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「ん?」
遠くに声が聞こえて、思わず我々の足は止まる。階段を下りた曲がり角の先に、誰かがいるようだ。原住民との初遭遇を前にして、我々は身をただした。
「いいから。ナレーションはもういいから。面白くないし」
「えー、面白いのに。面白くない?」
「んー、よくわからない」
シューちゃんにも不評なようなので、仕方なくやめることにする。
とりあえず黙って角を曲がる。事前情報ではここに一番重要な研究室っぽいものがあるらしい。
「だからこの部屋の責任者は私だ」
「価値がわからない人間が責任者だなんて馬鹿げている」
何だか言い争っているらしい。なんだろう。
振り向いて首を傾げた私に、結花奈がため息をつきながら、歩き出した。
「ちょっと待ってて」
私に手を向けて、結花奈は二人に近づいた。シューちゃんも頷いてるし、知り合いだろうか。
「先生、なにやってんですか?」
「おおっ、ユカナ君!」
「なんだ、お前は。今は大人の話をしているんだ。子供はどこかへ、いやまて、そもそも子供がこんなところへ入ってくるな」
ふぅむ、どうやらあの人が結花奈の雇い主らしい。もうひとりのおじさんは知らないけど。
「子供子供とうるさいな。おっさん、先生とどっちが正当な管理者になるべきかでもめてたんでしょ。多いんだよね、そういうの」
「お前には関係ないだろう。仕事が終わったら街まで送ってやるから一階にいなさい」
「いらねーよ。地味にいいやつか。私はこいつの代理人として、あんたに勝負を挑む。よりこの遺跡の管理者としてどちらが相応しいか、勝負だ。私に勝てたら、先生からあんたに権利を譲らせる」
「……お前の意志か?」
「はい。私はこの子を代理人として認めます」
「わかった。ならば受けよう」
何だか面倒な展開になってきた、と私は他人事に思いながらも様子を伺い続ける。
「しかしどうやって決めるつもりだ?」
「簡単だよ。よりここの価値を理解し、より詳しく、そしてより、この遺跡に認められていることだ。あんたにハンデをあげる。なにで勝負したい?」
「……では、古代語の理解度でいこう。これができなければ、調査など夢のまた夢だからな」
「馬鹿だね、一番簡単なのにしちゃって。じゃあ手っ取り早く、古代語の問題を出し合おう。答えられなかったら負け。いい?」
「ああ。では私からだ。まずは小手調べ。魔法は古代語でなんという?」
「『魔法』」
え? な、なに今の。結花奈があきらかに、まほう、とは違う発音だったのに魔法と聞こえた。どうなってるんだ。
「簡単すぎ。じゃあ次は私ね。『美味しい料理の作り方を紹介しますが、もっとも重要なものは愛です。愛情たっぷりかけて手間をかけてこそ料理は美味しくなります。挫けず怠けず、がんばってください』を訳して」
なにそれ。そういや料理本も訳したとか言ってたけど、なんてとこからだすのよ。遺跡関係ないし。そして聞こえる音と認識が違うのって凄い気持ち悪い。
「なっ、………いい、作り方、見せる。しかし、一番大事なのは……て、適当な単語を言ってないだろうな!?」
「言ってないし。わからないなら私の勝ちだよ。古代語に理解が深い私の方が相応しい」
「……いいだろう。今お前が言った言葉をここに書け。そして訳も書け。確認する。正しくなかったら、わかってるだろうな?」
「どうぞ」
「ふむ…ってなんだこの文章は!? ふざけているのか!?」
「本気だよ。古代語ったって、昔の人は普通に使ってたんだから、普通の言葉だってあるよ。当然でしょ」
「ぐ………確かに、古代魔法のための単語や文章に限定はしていない。しかし、何故わかるんだ? そんな言葉が翻訳されているはずがない」
「内緒」
「なっ……いや、私が悪かった。ではこれは預からせてもらう」
おじさんは悔しそうな顔をしながらも、大人しく階段を降りていった。
はー、しかし結花奈、物怖じしないわね。
よくあれだけ堂々としていられるものだ、と感心する。古代語が凄く難しい言葉なのも今のでよくわかった。きっと魔王を倒すために必要な魔法を取得するのに必須だったから、頑張って覚えたんだろう。すごいなぁ。
小さな体のままだけど、あんな風に堂々と己の力を示して納得させることができるなんて、びっくりだ。
大きくなったなぁ。結花奈はもう、子供だ子供だと言えない。前にも同じように思ったけど、こうして目の当たりにすると実感する。何だか寂しいような。だけど頼もしくて、うん、嬉しい。
私は寂しくさで少しだけ胸が苦しくなったけど無視をすることにした。子離れを否定してはいけない。
「いや、助かったよ、ユカナ君」
「しっかりしてくださいよ。私今日休みなんですから。2人とも、もういからこっち来て」
呼ばれたので近寄り、先生に挨拶をする。
「初めまして、結花奈の姉の優子です。結花奈がいつもお世話になっております」
「いや、お姉さんでしたか。いえいえ、こちらこそ、ユカナ君にはいつも頼らせてもらってます」
「先生、見学するけどいいですよね?」
「もちろん。じゃあ、邪魔にならないよう下に降りているよ」
「そこまでしなくても……」
先生は結花奈の静止も聞かず、さっさとさっきのおじさんを追うように去っていった。
結花奈は頭を一つかいてから、にかっと誤魔化すように笑って振り向いた。
「ま、いいか。ほら優姉、独占だよ」
「え、ええ」
言われて入った研究室は、真ん中に大きな、ガラスで覆われた植木鉢みたいなものがある。植木鉢といっても、中の植物は木で、本当に大きい。
土台から左右に伸びた部分は壁まで繋がっていて、細々した細工みたいなのがされてる。植木鉢装置を中心に床には大きな魔法陣がかかれているけど、読めない言語で書かれている。これが古代語か。私も今の勉強に行き詰まったら教わろう。
植木鉢装置の向こうには本棚とデスクがあって、研究室らしいつくりだ。
「へー、変わった部屋ねぇ」
他の部屋にも色々と変わったものはあったけど、この部屋は格別に変だし、装置っぽいものが確かに、研究室という雰囲気をだしていた。
「なんの装置なの?」
「さあ? 知らね。私触ってないし」
「そうなの?」
「うん。専門家以外は危ないから駄目なんだって」
「今や私ほどの専門家もそうはいないと思うんだけどねぇ」
「でもこれが何かはわからないんでしょ? 危ないことはしないほうがいいよ」
「それもそうか。優姉、一通りみたら他回るよ」
「でももう他はそう変わったところはないし……外でのんびりする方が好きだな」
「そうね。じゃあ、また上に戻ってのんびりしてから、帰りましょうか」
とりあえず、遺跡についてはよくわからないけど、結花奈の成長もみれたし、そこそこ楽しかったから十分ね。
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