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「わー、見晴らし凄いわね」
屋上についておっかなびっくり足を着ける。はー、たっかーい。
塔の高さはもちろんのこと、周りには建物なんてない、自然が広がっていて、手前の山の向こうの湖や、街とは反対側の奥の草原も見える。もっともっと奥へ奥へと、さらに森と山々は広がっている。
思わずくるり、くるりと回転して大パノラマを堪能してしまう。
「なーに回ってんのさ」
さっさとシューちゃんを回収しにいった結花奈が素早く戻ってきた。もちろんシューちゃんを抱いて。
「きてよかったね」
「ええ! さっそくお弁当にしましょう。いやー、こんなに景色がいいところで食事なんて初めてじゃない?」
「テンション高いなー、高いだけじゃん」
二人はすでに経験してるからか、ややさめている。むー、なによ。まるで私が馬鹿みたいじゃない。いいわよいいわよ。一人でもテンションあげるわよ。
「それがいいんじゃない。さ、シートひくから手伝って」
「うん、私こっち持つね」
「はいはい」
使わない時はなんとハンカチサイズになる、五メートルまで伸縮自在のレジャーシートをひろげる。しかも丈夫で防水、防温というすぐれもの。いやー、毎月思うけど、これ買ってよかったー。
シートをひろげて、端に荷物を置く。生地同士をくっつけて簡易桶みたいにもできるけど、あいにく風でめくれない機能はないので四方には重石がいる。
「よし、じゃあ手を……あ、魔法使えないんだっけ。どうしよう?」
「手を綺麗にすればいいの?」
「ええ」
頷くと結花奈はジャンプしてから飛行魔法でそのまま浮かんだ状態でとまり、私たちの手に魔法をかけた。そして自分も綺麗にしてまたシートに着地した。
「いちいち飛ばなきゃいけないのはちょっと不便ね」
「いやいや、普通飛行魔法使えないから、私のこともっと褒めてもいいんだよ?」
「えらい、えらい」
シューちゃんが結花奈の頭を撫でる。なんとも微笑ましい。
「いやー、それほどでも。って、シュリに褒められてもなぁ」
「嫌?」
「嫌ではないけど、妹に褒められてもなー」
「じゃあ姉になろうか?」
「却下」
ううむ、しかし、二人が仲良くなりすぎるとちょっぴり疎外感。ジェラしっちゃうなー。いやいや、そんなんじゃいかんですよ。
「それじゃ、ご飯にしましょうか」
「はーい」
「うん」
○
「ふー…風が気持ちいいわねぇ」
ご飯を食べ終わり片付けて、お茶を飲みながら一息つく。うららかな陽気に、爽やかな柔らかい風。
そしてなんと言っても、この絶景。この風景を私たちだけで独占してるのが勿体無いくらいで、贅沢な気持ちになる。
「そうだね。ふわ、ぁー、あ、なんか眠くなってきちゃった。優姉、膝枕して」
「いいけど私も寝転ぶわよ」
「うーん、まぁいいか。よし、じゃあシュリは優姉膝枕してよ。シュリには私がしてあげるから」
「わかった」
「いや、それどんな体勢なのよ」
「仰向けならいける。ほら、やるよ」
「はいはい」
やってみた。うーーん、悪くない。
空しか見えない世界に、柔らかくて気持ちいい枕があって、少しくすぐったいけどあったくて温もりを感じる物が太ももにのっているのも、何だか落ち着く。
「はー……」
雲が流れていく。手前の雲は奥の雲より早い。じっと見てると、雲の動きがすごく早く見えてきた。
普段ちらっと空を見ても雲は動いて見えないのに、じっと見てると実は早いというのがわかる。そういうのが、実は結構好きだ。
あー、羊雲だ。あれ可愛いけど、広範囲で向こう側が見づらいのが欠点よね。
「…すー、すー」
「くー、くー」
ふいに二人の寝息が聞こえてきて、意識が空から戻ってくる。ああ、そう言えば、私もなんだか眠くなってきた。
「……おやすみ」
目を閉じると、いっそう肌を撫でていく風を鮮明に感じる。まぶたの裏まですけてくる日差しも、柔らかく私を包み込んでくれて、すぐに私も眠りに落ちた。
○
「んー! はーぁ、よく寝た、と」
「んん……」
結花奈の声で目を覚ます。起き上がって腕を上げて伸びをする結花奈を見ながら、あくび混じりに起き上がる。
「ふわぁ、今何時ぃ?」
「さあ? 日の位置を見るに、一時間くらいは寝てたんじゃない?」
「そんなに?」
「ちょうどいいくらいだよ。ほら、そろそろ起きよう」
結花奈の言葉に頷きつつ、まだ私の太ももの上に頭を乗せて眠るシューちゃんの肩に手を伸ばす。
「シューちゃん、起きて、朝よ」
「いや、昼だよ」
「いちいちうるさいわねぇ。はいはい、ひーるでーすよー」
「ん……おはよう、ユウコ。おはよう、ユカナ」
「はい、おはよーさん」
「おはよう」
起きたので荷物を片付けて、今度は上から塔を見学することにした。
「さぁ、第2回遺跡探検ツアーに出発よ」
「しゅっぱーつ!」
「おー」
「……のりのりね」
「優姉がふったくせになに引いてんの」
ひいてはいないわよ。
私は改めて屋上の唯一の出っ張りであるドアへ向かう。
さて、気を取り直して出発だ。
私たちは前人未到の遺跡へと再び足を踏み入れた。いったいどんな未開の生物が住んでいるのか、どきどきである。
「いや前人未到でもないし、生物が住み着いたりもしてないから」
「ちょっと、ナレーションに無粋なツッコミをいれないでよ」
「むしろこっちがちょっと、なんだけど。なにいきなりナレーション始めてんのさ」
「ユウコ、今日はいつにもましてテンション高いね」
「そう? こんなもんでしょ。いつもより馬鹿っぼくはあるけど」
「そうかな……そうかもね」
「はいそこ! お姉ちゃんを馬鹿にするのは許しませんよ!」
「へいへい。とりあえず奇行はやめて」
なによぅ。あんまり遺跡っぽくないから、ちょっと気分を高めようもしただけなのに。そんなに不評なんて傷つくわ。
○




