてぶてしい性格はしていない。ここらが潮時だろうと一馬は思った。

 そんな突き放すような言葉を聞き、どこか残念そうな表情を浮かべた朔美は、少し考える素振りを見せた後、口を開いた。

「じゃあわたしがあんたを尾行する」

「ふーん、そっか。…………ってはぁ!?」

 一馬は胡乱に肯定しかけてから素っ頓狂な声をあげた。

「今度はわたしがあんた流の昼休みの過ごし方を見せてもらうわね」

「ちょっと待て。何故そうなる」

「外に行くのは絶対だよ」

「だから何故そうなる」

「逃げられるものなら逃げてもいいし?」

「話を聞いてくださいませんか?」

 一馬は思わず頭を抱えた。

 尾行していても感じていたことであるがが、朔美はとにかく一度決めたことはどんなことがあってもやり遂げる性格らしかった。

 以前二度程酷い雨風の日があったが、それでも外へ出て自転車に跨がる朔美を見た時は流石に脱帽した。

 一度目はよくやるものだと感心しながら紙パックのストローをくわえながら教室の窓から眺めていたが、二度目の豪雨には一体何をする必要があるのかと気になってしまい、傘がおちょこになりながらも自転車で付いていった。ちなみに朔美はカッパ持参である。

 そこまで完全防備用意周到で行き着いた先は、和菓子屋だった。

 しかも朔美はなんとお饅頭を一個買いに訪れただけであったのだ。

 どうやら無性にお饅頭が食べたくなったらしい。

 すぐに食べられるように店内に設置された椅子に座って、美味しそうにお饅頭を頬張る朔美を見ていたら、思わず一馬も食べたくなってしまい、朔美が帰った後に慌ててお饅頭を買ったのは秘密だ。

 要するに、朔美はどんな状況下でも一度心に決めたことはやり遂げる性格なのだ。

 といってもこれは一馬の推察である。

「いいじゃん、減るもんじゃないし」

「俺の神経が磨り減ります」

 至福のひと時を誰かに監視されるなんて溜まったもんじゃない。と一馬は切に叫ぼうとしたが思い留めた。

「……ま、俺も同じことしてたしな」

「えへへっ、そういうことー」

 頭を掻きながら申し訳なさそうに言った一馬に、朔美はにこりとチャーミングな八重歯を覗かせた。

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