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足して2で割る。  作者: ディライト
朔美と一馬
13/23

(疑惑+推理)÷2=的外れ

「……水野が元気な要因が何故俺だと決め付ける?」

 特にうろたえた様子もなく聞き返す一馬。だが内心では大勢の小さな自分が大慌てで会議を開き始めていた。

 朔美とはある意味の協定関係みたいなものを結んだ後も、なるべく普段通りに過ごしていたはずだった。未だに朔美とは教室の中では話していない。朔美自身も暗黙の了解であるように、教室の中では今まで通りの関係を保っていたのだ。ぼろは出していないはず。ならば良人は何故、自分と朔美に何らかの関係があると気づいたのだろう。

 はらはらと良人の返事を待つ一馬。その間がやけにゆっくりに感じられるのは、一馬の一定の距離感計画が頓挫しかねないピンチだからに外ならない。

 そんな一馬の心中も露知らず、良人は何でもないことのように口を開いた。

「え、だって付き合ってるんじゃないの?」

「待て、どこでどうなってその結論に至ったんだ」

 一馬がツッコミを入れると、いつの間にか職員トイレの前に到着していた。

 良人は「着いたね」と一言置いて、二回ノックしてから職員トイレに入っていった。一馬も慌てて後に続く。

 中は小用便器一つと個室が一つの狭い場所だ。ここなら他の生徒に話を聞かれる心配はない。好都合だと一馬は少し安堵した。しかしそれも気休めにしかならない。一難去ってまた一難だ。

「さっきの続きだけど、どうして俺と水野が付き合ってるとかいう話になるんだ?」

 重圧から早く解放されたくて、中断した答えを催促する。少しむきになってしまっているのが余計怪しく見えるだろうかと心配してしまう。

 良人は掃除用具入れからデッキブラシをとって一馬に渡すと、まるで犯人にたどり着いた名探偵のように人差し指をぴっと立てて語り出した。

「最初に気づいたのは、今日の四限に栗原くんが僕に話し掛けてきたときだよ」

 一馬は眉間にしわを寄せた。良人は続ける。

「栗原くんが話し掛けてくるなんて思いも拠らなかったから、一体何事なのかと気になって、僕は栗原くんが教室から出ていくまで眼で追っていたんだ」

「……それで?」

「そうしたら、水野さんと栗原くんがアイコンタクトをしたのを見ちゃったんだ」

「ちょっと待て」

 一馬は目の前に出された良人の人差し指を下に降ろして、大きく息を吐いた。

「あのなぁ、ちょっと眼があったくらいで付き合ってるなんて言ったら、クラスの連中デキまくりじゃんか。それに水野とはクラスで話したこともないし」

 嘘は言っていない。実際クラスにいる時は会話など交わさないのだから。しかし良人は譲らない。

「そこだよ」

 良人は無理矢理下ろされた人差し指をもう一度掲げる。

「そこってどこだよ?」

「クラスじゃ話さないってとこだよ。本当に話さない人ならわざわざそんなこと言うかな?」

 なかなか鋭いと一馬は驚いた。いつも本ばかり読んでいるものだとばかり思っていたが、自分と同様にクラスの様子を眺めているのかもしれない。

「……じゃあ仮に他で話しているとしたって、俺と水野が付き合ってるって言うには証拠が不十分なんじゃないか?」

 本当のところ、一馬と朔美は交際などしていないわけだが、一馬は良人の推理に少し付き合ってみることにした。良人が自分をどう説き伏せてくるのか興味が湧いたからだ。他人の行動に琴線が触れるなんて我ながら珍しいこともあるもんだと驚きを隠せない。良人もどこか変わった奴だからだろうか。類は友を呼ぶという言葉もあるしと一馬は思った。

「ここまでじゃ推測の域は出なかった。そこで六限の授業中だよ」

「六限?」

 予想外の返答に思わずオウム返しで聞き返してしまう。

「栗原くん、途中で身を乗り出して水野さんのこと見てたでしょ?」

「は、はぁ!? み、見てねーし!」

 事実であるから、これには一馬も恥ずかしさのあまり声を荒げるしかない。

「見てたよ。だって僕も栗原くんのこと見てたから」

「……いや、俺そっちの気はないから」

「な、何言ってんの、ち、違うよ。それに見てたのは栗原くんのことだけじゃないから」

 ぴくりと一馬の肩が動く。それを誤魔化すようにデッキブラシで床を擦りはじめる。

「栗原くんはすぐに黒板の方に眼を戻したから気づいていないと思うけど、そのすぐ後で今度は水野さんが同じように栗原くんのこと見てたんだよ! これはもう間違いないと思ってね」

 興奮したように話す良人を見て、一馬は頭痛を覚えた。

 なんて不用意なことをしてしまったのだろう、自分も朔美も。今までこれだけ上手く立ち回ってきたというのに、一度のミスで自分達のテリトリーが崩されようとしている。クラスの人気者の朔美と目立たない一馬が付き合っているなどという噂が流れれば、たちまちそれは学校中を無数に散らばっていき、平穏な毎日は脆くも崩れ去ってしまうことだろう。

 ならばここは譲れない。

「じゃあ百歩譲って見てたとしても、それだけで付き合ってるって結論になるのはちと飛躍しすぎじゃないか?」

 一馬は平静を装って言い返す。

 すると嬉々とした表情で良人が叫んだ。

「小説であったんだよ! 会社の同僚が隠れて交際するって話で、眼と眼が合うだけで心が通じ合えるって! いいよねそういうの!」

 一馬は思わずずっこけそうな程に脱力した。

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