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「すまんっ、ユカナ君」


 先生は今日臨時会議があるとかで、本日のお仕事は終わりとなった。

 翻訳の仕事はようやく先日終わったし、優姉のおかげもあってシュリへの返済は完了した。まだいてと頭をさげて頼まれているので、仕方なく助手をしてる。てなわけで先生がいなけりゃ仕事はないので終了終了っと。


 家に帰ると気配で2人ともいるのを察知。そういやシュリも休みだっけ。お、そうだ。そっと入って驚かしてやれ。


 私は2人の退屈な日常に素敵なイベントを挟んであげるため、そっと魔法を駆使して家の中に入る。

 二人は居間で何やら話しているらしい。


「謝らないで。最初からわかってたんだから、私が悪い。ユウコは今まで通り、そのままでいてくれたらいいよ」


 えっ、あれ? な、なんか、シリアスシーン? 雰囲気が暗いような。変なときに帰ってきちゃった?


「でも、うーん、シューちゃんの気持ちもわかるけど、罪悪感が……うーん」


 これは、もっかいこっそり出て行くしかないかな? でも大事な話ならいっそ加えてもらった方がいいかな。


「……ねぇ、ユウコ、あの、さ」

「うん? なに?」


 考えてる間にも、二人の会話は進んでいく。こうなったら突入しよう。よし、きりがよくなったら、あえてドアの音を大きくたてて帰るぞ。


「悪いと思ってるなら、もちろん、そんなこと全然気にする必要はないけど、でもユウコがそれを気に病むと言うなら……キスをしてほしい」

「えっ」


 えっ。

 図らずも優姉と心の声が重なる。え? なに、キスって。は? 意味不明。


「この街にきて時間がたったと感じるなら、それと同じだけ、私たちは恋人だったわけだし、その……つまり、キスが、したいです。というか、うん、えっと……ずるくて、ごめん」


 こ、こここ恋人!? は!? 優姉とシュリが!? は!?

 え? なに? え? 私の知らない間に二人つき合ってたの? しかもこの街にきてからって、長くない!?

 き、気づかなかった。ていうか、2人女同士じゃん! キスとか恋人とかなに言ってんの?

 ………いや、いや、別に、だから気持ち悪いとか、そういうのは感じない。感じないけど、なんか嫌だ。優姉、シュリと恋人とか、嫌だ。

 ていうかそもそも、なに私の許可なく勝手に恋人つくってるの? 優姉は私の優姉なのに。


「……わかったわ」


 私の混乱をよそに、どんどん展開が進んでいく。

 え、ちょっ、ほんとにキスするの? ほんとに恋人なの? 私聞いてないよ!?


「シューちゃん、いい?」

「う、うん。いつでも、いい、よ?」


 よくない。全然よくないよ。二人の動く気配に、私はそっと居間を覗き込む。

 シュリと優姉が近くて、私の位置からは優姉の後頭部で隠れてシュリとの距離が見えない。

 でも優姉の頭がゆっくり動いていく。


「シューちゃん」


あ、あ、そんな、だ、駄目ーー!!


「たっだいまー」


 私はたまらず、用意していたままに突入した。ことさら大きく音をたてて、足音をたてて、挨拶から二秒ほどたってから居間へ突入。


「おっ、おかえりー!!」


 優姉はめちゃくちゃ不自然に棒立ちしていて、声もおかしいし、私がほんとに何も知らずに帰ってたとしても、違和感を感じるレベル。


「おかえり、ユカナ。早かったね」


 逆にシュリは平然としてる。ううむ。シュリはさすがだな。優姉と違って顔の赤みもない。


「うん。先生が臨時呼び出しされちゃって。ゆーねー、今日の晩御飯は?」

「んー、まだ決めてないわ。これから買い物に行ってくるわね」

「おっ、んじゃ私荷物持ちしてあげるー」


 とりあえず優姉についていこ。この部屋でシュリと二人きりは気まずくなりそうだ。


「お願いするわ。じゃあシューちゃん、行ってくるわね」

「うん。行ってらっしゃい。続きはまた今度ね」

「え、ええ」


 そのやりとりに、どきっとした。どきっとして、何だか胸が痛い。


「行ってきまーす」

「ユカナも行ってらっしゃい」


 優姉とシュリに隠されてる。そりゃ、そう簡単に言えるものじゃない。それに人間、どんなに仲良くったって、隠し事のない人なんていない。

 でも、優姉に隠し事をされていたのは、何だかすごくショックだ。


「ねー、優姉、ハンバーグ食べたい」

「仕方ないわね」


 だからつい、甘えた声をだしてしまう。許されたことにちょっとほっとした。


 優姉には悟られないよう、とにかく今の出来事について考える。


 優姉はシュリと付き合ってるのは事実だろう。でもそんなの全然気づかなかった。優姉ほんとにシュリのこと好きなの?って、嫌いならキスしようとしないしそもそも付き合わないか。

 でもさ、でも納得いかない。恋人とか特別じゃん。私よりシュリのが特別なわけ?


 付き合ってるというなら、そりゃキスしても仕方ないかも知れない。でも、嫌だ。私よりシュリが優姉と仲良くなるのは嫌だ。

 馬鹿な、子供っぽい嫉妬だと思った。優姉がシュリのこと恋人として好きなら私がどうこう言えるものじゃない。そんなのわかってる。

 でも、嫌だ。嫌なものは嫌だ。私は優姉の一番がいい。シュリとキスなんてしてほしくない。

 でも今回たまたま阻止できたけど、2人っきりになる機会なんていくらでもある。防ぐなんて不可能だ。どうすれば………あ、そうか。

 私が先に優姉にキスすればいいんだ。そうすれば、私が一番だし、シュリも二番目ならキスさせてあげてもいい。


 名案だ。うんうん。問題はいつキスするかだなぁ。シュリより先にしなきゃ。


「結花奈、急に立ち止まって何頷いてるのよ。いいから半分持ってよ」

「はいはい。OK」











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