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足して2で割る。  作者: ディライト
朔美と一馬
4/23

(級友+柵)÷2=保身

 一馬は思わず眉間に梅干しを作った。一体どこをどう見れば自分と朔美が似ているのだろうと思わず真剣に思考を巡らせてみた。しかし一馬の頭の中の検索結果では該当箇所は見つかりませんと表示された。

「何言ってんの、全然似てないだろ」

「似てるよー。そっくりじゃんわたし達」

「いーや、似てないね。まず男と女ってとこで大幅に違う」

「そんな生物学的観点から見られても……」

 一馬の屁理屈に朔美は口を尖らせる。

「じゃあ何処が似てんだよ」

 一馬の疑問は最もだ。性別はさることながら、外見だって当然似ていない。性格だって正反対だろう。片やクラスの人気者、片や地味なクラスメートだ。一馬から見れば完全な対極に位置する相手だ。

「んーと、クラスメートなところ」

 あまりに意外な答えに、一馬は眼が点になった。すぐさま一馬は反論する。

「その考え方だと二年二組の生徒全員と似てることになるな。ついでに言うと、来年の四月からは似てるやつが変わってくる」

「ごめん、言い方が悪かったよ。わたしが言いたいのは、わたしとあんたは優秀なクラスメートだってこと」

「その表現もよくわからないな。俺は頭も運動神経もよくない」

「そういう優秀じゃないよ。あくまでクラスメートとしてってこと」

「……? ますますわからん」

 一馬は首を傾げた。朔美の言っていることはかなりアバウトな内容で理解に苦しむ。一馬が納得いっていないのを見て、朔美はうーんと唸ってからふと一馬の眼を真っ直ぐに見て、そして口を開いた。

「『クラスメート』ってさ、都合の良い言葉だと思わない?」

「え?」

 一馬の眼には、朔美の綺麗なアイラインが微かに歪んだように見えた。

「直訳すると?」

「……級友」

「よくできました」

 朔美はふっと頬を緩めて、ささやかな拍手を三回鳴らした。一馬は馬鹿にしてんのかと心の中で毒づいて苦い顔を向ける。

「ごめんごめん。でもさ、思わない? 勝手に居場所を振り分けられて、性格も考え方もまったく違う人たちと毎日一緒の行動を強制されて、やりたくもない行事に参加させられて、それでたった一年間一緒にお勉強するだけで、『級友』なんていって友達扱いだよ。それってなんだかおかしくない? って」

 朔美の意外な言い分に驚きつつ、一馬は心の中で同意した。なぜなら根本のところは朔美の考えと同じだからだったから。

 放り出された国の中にはルールというものが存在し、それを破れば生きにくい世界を自分で作ってしまうことになる。だから『クラスメート』という名の小市民を演じる。郷に入っては郷に従え。かといって馴れ合い、腰を据える気も毛頭ない。いつでもその国から出て行けるように、荷造りはとうに済ませてあるのだ。

 そして長旅の末にいつか再会した時、そんな奴もいたっけなと記憶の片隅でひっそりと体育座りをしているだけの存在でいい。深入りしすぎて自分の自由を奪われることは何より嫌いなことだから。

 ただ朔美の意見に賛同しながらも、一馬の疑念は尽きない。

「いつでも友達に囲まれてるおまえがそんな風に思ってるなんて思わなかったよ」

 毎日のように輝く笑顔を教室の中心で振りまき、それに感化されるように周りにもたくさんの花を咲き乱れさせている朔美。彼女がそんな考え方をしていると知ったら、きっと誰もが残念に思うことだろう。

 しかし朔美は、一馬のその言葉を受けて表情を曇らせ瞳を落とした。

「あんたならわかってると思ってたんだけどな……」

「え?」

 一馬には朔美の漏らしたその言葉の心理は計り知れなかった。

「さっき言ったじゃん。わたしとあんたは同じだって」

「ああ」

「あんたが良いクラスメートを演じてるのと同じで、わたしもまた良いクラスメートを演じてるだけなんだよ」

 朔美は静かにそう言った。いつもの天真爛漫な彼女なんて最初からいなかったかのように憂いを帯びた目を細めた。ただそれよりも、一馬はまるで覆面で隠していた正体を見破られた気分になった。

「私は知ってたよ。だってクラスじゃ唯一私に寄ってこないのは栗原、あんただけだもん。そりゃ気になるよ。特定の誰かと仲良くするでもなく、かといって一人で殻に閉じこもってるわけでもない。話しかけれられれば愛想良く受け応えするし、頼みごとされれば気持ちよく首を縦に振る。でも、そんな印象の良い生徒は放課後のチャイムが鳴ると自然とひとりで教室を後にする。まるでその日一日の出来事なんてなかったかのように。それはなぜ?」

 朔美の縋る様な問いかけに、一馬は心臓を突かれた想いだった。向けられる透き通るような黒い瞳に写る自分の姿が、まるで丸裸にされた自分が写っているように思えた。

「かといって私のこと避けてるんだとしたら、わざわざ尾行なんてしないはずだしね」

 座卓にひじを付けて朔美が乗り出してくると、微かに木が軋む音がした。

 これはもう言い逃れはできない。一馬はそう感じて、深く大きなため息を吐いた。

「――――わかった、降参だ。お前の言うとおりだよ」


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